18-7 親衛隊
山本さんを先頭に参集殿の2階に上がると細マッチョ2号が廊下に立って待っていた。
「彼が案内しますので、部屋でお待ちください」
そう述べた山本さんは、案内を細マッチョ2号に引き継ぐと小走りに階下に戻って行った。
細マッチョ2号に案内された部屋は応接室で、6人掛の応接セットが置かれていた。
彼女の『スッゴク楽しい話が聞けそうですよ♪』の言葉に警戒を解き、俺と彼女は並んで応接に座る。
「由美子、何か聞いてる?」
「聞いてます。詳しくは山本さんから(ニヤニヤ」
彼女の笑顔を眺めながら山本さんの到着を待っていると、ドアがノックされ細マッチョ2号が顔を見せた。
「皆さんが到着しました」
その声に続いて『失礼します』と口にしながら山本さんが入ってきた。
山本さんに続いて『先代』と呼ばれた紋付き袴の男性が入ってきた。
一瞬、警戒をしたが、続けてもうお一方の紋付き袴の男性が入ってきて驚かされる。
更には、もう一名の紋付き袴の男性が入ってきて、合計3名の紋付き袴な男性が揃った。
俺は既に警戒よりも驚きが優先してしまった。
全員が揃ったのか細マッチョが応接室のドアを閉めた。
すると『先代』と呼ばれた紋付き袴の男性が口を開いた。
「アイちゃんは奥に座りんしゃい」
「ダメです。キンちゃんが奥です、マー君とゲンちゃんはそっちです」
『アイちゃん』?
『キンちゃん』?
『マー君』?
『ゲンちゃん』?
その言葉に驚き、隣に座る彼女を見れば「ニヤニヤ」と口角を上げている。
結果的に山本さんの勧めのとおりに皆が座り、俺の左側には『先代』=キンちゃんだ。
俺と彼女の向かい側に『ゲンちゃん』と『マー君』が並んで座り、山本さんは彼女の右側の末席に座った。
┏━━━━━┓
┃キンちゃん┃
┏━━━╋━━━━━╋━━━━━┓
┃俺 ┃ ┃ゲンちゃん┃
┃彼女 ┃ ┃マー君 ┃
┗━━━╋━━━━━╋━━━━━┛
┃山本さん ┃
┗━━━━━┛
皆が座ったところで、誰からともなく全員で会釈をする。
見るからに、紋付き袴の男性陣の全てがバーチャんと同年代だろうと判断し、年配者への敬意を表して俺から口火を切る。
「先ほどは失礼しました」
「かまわんかまわん、アイちゃんから聞いたぞ。大変じゃのう」
まずは『先代』=『キンちゃん』へ先ほどの同行許可に際しての無礼なやり取りを詫びると、また『アイちゃん』の言葉が出てきた。
「山本さんと面識があるようですが?」
「キンジ、話しとらんのか?」
俺からの問い掛けに、向かいに座る『ゲンちゃん』が追い討ちをかける。
「すまんすまん。奴の使いもおったし全員が揃ってからと思って言うとらん。マサミから話してくれんか?」
「わかった、ワシから話そう」
そう言って『マー君』いや『マサミ』と呼ばれた老人が扇子を取り出した。
すると同じ様にキンちゃんとゲンちゃんも扇子を取り出した。
「まずはこれじゃな」
その言葉を合図に
バッ
と、音をさせて3人が同時に扇子を開くと、そこにはこんな文字が書かれていた。
『愛ちゃんLOVE』
思わず山本さんを見ると、笑顔のようだが口元と目がひきつっていた。
(プププ)
由美子さん、笑い声が漏れてますよ。
「ワシがアイちゃん親衛隊隊長のマサミじゃ。『正』しく『美』と書く」
「おう、ワシがアイちゃん親衛隊代表のキンジじゃ。『金』に『次』じゃ」
「ワシは親衛隊筆頭のゲンゾウじゃ。『源』に『三』と書く」
御三方、『隊長』『代表』『筆頭』の違いを教えてください。
「山本さん、これって⋯」
「3月まで伊勢に居たときに3人にお世話になったんです」
「「「おぉ~ありがたい」」」
御三方、山本さんの言葉に喜ばないで。
「それが⋯淡路陵に異動になって⋯」
「そうじゃ!二郎君、言ってくれんか?」
「おお、ワシからも頼む!」
「そうじゃアイちゃんを伊勢に戻して欲しいんじゃ」
お前ら、ちょっと待て。
俺には何が何だかわからないぞ。
それに、今、俺のことを『二郎君』と呼んだぞ?!
◆
その後、山本さんから三人の説明を受けた。
御三方は、全員が以前は『伊勢の門』の『守人代表』を勤めていたそうだ。
『伊勢の門』では当代がおらず、守人の代表者が複数名いると言う。
目の前の御三方は、進一さんが『伊勢の門』を開けたことを機会に、後任に代表を譲り引退したそうだ。
そこまで説明が進むと、御三方が頷きながら山本さんを誉める言葉が続く。
「うんうん。愛ちゃんはワシらのことをよう理解しとる」
「愛ちゃんの上司とは雲泥の差じゃ」
「さっきの奴も使えんから追い返したぞ」
「「おお、よくやった!」」
なんか老人が孫を可愛がる感じで山本さん=『愛ちゃん』を称える。
まあ、山本さんが御三方から可愛がられているのが良くわかった。
それよりも進一さんの名が出たのが気になる。
チラリと隣に座る彼女を見れば、胸を張り背筋を伸ばし、かなり自慢気だ。
その様子に俺は安心して、彼女が話しに出た進一さんの妹だと知っているかを聞いてみる。
「では、こちらの⋯」
「知っとるぞ、進一さんの妹さんで由美子さんじゃろ?」
「「うんうん」」
源三さんが答え、正美さんと金次さんが頷く。
「吉江さんはお元気か?」
「保江さんはお元気か?」
「美江さんはお元気か?」
「ええ、みんな元気ですよ」
御三方の怒涛の質問に、彼女が朗らかに答える。
「「「京子さんは!」」」
おいおい、三人でハモってますよ。
ウゥン
山本さんが咳払いをすると、それまで秦家の女性陣の名を口にしていた御三方が慌てだした。
「いや、アイちゃん、違うんじゃ」
「アイちゃん、ワシはアイちゃんだけじゃ」
「ワシもじゃ、アイちゃん一筋じゃ」
3人の言葉を聞いた山本さんが諭すように告げる。
「話を戻しましょう」
「「「はい」」」
山本さんの言葉に、御三方が大人しく返事をした。