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門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月6日(木)☁️/☁️
254/279

18-6 参集殿


「センパイ、すごく綺麗です」

「おお、こりゃ絶景だな」


 五十鈴川いすずがわに掛かる宇治橋うじばしを彼女と腕を組み進んで行く。

 まさしく神域と呼べるほどに、非日常的な景観が目を楽しませてくれる。


 宇治橋の中ほどで少しばかり足を止め、彼女とその景観を楽しむ。

 五十鈴川の清流とその先に続く新緑に覆われた見事な山並み。


 聴こえてくるのは共に橋を渡る観光客な方々が、この景観を称賛する声。

 五十鈴川のせせらぎがから聞こえる静かな水の音が、観光客の声のBGMになっている。

 まるでこの風景は、俗世の人々が神域に御座おわす神様へ挨拶をするために列を成して詣でているようだ。


「橋の両側に鳥居があるんですね」

「先ほどくぐってきたのが宇治橋鳥居 外側そとがわで、今向かっているのが宇治橋鳥居 内側うちがわと呼ばれるものです」


 橋の先に見える鳥居に目をやりながら、彼女が山本さんに問い掛けた。

 問い掛けられた山本さんは、スラスラと答えている。


「山本さんは伊勢神宮に詳しいのですか?」

「前の配属が伊勢だったので、それなりに学びました」


「では、宿に突撃してきた元上司というのは⋯」

「ええ、ここ、伊勢に居た頃の上司です」


 俺の想像が的中して行くのを感じる。

 山本さんの以前の配属先は、この伊勢だったとわかった。

 だとすれば、後に同行している紋付き袴とスーツ男とも面識があるということか。


 橋を渡り切る前で観光客の進み具合が緩やかになる。

 参列する皆が宇治橋鳥居 内側うちがわの前で一礼するからだ。

 俺達の隊列も周囲を見習い、一礼して内側の鳥居をくぐると、細やかな砂利の敷かれた参道となった。


「はい、山本です。聞こえてます」


 砂利道の参道を進む足音に交じり山本さんの声がする。

 声の主の山本さんがハンズフリーに手を掛ける。

 山本さんの隣を歩く細マッチョ1号もハンズフリーに手を掛けている。

 後を歩く細マッチョ2号を見たが、同じ様にハンズフリーに手を掛けている。

 3人とも手を掛けているのだが何も話をしていない。

 山本さんと同じ様にハンズフリーから届く音声に、意識を向けているのだろう。


「ちょっと失礼します」


 そう述べた山本さんは、後に同行している紋付き袴の横に小走りに向かい、何かを話し始めた。


「センパイ、気になります?」


 彼女が囁くように聞いてきた。


「ああ、気になるね」

「山本さんが気になるんですかぁ?」


「いや、あの『先代』と呼ばれた方と山本さんの繋がりが気になるんだよ」

「気にし過ぎじゃないですか?」


「そうかな?」

「だってお爺ちゃんの顔が嬉しそうですよ(笑」


 そう言われて、後方をチラリと見れば、紋付き袴と山本さんが笑顔で何かを話していた。

 ふと山本さんと目が合うと、紋付き袴に軽く会釈して小走りに俺の隣に戻ってきた。


「すいません。小休憩を入れます」

「小休憩?」

「センパイ、私もちょっと休みたいです」


 彼女の言葉に『トイレ休憩』だと俺は察した。

 言われてみると、俺ももよおして来た。


「山本さん、近くにあります?」

「ええ、少しルートを外れますが参集殿さんしゅうでんがあります」


 そう述べた山本さんの案内で、俺達一行は参集殿さんしゅうでんへと向かった。



 参集殿とは伊勢神宮の内宮にある、参拝者用の「無料休憩所」だと言う。

 建物が全面ガラス張りで、建物内部に十分な外光が入る造りになっている。

 建物内部には長椅子が置かれ、多数の参拝者が休憩でき、無料の冷水やお茶を得ることができる。

 もちろん目的のトイレも備えられている。


 そんな参集殿に入り、トイレで用を済ませる。

 同じく用を済ませに行った彼女を待っていると、細マッチョ1号が話し掛けてきた。


「すいません。別室で山本がお話しがあるそうです」

「別室?」


「ええ、2階に手配しております」

「わかりました。彼女も一緒にですよね?」


「その方が良いかと⋯」


 頷ける返事だった。

 警備部隊の彼からすれば、俺と彼女が一緒の方が警備はしやすいだろう。


 細マッチョ1号とそんな会話をしていると、用を済ませた彼女と山本さんが合流した。

 彼女の顔を見れば、何故だか口角が上がっている感じがする。


「センパイ、お茶にしましょう(ニヤニヤ」


 そう言ってきた彼女の声は、明らかに弾んでる感じがする。

 語尾に『ニヤニヤ』が着いてるし⋯


 その様子から、山本さんと何か良い話があったなと察した俺は、彼女にではなく山本さんに声を掛ける。


「山本さん、楽しいお話しですか?」

「スッゴク楽しい話が聞けそうですよ♪」

「え、えぇ⋯」


 俺は山本さんに問い掛けたのに、彼女が返事をして来た。

 山本さんは、彼女の様子に思案顔を見せた。


「大丈夫ですか?」

「多分、大丈夫です」

「(ニヤニヤ」


 出た!

 これは女性特有の『大丈夫です』だ。

 『多分、大丈夫です』=「かなり厳しいです」そんな意味のある言葉だ。

 だが山本さんの隣に立つ彼女は相変わらず口角をニヤつかせている。

 そんな彼女の様子からして、彼女は何かを知っているとわかる。


 口角を上げる彼女

 少し戸惑いのある山本さん


 この様子からすれば、格段に警戒する必要は無さそうだと判断した。


 紋付き袴やスーツ男、それに運転手さんが見当たらないのに気付き、細マッチョ1号に問い掛ける。


「あの『先代』と呼ばれた男性と、連れの方は?それに運転手さんは?」

「まだ戻られていませんね。戻られたら、私が案内します」

「先代は参加しますが運転手さんと彼は不参加です。お二人には少しお待ちいただくかもしれません。丁重にお願いします」


 俺の問い掛けに細マッチョ1号が答えると、山本さんが指示する言葉を被せてきた。


「では、2階に行きましょう」


 山本さんが意を決した声で、俺と彼女を案内する申し出を自ら口にした。


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