18-8 『愛ちゃんLOVE』
「『話を戻す』と言いますが、どの付近へ戻します?」
「「「「⋯⋯⋯⋯」」」」
(プププ
山本さん&御三方。
どこへ話を戻して、この会合をどうするかを考えてないの?
山本さんの言葉を借りてこの場の皆へ問い掛けたが、親衛隊の3人と山本さんが固まってしまった。
彼女は笑いを堪えてるし⋯
仕方がないので、まずは名乗りから始めようと思い俺から切り出した。
「変な質問になりますが⋯皆さんは私の名前をご存じですか?」
「知っとるぞ『門守二郎』じゃろ?」
「一郎さんと礼子さんの息子さんじゃろ?」
「零士さんと桂子さんの孫じゃな」
御三方から即答が返ってきた。
しかも一郎父さんや礼子母さんの名が出てくるし、零士お爺ちゃんとバーチャんの名も出てきた。
そこまで知られてるなら、名前を呼ばれることは問題ないだろう。
隣に座る彼女と目線を合わせ、彼女が頷くのを確認して応接に二人で座り直す。
「改めて挨拶させていただきます。門守二郎と言います。まだ名乗りをしておりませんので肩書きなどは無しとさせてください」
「同じく挨拶させていただきます。秦由美子と言います」
俺と彼女で紋付き袴な3人へ挨拶をすると3人も座り直した。
「改めまして、亀田金次じゃ」
「同じく宮川源三じゃ」
「同じく山添正美じゃ」
そこまで俺と彼女、御三方で挨拶を交わし場は和んだ。
その和んだ場に山本さんの声が続く。
「最後になりますが、山本愛です」
山本さんが挨拶すると御三方が再び扇子を開いた。
しかも『愛ちゃんLOVE』の文字を山本さんに向けている。
(プププ
由美子さん、笑っちゃ悪いよ。
ほら、山本さんの顔がひきつってるんだから。
「二郎君はワシらを覚えとらんか?」
「おいおい、それは無理だろう」
「いくらなんでも覚えとらんだろ」
名前を告げる挨拶と扇子のパフォーマンスが終わると、金次さんが問い掛けてきた。
それに源三さんや正美さんが無理だと返す。
その言葉に俺は『もしかして』の思いがよぎる。
「もしかして、祖父の、零士の葬儀で⋯」
「おお、思い出したか?」
「いえ、あの時は幼かったので覚えてないんです」
「そうじゃのう、ワシも正美も源三も居ったんじゃぞ」
その言葉に、この御三方に警戒していた自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。
もう『二郎』と呼ばれようが『門守』と呼ばれようが構わないと思い始めた。
俺は伊勢へ来て何に警戒していたかを考え直した。
まずは彼女に『伊勢の門』の守人の方々が、変なことをして来ないかを警戒していた。
彼女は『門』に関わる幾多の嫌なことを経験している。
そうした経験を二度とさせまいと思ったからだ。
進一さんや剛士さんから聞かされた変な守人、『神の守人』とか言い出す奴ら。
そうした奴らからの接触や接近を絶ちたかったのだ。
言わば『煩わしそうな奴ら』が、彼女や俺に何かをして来ると考えていた。
無理難題を要求してくると思っていた。
もしかして、この御三方は『煩わしい』派閥には属していな方々なのでは?
「変なことを聞いて良いですか?」
「ん?なんじゃ?」
「『神の守人』と言う言葉をご存じですか?」
「「「ハッハッハ」」」
その大きな笑い声に、この御三方は違うんだと感じる。
「連中なら言いそうじゃな、マー君」
「そうだね金ちゃん」
「二郎君、その言葉は連中が使う言葉じゃ」
御三方が互いを『マー君』『金ちゃん』と呼び合っている。
その様子に気を許した俺は、隠岐の島で抱いた『伊勢の門』の守人への疑問を続けた。
「じゃあ、未婚で当代を継ぐ話は?」
「継ぎたい奴が継げば良いんじゃ」
「それと婚姻は別じゃろ」
「ワシは子を成すことは大事じゃと思う」
この御三方は『煩わしい』派閥じゃ無いと確信した。
俺は確信を深めるため、更に言葉を続ける。
「継ぐ際に婚姻を条件にするのは?」
「二郎君は、由美子さんのような綺麗な嫁さんが嫌なのか?」
「綺麗だなんて照れますぅ~」
「「ハッハッハ」」
由美子さん、クネクネしないで。
「いいなぁお嫁さんかぁ⋯」
「「「⋯⋯⋯」」」
突然の山本さんの言葉に御三方が固まった。
「あ、愛ちゃん⋯」
「もしかして⋯」
「いい人が居るんか?!」
山本さん。
お願いだから事態を混乱させる発言は、今はやめて!
俺は脱線しそうな話合いを戻す質問をぶつける。
「今日ですが、自分が伊勢詣りすることは聞かれてるんですよね?」
「聞いとるぞ。しかも愛ちゃんが来ると言うではないか!」
「こんな機会を逃す手はなかろう」
「あの若造もそれを知らせてきた事だけは見直してやったぞ」
なるほど。
俺と彼女が伊勢に来ることを知ったのは、あのスーツ男が情報源だったのね。
ちなみに、複数名いるという『伊勢の門』の守人の方達、この御三方以外の方達はどうしているんだろう。
進一さんは『門を開けてやる』と意気込んで伊勢に来たはずだ。
その事を『伊勢の門』の守人な方々ならば知っていてもおかしくない。
俺はどう見られてるんだろう?
俺は進一さんのように『開けてやる』と意気込んではいない。
むしろ彼女と結婚することを神様へ報告に来ただけだ。
彼女や山本さんは『門を開けろ』と意気込んでいる感じはあるが⋯
「源三さん、今日は『伊勢の門』に誰かいるのですか?」
「奴らがやっとる」
「ワシらは来るなと言われたんじゃ」
「開いても開かなくてもワシらには関係ない」
おいおい。
その発言は元守人代表として、まずいんじゃないの?
それより俺がお詣りして、万が一『伊勢の門』が開いたらどうする気だ?
誰がどうやって閉じるんだ?
「けど、開いたら閉じないと⋯」
「奴らはそこまで考えとらんじゃろ」
「二郎君は開ける気なのか?」
「はい!センパイは必ず開けます!バーンと開けて本物だと証明するんです!」
由美子さん。
話が混乱するから乱入しないで。
「そういえば二郎君と由美子さん、今日は外宮は行っとらんだろ?」
「『外宮』?ええ、真っ直ぐにここへ来ましたが?」
急に源三さんから『外宮』という聞きなれない言葉を出された。
「門守さん、伊勢にはこの『内宮』と『外宮』があるんです。一般的には外宮をお詣りして次に内宮をお詣りするんです」
山本さんが説明すると、御三方が『愛ちゃんLOVE』の扇子をパタパタさせる。
その扇子の動きに応えて笑顔を見せた山本さんが言葉を続ける。
「二郎さんも由美子さんも、今日は伊勢への婚約の報告が目的ですので」
「まあ、それなら内宮だけでも悪くはなかろう」
「婚約の報告か⋯それなら⋯」
「そうじゃ!結婚の報告でまた伊勢に来るんじゃろ?!」
「おぉ、そうか!金ちゃんの言いたいことがわかったぞ!」
「結婚の報告の時には、愛ちゃんも一緒に来るんじゃよな!」
「愛ちゃん、もちろん来るよな!」
「え、えぇ来ると思いますが⋯」
「きゃーセンパイ!来ましょう!絶対来ましょう!」
お前ら、いい加減にしろ。
話が脱線ばかりで進まないだろ。