18-11 神楽殿
瀧祭神を後にし、山本さんの誘導に従って隊列を組んで進んで行く。
『内宮は右側通行』
こうした立て札が所々に見受けられ、参拝客 or 観光客は素直に従っている。
第二鳥居で一礼してしばらく進むと、通りの向こう側に人が集まっているのが見えてきた。
右側通行で歩く俺達の列と、反対方向に向かう対向側の人の列。
見えてきた人の集まりは、対向側の人の流れを吸い込み、そして吐き出している感じだ。
「山本さん、あの人の集まりは?」
「あれは神楽殿です」
足並を緩めて参拝客 or 観光客の流れから外れると、山本さんが目の前に見える神楽殿の説明を始めた。
「神楽は神霊を招く座を中心にして行われる神事舞踊のことです。 こうした宮中で行われるものを『御神楽 』といいます」
そこまでの説明を聞き、俺は天岩戸の神話で里依紗さんが語った話を思い出した。
天照大御神が天岩戸に隠れた際に、
〉鶏を鳴かしたりして
〉天照大御神の気を引いて
〉少しだけ岩戸を開けさせる
もしかして『御神楽』は、天岩戸の前で神様達が集まって踊ったのが起源じゃないのか?
「御神楽の起源は、天岩戸の前で天宇受売命が舞ったものであると伝えられています。これに儀式としての作法が定まり、現代の伊勢に引き継がれているとお考えください」
俺の予想が当たっていた。
パタパタ
山本さんの説明に親衛隊が扇子パフォーマンスで応えている。
「この神楽殿は、そうした神様へ捧げる舞を踊るための舞台です」
相変わらず山本さんはスラスラと説明をこなしている。
山本さんが流暢に説明をするのは良いのだが、それを聞いている俺達がツアー客な感じになっている。
山本さんの説明を受ける俺と彼女、親衛隊の御三方、細マッチョ2名に運転手さん、その後に参拝客 or 観光客が数名。
参拝客 or 観光客の中には、先程の瀧祭神で見掛けた方も混じっていた。
う~ん⋯
これじゃあ山本さんがツアーガイドだ。
山本さん、本業を忘れてないか?
思わず要らぬ心配をしてしまう。
「内宮はご覧の通りに右側通行です。神楽殿は、この先の正宮へお詣りしてからです」
山本さんの声で俺達一行は、再度、足を進め始めた。
すると俺と彼女の前を歩く親衛隊の正美さんが、チラリと後を見ながら呟いた。
「最近の若者は、ああした出で立ちでお詣りに来るんじゃな」
その視線の先を追うと俺達一行に続く参拝客 or 観光客数名に混じって天使さんと見習い女神さんが見えた。
二人とも淡路島の実家を訪れた時と同じ服装で、執事服とメイド服だ。
親衛隊の正美さんは、その装いに違和感を受けているのだろう。
後に向けた視線のまま、俺達の隊列を見直すと
前衛 細マッチョ1号
同行 山本さん、金次さん
同行 源三さん、正美さん
2番手 俺と彼女
後衛 運転手さん、細マッチョ2号
同行 参拝客 or 観光客2名
同行 天使さん、見習い女神さん
同行 参拝客 or 観光客2名
こんな感じになっていた。
前方には紋付き袴姿が3名、後方には制服姿の運転手さん、それに続く参拝客 or 観光客に混ざって執事服とメイド服。
俺達一行がコスプレ集団に思えてきた。
(親衛隊な方々の紋付き袴もコスプレに見えるな⋯)
(プププ)
彼女へ囁くと笑い声が漏れてくる。
(センパイ、いいんですかね?)
(ここで俺達から何かする方が不味いと思う)
俺達一行の後で、参拝客 or 観光客に紛れて着いてくる天使さんと見習い女神さんを彼女が気遣う言葉を囁く。
あの方々の同行に、俺は知らないふりをしようと提案する。
(じゃあ、センパイを真似て、あの二人とは会話禁止で(笑)
(ハハハ⋯)
彼女の切り返しに小声で笑っていると、左側に開けた感じで広く低めの石階段が続くのが見えてきた。
その石階段を登りきった場所に鳥居が見える。
「山本さん、あの鳥居が正宮ですか?」
「はい、あれが正宮です」
山本さんへ声を掛けると、思ったとおりの答えが返ってきた。
ここで参拝客 or 観光客が増えてきたのか、警備員な方が人混みを整理し始めている。
その警備の様子は、石階段を降りてくる人数を見ながら、正宮と呼ばれる鳥居へ向かう集団を警備員2名で人数制限している感じだった。