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門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月5日(水)☀️/☁️
246/279

17-17 3点


 通された場所はまさしくむねだった。


 石畳の回廊から緩やかなスロープで一段上がった場所には、黒い木製の板張りで覆われた建物がある。

 その建物の端には玄関らしき扉。

 石畳の回廊から玄関口まで続く屋根の下を、中居さんに着いて進んで行く。


 中居さんが引戸の玄関を開け、俺の目に入ってきたのは、東京のアパートより広い土間口と空の靴棚だった。

 中居さんが先に入り、スリッパを準備し終えると俺と彼女に声をかける。


「下足はそのままで、まずはリビングにお進みください」


 中居さんの指示に従い、玄関前のホール(廊下)に上がると、椅子が2つと机の置かれた部屋が見えた。

 その部屋の方に進もうとすると、彼女に腕を掴まれた。


「センパイ、そっちはダイニングルームだと思います」


 そう言う彼女の方を見れば、開け放たれた引戸の奥に板張りのリビングルームが見えた。

 改めてリビングルームに進めば、大型液晶テレビとL字にソファーが置かれている。


「お荷物はこちらになります」


 後からリビングルームに入ってきた中居さんから声をかけられる。

 声の主を見れば、キャリーバッグが2つとノートパソコン専用バッグの後に中居さんが立っていた。

 その中居さんの後ろはベッドルームらしく、ツインベッドが置かれている。

 見渡せる範囲で判断して、大阪で宿泊したホテルのスイートルームを越えた造りになっている。


「それでは設備の説明をさせていただきます」


 中居さんの声に俺と彼女が目線を合わせると、彼女が頷いてくれた。


「私が聴いておきます」


 中居さんが彼女を連れて設備の説明を始めてくれた。

 俺はソファーに座り、山本さんに確認する事項を頭の中で整理する。


1点目は宿の代金

2点目は面会希望の来客

3点目はバーチャんに確認できるが⋯


 そこまで考えてスマホを取り出す。

 着信履歴から山本さんの電話番号を『国の人な山本』で登録し、発信ボタンをタップする。


 プップップッ

 トゥルートゥルー


「⋯はい」

「門守りです」


「山本です。何かありましたでしょうか?」

「申し訳ありませんが、3点ほど確認させていただきたいので、部屋でお話しできますか?」


「わかりました。伺います」

「お手数をお掛けします」


 プツ


 スマホでの通話を切ると、彼女が笑顔で隣に座ってきた。


「センパイ、露天風呂です!」

「露天風呂?」


「そのベランダの奥に露天風呂が付いてるんです!」


 彼女の指差す先を見ればウッドデッキのベランダが見える。


「当宿では全室露天風呂付きとなっております」


 中居さんが笑顔で説明してきた。

 部屋ではなく『むね』で、露天風呂付きの客室で、リビングルームとベッドっルームが別れてて、そういえばダイニングルームもあったな⋯

 これは、かなりの代金になりそうだ。

 やはり宿の代金は山本さんに確認しよう、そう思っていると中居さんが尋ねてきた。


「ご夕食ですが、これから準備して宜しいでしょうか?それともご入浴の後が宜しいでしょうか?」

「先に食事でお願いできますか?」


 彼女が空腹を訴えるように即答する。

 そう言えば俺も空腹を感じていた。


「それでは直ぐに準備させていただきます」


 そう告げた中居さんは大型液晶テレビの脇に置かれた内線電話を取り、『お食事だそうです』と伝えた。


「何か不明な点があれば、こちらの内線でお申し付けください。それではお食事をお持ちします」


 そう告げて中居さんはシズシズと玄関へと向かった。


 彼女が慌ててカゴバッグを引き寄せ手を入れたが、俺はその手を掴んで制した。

 玄関の扉が閉まる音がしたところで彼女が聞いてくる。


「センパイ『心付け』は渡さないんですか?」

「さっき中居さんを2名紹介されただろ?夕食の準備であの2名の中居さんが来ると思う」


「じゃあ、2名揃ったら渡せば良いんですね?」

「そうだね。そういえば、さっき由美子が運転手さんに渡しただろ?」


「ええ、最初は断られて困りました」

「周囲の目⋯山本さんがいたから一旦断った可能性もあるね」


「ああ、そうか」

「それに直接の手渡しは断られる可能性が高い。最後に由美子は運転手さんの胸ポケットに差し込んだだろ?」


「ええ⋯」

「あのタイミングと方法は満点だと思うよ」


「せ、センパイ!今度は中居さんが2人です。一人づつ渡すんですか?」

「いや、複数人に渡す時はわざと全員に見えるように手渡しが良いと思う」


「見えるように全員に手渡し?」

「そうすれば受けとる方は平等と言うか公平な感じを受けるだろ?」


「なるほど!頑張ります!」


 彼女が決意を込めた笑顔を見せてくれた


(ピンポーン)

 小さく呼び鈴が押された音がする。


「多分、山本さんだろう」


 彼女に告げて俺が玄関に行く。

 玄関の引戸を開けると、そこには山本さんが立っていた。


 中居さんを見習いスリッパを出し、山本さんをリビングルームに案内する。

 ベッドルームへ続く引戸は閉められ、リビングルームからは見えないようになっていた。

 キャリーバッグも見当たらず、彼女が急いで対応してくれたのだろう。


 ソファーに俺と彼女で並んで座り、山本さんにも座ってもらう。


「宿を手配していただき、ありがとうございます」

「いえ、かえってご迷惑をお掛けしました」


 山本さんとの会話は、まずは俺のお礼から切り出した。


「さて、電話で話しましたように3点ほど確認させてください」

「はい」


「まず1点目です。この宿の代金⋯」

「それについては予算が取れております」


 俺が『代金』と口にした途端に山本さんが答えた。

 山本さんの答えた台詞は、眼鏡さんが大阪のホテルを予約したのを模している気がした。

 明らかに準備されており、予行演習を重ねている言葉に感じる。


「お言葉に甘えます。2点目ですが、面会希望の来客についてです」

「それは現段階では調査中です」


 これも準備していた回答だろう。


「宿の御主人や女将に迷惑をかけたようですが?」

「いえ、その面ですが⋯むしろ御主人と女将から謝られました」


「謝られた?」


 これは俺の想定していなかった回答だった。


「宿に仕える者が漏らした可能性もあると⋯」


 言われてみれば、確かに想定するべきことだった。

 俺は山本さんや眼鏡さんの後方部隊の関与だけを考えていた。

 この宿や宿で働く方々の関与は、全く考えていなかった。


「では、宿に予約を願った山本さんの後ろの方々、その誰かが漏らした可能性『も』あると?」

「両面から、私共と宿の両面から調査中です。調査が済み次第に別途報告を⋯」


「いえ、調査結果は求めません。私や彼女に何も無かったのですから、面会を求めた方もいないと考えます」

「ありがとうございます」


 俺の言葉に山本さんから安堵が感じ取れた。

 だが、まだ3点目の確認(質問)が残っている。


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