18-4 参戦
彼女と共に宿のフロントロビーに行くと、御主人と女将さんが待ち受けていた。
御主人と女将さんは何度も申し訳ありませんと頭を下げてくるが、このお二人に落ち度があったわけではない。
むしろ山本さんと協力して、俺と彼女に何事も起きぬように守ってくれたのだ。
これだけ頭を下げられると、逆にこちらが恐縮してしまう。
いつまでもここに居ては、謝罪の言葉が延々と続きそうなので、早々に宿を後にする事にした。
「またのお越しを心よりお待ちしております」
定番ともいえる言葉で送られ宿を後にする。
俺と彼女の荷物は細マッチョが先に運び出してくれた。
山本さんも様子見のために細マッチョと共に先に宿を出ていった。
俺と彼女で駐車場へ行くと、運転手さんが荷物を入れ終わったらしくトランクを閉めているところだった。
山本さんと会話していた運転手さんが俺達に気付き、帽子を脱いで挨拶してきた。
「おはようございます」
「「おはようございます。今日もよろしくお願いします」」
元気に挨拶を交わして車に乗り込む。
俺と彼女が乗り込むのを見届けた山本さんは、乗り込む前に片手を上げて細マッチョに合図をする。
合図と共に細マッチョ二人が乗用車に乗り込んだ。
山本さんが助手席に乗り込むと運転手さんが声を掛けてくる。
「シートベルトの着用をお願いします。それでは伊勢神宮の駐車場まで⋯出発します」
そろそろと黒塗りの車が動き出すと、それに合わせて細マッチョの車も動き出した。
細マッチョの車が先に進み、俺達の乗る黒塗りの車が後に着く形での走行となった。
山本さんは、今朝訪れた元上司は駐車場に一旦下がったと言っていた。
その駐車場に待ち伏せがなかったことに安心したのか、彼女が山本さんに問いかける。
「山本さん、元上司とは決着が着きましたか?」
「はい、門守さんの意向を私から伝え、上司からも念を押しました。最終的にお二人には接触しないと元上司が明言しました」
「ありがとうございます」
彼女の問いに山本さんが朗らかに答え、それに御礼の返事をする彼女も朗らかだ。
彼女が少しでも安心できるなら、俺としてはそれで良いと考えることにした。
だが、山本さんの返事で気になることがある。
眼鏡さんの位置付けが気になるのだ。
眼鏡さんが、山本さんの元上司に念を押して引き下がった感じがする。
いや、考え過ぎか。
俺の希望が通ったのか?
だが、朝から突撃してきたほどの元上司だ。
「山本さん、元上司さんは当代や守人に優しい方⋯そうですね当代や守人の希望を受け入れてくれる方なんですね?」
「それは⋯」
俺からの質問に山本さんが言い淀んだ。
その様子から、眼鏡さんからの念押しの方が有効だったのだと判断した。
「山本さん、内宮に近い宇治橋鳥居の駐車場ですよね?」
「はい、駐車場が終日予約されていますので、運転手さんも参拝できますよ」
「そうですか、それはありがとうございます」
運転手さんの詳細な行き先の確認に山本さんが応えた。
駐車場を終日予約?
伊勢神宮行きを告げたのは昨日の朝だよな。
車の手配をして⋯
宿の手配をして⋯
参拝している間の駐車場も予約する。
こうした手配の手腕に見事さを感じるが、今日は一応平日だが世にいうGWの最中だ。
そんな時期に、よくぞここまで手配を出来たものだと考えるのが正しいだろう。
やはり『伊勢の門』の守人な方々の力や縁故を使ったのだろうか?
今回の手配に『伊勢の門』の守人な方々の力が使われたことで、昨日の面会希望の来客が宿を突き止めたのでは?
今朝の山本さんの元上司も、同じ様な流れで宿を突き止めたのでは?
だとすれば、俺と彼女の予定は『伊勢の門』の守人に筒抜けになっていると考えるのが妥当だろう。
やはり警戒は解けそうもない。
◆
伊勢神宮と言えば有名な鳥居がある。
朝陽の中で鳥居の先に木製の橋が見える『宇治橋鳥居』だ。
その宇治橋鳥居が見えてきたところで、車はロータリーから駐車場に入って行く。
車のフロントガラスや窓から駐車場を見渡せば、この黒塗りの車と同じ様な車が数台停まっているのが見える。
ほどなくして車が停まり、運転手さんが声を掛けてきた。
「到着しました、お疲れ様でした」
「運転手さん、ありがとうございます。お二人は申し訳ありませんが、暫くお待ちください」
運転手さんの声掛けに山本さんが応える。
隣に駐車した細マッチョの車から二人が降りて来た。
二人が周囲を確認し、一人が山本さんの座る助手席側の窓ガラスをコンコンとノックする。
山本さんがドアを開けて降り、細マッチョと少し会話しながらスマホを取り出し、3人全員が耳にハンズフリーイヤホンを装備した。
その様子を見ていると、対面に停まっている黒塗りの車の助手席からスーツ姿の男性が降りてきた。
片手を上げて挨拶するように、山本さんに向かって真っ直ぐに歩いてくる。
細マッチョの一人 (細マッチョ1号と名付ける)と山本さんが前に出て、スーツ姿の男性 (スーツ男と名付ける)を俺達の乗る車に近付けないように立ち塞がった。
その様子を一緒に見ていた彼女が俺の手を握る。
「簡単には行かなそうですね」
運転手さんが山本さん達を指差し声をかけてきた。
運転手さんの指差す先を見れば、山本さんが説得している感じがする。
その様子を見て俺は決心した。
彼女の手を握り返す。
「ここで二人で怯えていてもしょうがない。目の前では既に山本さんが戦っている」
「⋯⋯」
「俺は仲間が戦ってるのに、それを傍観は出来ない」
「⋯⋯」
「一緒に手を繋いで戦ってくれるか?」
「センパイ!その言葉を待ってました!」