18-2 元上司
中居さんが準備してくれた朝食を食べ終え、身支度を整えて出発の準備をする。
俺は店長から譲り受けたスーツとワイシャツに彼女からプレゼントされたネクタイ。
もちろんネクタイは彼女が結んでくれた。
大阪のアスカラ・セグレ社を訪問した時と同じ出で立ちだ。
彼女も俺と同じ様に、アスカラ・セグレ社を訪問した時と同じ装いとなった。
違いがあるとすれば、スーツに皺がないことだ。
宿で借りたズボンプレッサーとスチームアイロンを使って、彼女が見事に皺の無い仕上がりにしてくれたのだ。
そう言えば、俺と彼女の出で立ちを『新婚』のようだとバーチャんは言っていた。
俺からすれば、仕事で彼女と一緒にお客様訪問をするような感じなのだが⋯
目の前にあるキャリーバッグを二人で引いていたら『新婚旅行』に間違われるかも知れないな(笑
そんなことを考えていたら、いつもの笑顔で彼女が声をかけてきた。
「準備できました。忘れ物も無しです」
「少し早いけど、行こうか」
(ピンポーン)
いざ出発と思った時に玄関の呼び鈴の音がする。
「中居さんが来たのかな?俺が出るよ」
そう告げて玄関に行くと、少し息を荒げた山本さんが立っていた。
「あれ?山本さん?おはようございます」
「はぁはぁ⋯門守さん、おはようございます」
「そろそろ行こうと思ってました」
「すいません。出発を30分⋯1時間ずらしてもらえますか?」
何とか息を静めた山本さんが変なお願いをしてきた。
「私どもは構いませんが、何かあったのですか?」
「実は⋯」
そこまで述べた山本さんが、誰も居ない後を見て、さらに周囲を見渡す。
その様子に俺は山本さんに声をかける。
「中で話した方が良さそうですね」
「あ、ありがとうございます」
山本さんを連れてリビングルームに行くと、心配そうに彼女が声をかける。
「山本さん、おはようございます。何かあったんですか?」
「由美子、座って詳しい話を聞こう」
俺は全員を座らせ、まずは山本さんに何が起きているのか話して貰うことにした。
「実は30分ほど前に、以前の上司が来て門守さんと秦さんにご挨拶がしたい、それと伊勢神宮に同行させて欲しいと言ってきたんです」
「「はあ?」」
俺も彼女も何が起きているかが理解できなかった。
「恥ずかしい話ですが、その⋯暴走することの多い上司でして⋯」
山本さんの話し方から、山本さんはその元上司と折り合いが悪そうな感じを受ける。
加えて俺は、昨日の面会を希望した来客を思い出した。
「宿の御主人や女将さんにご迷惑は?」
「それがさらに困ったことに、元上司が御主人の遠戚な方だそうで平謝りされてしまって⋯」
「それはある意味、宿の御主人や女将さんも困ってるでしょう」
「ええ、御主人や女将さんからも謝られてしまい⋯どうしたものかと上司に相談して、折り返しの連絡を待っているのです」
親戚や遠戚から頼まれたら、宿の御主人や女将さんも断り辛いだろう。
それもあって山本さんに相談して、山本さんは眼鏡さんに知らせたのか。
「今は御主人と女将さん了承のもと、一旦、宿の駐車場まで下がって貰えたのですが⋯」
「それで、私や彼女と話をしたいと言うこと⋯伊勢へのお詣りに同行したいと言うことなんですね?」
「はい。門守さんと秦さんの考えも確認したく、まずは出発時間の調整を願いに来ました」
「う~ん⋯」
「その元上司さんは、今はどうされてるんですか?」
「警護部隊の2名が駐車場で見張っております」
警護部隊⋯あの細マッチョなスーツを着た二人のことだろう。
そこまでの話を聞いて、俺の頭を変な想像が横切った。
もしかして、この宿の御主人と女将さんは『伊勢の門』の守人、もしくは守人の関係者じゃないだろうか?
それと山本さんの以前の上司と言う方も、もしかしたら『伊勢の門』の守人もしくは、その関係者じゃないだろうか?
昨日の面会希望の来客に、俺と彼女が泊まる宿が漏れたというのは『伊勢の門』の守人の一部の方々が情報交換をしていて⋯
「センパイ、面倒臭そうですね」
俺の変な想像を止めるように彼女が話しかけてきた。
「ああ、面倒臭い。一緒にお詣りに行って話しかけられても、何を話せばよいのか⋯」
「センパイ!清濁併せ呑むです!」
「はあ?」
「良いことも悪いことも受け入れましょう」
「まあ、そうだな。俺と由美子は結婚の報告に行くだけだしな」
「「えっ?」」
山本さんと彼女が一緒に驚いた。
「センパイ『開ける』んじゃないんですか!」
「門守さん『開ける』ために来たんじゃないんですか?!」
彼女と山本さんが俺に迫るように聞いてくる。
「待て待て」
「センパイ、さっきのやる気と同じです!お詣りしてバーンと開けて本物だと証明しましょう!」
「そうです門守さん、バーンと行かなくても少しでいいんで開けてください!」
「ちょっと二人とも待って⋯」
「はぁ~ん、わかりました。センパイはご褒美が欲しいんですね。センパイが兄さんみたいに門を開けたら、ご褒美を上げます」
「「えっ?」」
「私を好きにして良いですよ」
由美子さん。
どうしてクネクネするの?
「わ、わかりました。私も好きにしていいです⋯」
山本さん。
その大きな胸をプルンプルンさせて、持ち上げる仕草をするな!