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門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月5日(水)☀️/☁️
244/279

17-15 当代の妻


 隣に座る彼女の通話は続く。


「それとさっきの件ですけど⋯」

「⋯はい、運転手さんと⋯女将さんや支配人には不要なんですね」

「彼らには⋯はい⋯」

「わかりました。ありがとうございました」


 締めの言葉を告げた彼女が通話を切った。

 彼女が通話を終えたスマホを雑貨屋で購入したカゴバッグに入れ、代わりにポチ袋を取り出した。

 あの雑貨屋で彼女が購入したものだ。


「センパイ、心付け作りを手伝ってください」

「心付け?」


 『心付こころづけ』と言えば、お世話になった気持ちとして金銭を渡すことだ。

 お世話になった人や、お世話になる人に感謝の気持ちを示すための物で、ご祝儀やチップも同じ意味を持っている。

 サービスに対する『ありがとう』を金銭で与えることを意味している物だ。


「母と里依紗姉さんに言われたんです」

「吉江さんと里依紗さんに?」


「『彼らが手配した車に乗る時は、運転手さんには心付けを渡しなさい』って、里依紗姉さんにもさっきの電話で言われました」

「へぇ~」


 そういえば、この車の運転手さんには淡路島から大阪行きでもお世話になり、今回の伊丹空港から伊勢までもお世話になっている。

 確かに運転手さんには、心付けを渡したい気持ちになる。


「『運転手さんを味方に付けるのも、当代の妻として大切なことよ』なんて言われちゃいました(テヘ」

「確かに大切だろうね」


「⋯」

「⋯⋯」


「センパイ!もっと違うところを突っ込んでください!」

「えっ?!」


「『当代の妻として』が気になりませんか?」

「ちょっと待って、俺は⋯当代じゃないけど⋯」


「『妻として』が気になりますよね?」

「⋯」


「『妻』が気になりますよね?」

「はい。気になります」


 『妻』の言葉に反応しなかった俺が悪いの?

 2回も言うのだから、ここは大人しく同意しておいた。


「よろしい。このポチ袋に、このお金を入れてください」


 そう言って彼女は雑貨屋で購入したポチ袋(5枚入り)と同じ枚数の1万円札を渡してきた。


「1万円も渡すの?」

「それが相場だそうです」


 チップで一万円は高額な気もするが、吉江さんや里依紗さんが相場と言うなら致し方ない。

 俺は渡された1万円札を折り畳みポチ袋に入れて行く。

 彼女を見れば、同じ様に1万円札を折り畳み、別のポチ袋に入れている。


 俺は準備が終わったポチ袋を彼女に渡すと、合計10個のポチ袋が彼女の手元に置かれた。


「こんなに必要なの?」

「母と里依紗姉さんから言われたのは⋯運転手さん、宿の中居さん、他の門の彼ら、10個ぐらいは準備が必要だって言われたんです」


 彼女の言葉に少し考える。

 運転手さんには渡したい。

 宿の中居さんに渡すのは、聞いたことがある話だ。

 彼女の言う『彼ら』=『国の人』なのはわかるが『他の門』が気になる。


「由美子、『他の門の彼ら』って?」

「さっき、山本さんは『淡路陵の門』に配属されたと言ってましたよね?」


「ああ、言ってたね」

「センパイは『淡路陵の門』ですから、山本さんは除外ですね。あれ?」


 そこまで言って彼女は考え込んだ。

 いや、考え込まないで『他の門』について教えて欲しいんだけど⋯


「センパイは『淡路陵の門』で、私はお兄ちゃんが当代をやってる『隠岐の島の門』になるのか⋯」

「⋯」


「センパイ、これって私は山本さんに渡すべきなんですか?」

「⋯(何を考えてるの?」


「センパイ、山本さんはどうすれば良いですか?」

「由美子、よく聞いて」


「ねえセンパイ、山本さんはどうすれば良いですか?」


 ダメだ、彼女がテンパり始めた。

 変なことを2回も聞いてきている。


「✌️」


 俺はテンパりながら聞いてくる彼女に、恭平君譲りのVサインを出してみた。


「⋯」

「✌️」


 彼女が黙ったので、再び静かに彼女に向けて✌️を出す。


「✌️⋯センパイ、恭平ちゃんの真似ですか?」

「2つだけ出せるようにしてて」


「2つですか?」

「運転手さんに一つ、中居さんに一つで合計✌️」


「山本さんは?」

「今は必要ない。それと心付けを出すタイミングは俺が指示するから」


「⋯はい!センパイ、お願いします!」


 何とか彼女はテンパった状態から脱したようだ。

 そんなことをしていると車の速度が落ちた感じがする。

 改めて座席に座り直し窓から外を見ると、周囲は一般道の感じがする。


 どうやら車は高速道路を降りたようだ。


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