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門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月5日(水)☀️/☁️
247/279

17-18 異動


「最後に3点目です。あなたの上司は異動されるのですか?」

「えっ?!眼鏡さん異動するの!」


 それまで静かに聞いていた彼女が声を発した。


「山本さん、眼鏡さんが異動するんですか?どこに行くんですか?」

「⋯⋯」

「答えられない質問ですね。すいませんでした。終わりにしましょう」


 山本さんが押し黙ったので、俺は質問を終わらせる言葉を告げた。


「えっ?センパイ終わりですか?」

「はい。終わりです」

「⋯⋯」


(ピンポーン)


 再び呼び鈴が押された音がする。

 きっと中居さん達が食事を運んできたのだろう。


「私が出ます」


 そう言って山本さんが席を立った。

 山本さんが席を立ったのを見て、彼女が聞いてきた。


「センパイ、眼鏡さん異動するの?」


 彼女が聞いてくるが、俺は何も言わずに彼女の手を握る。

 彼女は俺に心配そうな顔を見せる。


「食事が来たそうです」

「ダイニングで準備をさせていただきます」


 山本さんが戻ってきて状況を声にし、その隣に立つ中居さんがダイニングに食事を準備する旨を告げてきた。


「お願いします」


 俺がそう告げると中居さんが下がった。

 直ぐに彼女と目線を合わせると、彼女がカゴバッグから『心付け』を2つ取り出し立ち上がった。


「山本さん、今日はありがとうございました。明朝は何時に出発ですか?」

「明朝、9時30分に迎えが来ます。その時間に、先ほどのフロントロビーでの待ち合わせをお願いします」


「はい、9時30分ですね」

「それでは失礼します」


 そう告げた山本さんが急ぎ足で玄関へ向かった。



「センパイ、食べましょう!」


 リビングのソファーに座ったまま、眼鏡さんの異動をあれこれ考える俺に彼女が声をかけてきた。


 ソファーから立ち上がると、彼女の後ろから二人の中居さんが笑顔を見せてきた。

 俺は二人の中居さんに声をかける。


「遅い時間にも関わらず、ありがとうございます」

「こちらこそ、お気遣いをありがとうございます」


 中居さん二人が同じ様に胸元を押さえ、丁寧なお辞儀をしてきた。

 その所作に、彼女が『心付け』を渡せたことを俺は感じた。


「それではお食事が済みましたら、内線をお願いします」


 そう告げて二人の中居さんは玄関から出て行った。


 彼女に着いてダイニングルームに入ると、テーブルには豪勢な料理が並べられていた。

 ビールも栓が抜かれ、早く飲んでくれと待っている。

 よく見ればテーブル脇のワゴンにはシャンパンとワインまで置かれている。


 彼女とテーブルを挟んで対面に置かれた椅子に座り、冷えたグラスに注がれたビールを掲げて乾杯の挨拶をする。


「今日も一日「お疲れさまでした」」


 その言葉で彼女と乾杯し食事を始める。


「この料理、今日はまとめて出してるそうです。本来ならそこの専用口から中居さんが個別に出すそうです」


 彼女が指差す先は、シャンパンやワインが置かれたワゴンだった。

 なるほど、ワゴンを置いて給仕口を塞いでいるのだろう。

 多分、山本さんと宿で話し合い、この方式にしたのだろう。


「これって陶板焼なんだ」

「盛り付けがきれいだね」

「驚いた伊勢海老まであるのか」

「この飾り切りが凄いですね」

「酢の物まであるのか」

「ご飯は釜飯ですね」


 そんな感じで、出された料理の品々の感想を彼女と述べ合いながら、グラスのビールを飲み干し食事を楽しんだ。

 一通りの食事が済み、料理の話題も尽きたところで彼女が聞いてきた。


「センパイは、眼鏡さんの異動ってあると思います?」

「う~ん⋯山本さんの様子からして、あると思う」


「どこに行くんだろ?」

「どこだろうね⋯」


「私は淡路島に残って欲しいな」

「バーチャんの相手をさせる?(笑」


「だって、センパイのこれからを考えたら、やっぱり眼鏡さんは淡路島が良いと思うの」

「??」


「センパイは淡路島に戻って桂子お婆ちゃんの後を継ぐんですよね?」

「いや、どうなんだろう」


「へ?継がないんですか?」

「バーチャんの世話はしなきゃいけないと思ってる」


「それは⋯淡路島に戻るってことですよね?」

「ああ、由美子は嫌かい?」


「嫌じゃないです。センパイと一緒になると決めた時から、そうなる覚悟はしてました」

「ありがとうね」


「センパイは淡路島に戻って、仕事はどうするんですか?」

「考えてない」


「兄さんみたいに『魔石』を作らないんですか?」

「由美子、俺は『魔石』の作り方を知らないんだ」


 しばしの沈黙の後、彼女が歌い出した。


「ケぇ~セラぁ~セラぁ~♪」

「なるようになる~♪」


「クフフ」「ハハハ」


 彼女と一緒に歌い、一緒に笑ってしまった。


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