18-3 禁止事項
クネクネする彼女。
プルンプルンさせる山本さん。
二人を何とか宥めた。
まったく朝から⋯
まあ人の事を言えない俺ですが⋯
プルルル
宥め終わるのを見計らったように、スマホの着信音がする。
山本さんが席を立ちリビングルームを出てスマホで話し始めた。
眼鏡さんから折り返しの電話が入ったのだろう。
山本さんが俺や彼女に断らずに電話に出た様子から、かなり焦っている感じがする。
山本さんの通話が終わるまで待とうかとも思ったが、それとなく彼女に聞いてみる。
「由美子は、俺に門を開けて欲しいの?」
「センパイ。我儘を言います」
「はい。何でしょう」
「私をきちんと守ってください」
彼女は座り直し、俺の顔を真っ直ぐに見てくる。
「前にも話しましたけど、市之助さんが亡くなって兄が当代に立つまで大変だったんです」
「その話って⋯」
彼女が口にするのは、彼女のトラウマな話だ。
「兄が当代を宣言したけど、嫌なことは簡単には治まりません」
俺は黙って彼女の話しに耳を傾ける。
「偽物だとか生意気だとか、変なことを言う人達が沢山いました。それを兄が『伊勢の門』を開いて本物と認められて、全てがピタリと止まったんです」
「⋯」
「今までは兄や父、義叔父さん達が守ってくれました」
「⋯⋯」
「私が秦の家を出てセンパイの妻になったら、センパイが守ってください」
真っ直ぐ見つめる彼女の瞳から、俺は目を逸らすことはできない。
彼女の願いから逃げるようで、目を逸らしてはいけないと心の中で響くものを感じる。
「センパイが本物なら、誰も私に手出し出来ません。その覚悟を持ってお伊勢様に行ってください!」
「わかった、由美子は俺が守る。誰にも手出しはさせない」
「センパイ♥️」
俺の返事に彼女の瞳は喜びに満ちた。
だが、俺には不安なことがある。
「只し、気になることがある」
「な、何ですかセンパイ?」
「俺に出来ると思う?」
「はい!銀色の兄に出来たんです。金色のセンパイが出来ないわけがありません!」
由美子さん、そこで『魔素』の色の話が出る理由を教えてください。
「あのぉ~上司が話したいそうです⋯」
山本さんの声で、俺と彼女の二人の世界は一時中止となった。
◆
「山本さん、由美子も聞けるようにしてください」
「はい、これで大丈夫です」
山本さんがスマホを操作し、リビングテーブルに置いた。
「眼鏡さん、聞こえますか二郎です」
「はい、聞こえております。この度はご迷惑をお掛けしてすいません」
「いえ、こちらこそ手厚い準備をして頂き、由美子共々、感謝しております」
「とんでもありません。それで山本からお話があった件で、ご相談があります」
なるほど。
眼鏡さん自身からは、具体的に何が問題かを言葉にはしない。
俺が『何を問題とするか』を聞き出そうとしている感じだ。
「はい、その件ですね」
「はい、申し訳ありませんが、まずは二郎さんのお気持ちを聞かせていただきたいのです」
予想外に眼鏡さんから丸投げな言葉が聞こえてきた。
そんな眼鏡さんに答える前に、確認しておきたい事があり、少し『鎌を掛ける』返事をしてみる。
「私の気持ちですか?面倒臭いですね『伊勢の門』に関わる方々は、全てがこんな感じですか?」
「⋯まぁ、そう考えていただいた方が二郎さんの考えも決めやすいと思います」
さすがは眼鏡さんだ。
俺からの『鎌』で刈れる分しか刈らせない。
だが否定しないと言うことは、肯定したと考えよう。
「それでは、私の希望を述べます」
「はい、お願いします」
「山本さんや眼鏡さんの立場を考えて言います。同行することは問題ないです。只し、俺や彼女と会話や会談を望むのはやめて欲しい」
「はい、会話は禁止ですね」
「特に『由美子に話し掛けは禁止』これは厳守して欲しいです」
俺がそこまで言うと、彼女が俺の手を握ってきた。
「そもそも自分は誰に対しても、何に対しても『名乗り』をしていない筈です」
「はい、二郎さんの立場はそうなっております。先ほどの『会話禁止』に『名呼び禁止』も付け加えましょう」
「ありがとうございます」
「けれども二郎さん⋯正直に述べます。そうした禁止事項を付けても行動を起こす者が出てくるのが『伊勢』なのです」
眼鏡さんが怖いことを言う。
「二郎さん、他にありますか?」
「いえ、ありません」
「では、警護の者が着きますので、二郎さんと由美子さんは安心して伊勢へお向かいください」
「ありがとうございます」
「二郎さんの希望を先方に伝えるのは山本の役目です。山本と代わっていただけますか?」
そこまで話して、山本さんがスマホに手を伸ばしリビングルームから消えていった。
彼女が俺の腕に手を絡ませる。
「センパイ」
「なんだい?」
「眼鏡さんの異動の件は聞かないんですか?」
「あっ!」