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門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月6日(木)☁️/☁️
258/279

18-10 瀧祭神


 彼女の囁く小声で、今の俺達の側に天使アマツカさんが居ることを確信した。


(由美子、気づかないふりして)

(はい、気をつけます)


 そんな会話をして手水舎を後にし、第一鳥居だいいちとりいで一礼して先に進む。


 先ほど参集殿で天使アマツカさんを見かけたことに驚きはした。

 だが俺は、天使アマツカさんが山本さんに見つからないことを気にしてしまった。


 『国の人』の眼鏡さんは『神様の存在』を追いかける部隊だ。

 1ヶ月前にそこに異動した山本さんも当然ながら同じ部隊だろう。

 俺や彼女が天使アマツカさんに気がついて声を掛けたりしたら、山本さんが何かに気付くかもしれない。


 この伊勢に来る車中で山本さんが口にした言葉を思い出す。


〉私たちが誰かと接触したら

〉我々の業務に関わりそうなことは、

〉即時報告を厳命されております


 なぜか今日ここで、山本さんが業務を優先するのは避けて欲しい思いがする。

 それに天使アマツカさんは、俺が『魔法』を使える切っ掛けを与えてくれた人だ。


〉二郎さん、まずは信じる事です

〉これからの二郎さんが楽しみです


 そうした言葉で俺を気遣ってくれた方だ。

 彼女も『随分と助けてもらいました』と恩を感じている方だ。

 そんな方を『国の人』の『神様の存在』を追いかける部隊に知らせる気にはなれない。


 彼女と腕を組みながらそんなことを考えて隊列の進むままに任せていると、目の前に開けた川面が見えてきた。


「ここが御手洗場みたらしばです。ここでもお清めができます。ただし水質の問題もありますので口は清めないでください」


 山本さんの説明を聞いていたら、親衛隊の3人はさも当然のように川面で手を洗っていた。

 さっきの手水舎での山本さんに甘えた様子が全く消えていた。

 その切り替えに、元とはいえ『伊勢の門の守人』としての矜持きょうじを見た気がする。


「次は瀧祭神たきまつりのかみです」


 山本さんの案内に素直について行くと、木の板で囲まれているだけなのだが、厳かな装いの前に連れて行かれた。


「この先に向かう正宮せいぐうには、天照大御神あまてらすおおみかみが祀られています。その天照大御神あまてらすおおみかみに取り次いでいただくのが、この瀧祭神たきまつりのかみです」

「なるほど、神様に取り次ぐ役目をしてくれる神様なんですね」


 山本さんの説明に頷きながら聞いていると、彼女が自身の解釈を口にしてきた。

 神様の前で不謹慎ながら、山本さんや眼鏡さんはどちらの神様に会いたいのだろうかと考えてしまう。


「お賽銭をあげてもいいですか?」

「はい、伊勢神宮は『私幣禁断しへいきんだん』で天皇が幣帛(へいはく=捧げ物)を供進(奉納)して、国民の平和や健康、弥栄を祈願する場所としての見方があり、一般の我々が金銭などを奉納することが禁止とされています」


「「⋯⋯」」

「ですが、このとおり瀧祭神たきまつりのかみは賽銭箱があります。お賽銭を入れ取り次を願ってください」


 そこまで聞いた彼女がカゴバックから心付け用に包んだポチ袋を取り出した。

 一瞬、それを入れるの?

 と思ったが⋯


「大事な神様に取り次いで貰うんです」


 そう言って彼女は俺にウィンクして、あっさりと賽銭箱に入れた。

 俺はお賽銭で1万円を入れるのを初めて見た気がする。


(婚約と結婚の報告に来ました)

(由美子、聞こえてるぞ⋯)


(取り次ぎをよろしくお願いします)

(⋯よろしくお願いします)


 彼女と二人で真摯に祈った。

 だが、隣が少しばかり騒がしい。


「愛ちゃんも祈るんじゃ」

「トッツキ様は大事な神様じゃ」

「お賽銭はワシらが出すから」

「でも、仕事中ですから⋯」


「かまわん」

「ワシらが許す」

「二人も祈っとる」


 そう言った親衛隊は、懐からそれぞれポチ袋を取り出し賽銭箱に入れた。


「じゃあ、一緒に祈りましょう」

「「「おぉ~」」」


(なんか盛り上がってるね)

(そっとしときましょう)


 俺と彼女は祈りながらも、生温かく山本さんと親衛隊を見守った。


 お賽銭分の祈りを終え、改めて瀧祭神たきまつりのかみの囲いを見れば、数名の観光客が木の板の隙間から中を覗いている。

 俺も観光客を見習って板の隙間から中を覗いてみると、白い石が敷かれた中に三角錐のような石が見えた。

 もしかして、あの三角錐の石がご神体なのだろうか?


「あれがご神体なのかな?」

「みたいですね。撮影して良いんですか?」


「どうなんだろう?」

(アマツカさん達、撮影してましたよ)


(えっ?!)


 慌てて彼女の視線の先を見れば、天使アマツカさんと見掛けたことがある女性が腕を組んで歩るく後ろ姿が見えた。

 慌てて視線をそらし、小声で彼女へ囁く。


(見習い女神さん?)

(もしかしてメイドさん?)


(由美子は知ってるの?)

(ええ、以前にアマツカさんと一緒に⋯)


(隠岐の島で会ってるの?)

(ええ、隠岐の島でも会いましたし、さっきの休憩所でも会いました)


(⋯俺もあの休憩所でアマツカさんと会った)

(二人で見守ってくれてるんですね)


 板の隙間から中を覗きながら、俺と彼女はコソコソ話を続けた。


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