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門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月5日(水)☀️/☁️
243/279

17-14 来客


 静かな車内には、車が伊勢へ向けて走る僅かなタイヤ音と、彼女の寝息だけが聞こえる。


 俺はそんな車内から、ボーッと外の景色を眺めながら考えていた。


 ここまで俺が知識を得た門は、

・米軍の門

・淡路陵の門

・隠岐の島の門


 これらの門については、守人や当代な方々との接点と知識を得られた。

 俺自身が、各門の日記=記録をSaikasで学び、理解を深める段階に来ているのだろう。


 ・伊勢の門


 これについては、天岩戸あまのいわとの神話を里依紗さんと進一さんから聞き出せただけだ。

 伊勢神宮にお詣りに行けば、『伊勢の門』と何かの接点が得られるかも知れない思いはある。

 幾分、厄介な守人もいらっしゃるようだが⋯


 少しは自分で学んでおくべきだろうと考えて、ノートパソコン専用バッグからPadを取り出す。


 Padを起動しSaikasで『伊勢の門』の検索を実行する。

 画面中央にグルグルが表示された後に、見慣れないダイアログが出てきた。


━━━━━━━━━━━━━━━

検索家結果が1万件を越えました

検索を継続しますか?

【継続する】【中止する】

━━━━━━━━━━━━━━━


 無理です。

 伊勢に着くまでに1万件以上の記録=日記を読んで知識を深めるなんて、今の俺には無理です。


 『伊勢の門』の記録が膨大なことは、剛志さんや進一さんとの酒の席で話題となった。

 『伊勢の門』で当代を目指したら、全ての記録を読んで学ぶには膨大な時間が必要になるだろう。

 初代を継いだ2代目は、まだ記録が少ないだろうから学べるだろう。

 だが3代目や4代目の頃には挫折する可能性はある。


 3代目といえば進一さんの『隠岐の島の門』は、市之助さんが初代で次が進一さん。

 いや、継げなかった剛志さんは、ほぼ2代目と言っても良いだろう。

 進一さんが3代目だとして⋯恭平君が継ぐのかな?

 恭平君はどのくらいの記録を読むことになるのだろう⋯


 そんなことを考えていたら、彼女の寝息に誘われ俺も眠くなってきた⋯



 コンコン

 何かを叩く音がする。


 その音で目が覚めた俺は、今の自分が何処に居るかが直ぐに理解できなかった。


「ぅぅん⋯センパイ、着いたんですか?」

「ああ、着いたのかな?」


 彼女も目を覚ました。

 車は既に何処かに停まっている。


コンコン


 再び半透明の板をノックする音が聞こえる。

 彼女と二人で身支度を整え半透明の板を降ろすと、山本さんが話し掛けてきた。


「門守さん、秦さん。まもなく宿に着きます」

「車は停まっているようですが⋯今は何処ですか?」


「伊勢の手前、高速最後のPAです」

「何かあったのですか?」


「⋯ちょっと⋯ありまして⋯」

「どうかしましたか?」


「先程連絡が来たのですが、本日の宿に面会希望の来客が来ているそうです」

「面会希望?」「来客?」


 意味がわからない。

 どういうことだ?

 思わず彼女と顔を見合わせてしまった。


「状況を確認する時間が必要と判断して、近くのPAに寄ったところです」

「そうですか⋯トイレに行っても良いですか?」


「ええ、私も上司と現場からの連絡待ちですので、皆で少し休憩しましょう。運転手さん、良いですね?」

「はい、問題ありません」


 彼女と二人で一緒に車を降り、俺はトイレに向かった。

 男子トイレで用を済ませていると、運転手さんが隣に立ってきた。

 互いに目礼して用を済ませ手を洗う。

 運転手さんも済ませたのか、隣に来て手を洗っている。


「ここから宿まではどのくらいですか?」

「30分程度で着く予定です」


 確か最初の休憩から出発する際に、運転手さんは2時間程度で伊勢に着くと言っていた。

 どうやら俺と彼女は1時間は寝てしまったようだ。


「何かすいません。後ろで寝てしまって」

「気にしないでください。それだけ自分の運転が良かったあかしですから」


 ニッコリと微笑む運転手さんの言葉に、更なるプロ意識を感じた。


 トイレから出て黒塗りの車に目をやるが、周辺には彼女も山本さんも見当たらない。

 きっと、俺と運転手さんのように、二人で用を済ませに行っているのだろう。


 もしかしたら眼鏡さんから俺に連絡があるかも知れないと考え、スマホを確認したが何も無い。


「来ましたよ」


 スマホを確認していると、運転手さんに声をかけられた。

 運転手さんの視線の先を見れば、彼女と山本さんがこちらに向かっている。


「実家に連絡しました。もしかして里依紗姉さんの実家の方かと思い、今、確認してもらってます」

「ああ、その可能性もあるね」


 彼女が俺にひとつの可能性を示してきた。

 そんな彼女の機転に感謝しつつ山本さんを見れば、我々と少し離れた場所でスマホで何かを話している。


『はい、おっしゃるとおりです』

『はい、そのように対応します』


 そんな言葉が漏れ聞こえてくる。

 おもむろに山本さんがスマホでの通話を切り声を掛けてきた。


「すいません、お待たせして。運転手さん出発しましょう」

「宜しいのですね。それでは皆さんご乗車ください」


 随分、あっさりと出発が決まった。

 皆が乗り込んだところで運転手さんから声がかかる。


「シートベルトの着用をお願いします。本日の宿までは30分ほどの予定です」


 車が動き出したところで、山本さんが話し掛けてきた。


「先程は不穏ふおんな話で申し訳ありませんでした。現地の担当から問題無いと連絡がありました。ご心配をお掛けしたことを深くお詫びします」


 そう話す山本さんの礼儀正しい言葉に、何処か厳しさと緊張が含まれているのを俺は感じた。


「一旦、閉めさせていただきます」


 そう告げた山本さんの操作で半透明の板がせり上がり、再び車内に静寂が訪れる。


「はい、由美子です」


 急に彼女がスマホで通話を始めた。

 実家か里依紗さんから折り返しの連絡が来たのだろう。


「⋯わかりました。お手数をかけてすいません。ちょっと待ってください」


 電話の相手を待たせて、彼女が俺に告げる。


「センパイ、里依紗姉さんの実家じゃ無いそうです」


 それだけを俺に告げた彼女は再び通話に戻った。


 面会希望の来客。

 里依紗さんの実家じゃなければ誰だろう。

 俺と彼女が伊勢神宮に向かっているのを知っているのは⋯


 待てよ⋯宿に来ているんだよな?


 そもそも宿の手配は『国の人』である眼鏡さんが、今朝のテレビ会議で申し出たことだ。

 眼鏡さんは里依紗さんの実家に配慮すると約束していた。

 それならば里依紗さんの実家の方が、宿に来ている可能性は低い。


 そもそも俺や彼女ですら、今日の宿泊予定の宿がどこかを知らされていない。

 そんな宿に俺と彼女への面会を希望して直接来ている?


 何か変だぞ?


 そこまで考えている俺の隣では、彼女が通話を続けていた。


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