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門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月5日(水)☀️/☁️
241/279

17-12 懐柔


 黒塗りの車が発進して暫くして、彼女が例のボタンを指差してきた。


 このボタンを操作すれば、半透明な板で車内の前後部を仕切り、防音が成される仕組みだ。

 彼女はそのボタンでの仕組みを覚えていて、俺に使うかを尋ねたのだろう。


 俺は防音の板で仕切る前に、山本さんに確認したいことがあった。


 彼女がボタンを操作するのを制止ながらスマホを取り出し、LINEを起動する。

 LINEの画面を彼女に見せ目配せすると、彼女もスマホを取り出した。


「山本さんと少し話をする」16:25

「これからですか?」16:26


「無理だと思ったらボタンを押して」16:27

「わかりました」16:27


 彼女の了解が得られたので、山本さんに話し掛ける。


「山本さん、ちょっと確認させてください」

「はい、何でしょうか?」


「私たちの本名は聞いてますか?」

「聞いております」


 俺と彼女の本名を知ってるならば、俺と彼女が互いの名前で呼んでも大丈夫そうだ。


「この車内は録音していますか?」

「いえ、上司からの指示で録音や動画撮影は禁じられています」


「他に何か『禁止』の指示は受けていますか?」

「『禁止』ですか?お二人の動向や言動を含めて、一切の詮索を禁じられています」


 なるほど、淡路島から大阪へ向かった時と同じだ。

 安心できる回答だが、それでも俺は踏み込んで質問する。


「では、業務の方は?」

「業務ですか?」


「私たちが誰かと接触したら報告しろとかは?」

「⋯我々の業務に関わりそうなことは、即時報告を厳命されております」


 山本さんの返事で、剛志さんの言葉を思い出す。


 淡路島の実家に出入りする眼鏡さん達は、神の存在を追いかける部隊だ。

 今回の伊勢訪問で、俺や彼女がサンダースさんや若奥様、アマツカさんやメイドな見習い女神さんに接触したならば、山本さんは即時報告するだろう。

 それが眼鏡さんや山本さんの、本来の業務なのだから。


「山本さんは眼鏡さんの元に配属されて、どのくらいですか?」

「あ⋯その⋯4月からです」


 4月からということは1ヶ月ぐらいか。

 ここで敢えて山本さん本人のことを聞いてみた。


「わずか一ヶ月では大変でしょう。毎日毎日、Padでの勉強は辛くないですか?」

「ええ、淡路陵に配属されて毎日がPadでの勉強です」


 よしよし、少しづつだが喋ってもらえそうだ。


「では、今日が始めての現場ですか?」

「現場という意味では、御陵の掃除を何度かさせていていただきました」


 まだ山本さんのガードが固い感じがする。

 こんな時は共感作戦だ。


「山本さんのように手入れしてくれる方々が居るおかげで、いつも素晴らしい状態が維持できます。本当にありがとうございます」

「いえいえ、私なんて外の掃除と石を掻くだけで、そんな大層なことは出来てません」


「それが一番大切なことです。あの綺麗に整えられた様子は、きっと山本さんおかげなのですね。本当にありがとうございます」

「そんなぁ~」


 よしよし、かなり喋ってくれそうな雰囲気だ。


「今は連休中なのに、本当にご苦労様です。代休は取れるんですよね?」

「ええ、代休は、この伊勢訪問の後に⋯」


「代休が取りにくかったら言ってくださいね。私からも上司さんに、それとなく伝えますから」

「いえいえ、そこまでして貰っては申し訳ないです。代休は自力で勝ち取ります」


 よし、自分の考えや意欲を喋り始めた。


「あれ?もしかして当代に会ったのは今日が始めてですか?緊張したでしょ?」

「はい、緊張しました。けど、とても優しそうな方で助かりました」


 そこまで話していると、隣に座る彼女が俺の手を握ってきた。

 そんな彼女の顔を見れば、冷ややかな笑顔を見せていた。


 それでも俺は山本さんとの会話を続ける。


「テレビ会議は如何でした?」

「テレビ会議?」


「ほら、今朝のテレビ会議です。金髪イケメンが出てきて驚いたでしょ?」


 それとなく、山本さんがテレビ会議の時に見かけた女性かを聞いてみる。


「ええ、あの方が写ったときには驚きました。あの方は隠岐の島の当代と聞き、さらに驚きました」

「海外ドラマに出てきそうな感じですよね」


「ええ、まさしくそんな感じです。あの方が隠岐の島の当代ですよね?」

「私の兄です」


 彼女が俺の手を握りながら、話しに割り込んできた。

 その時の山本さんの反応が面白かった。


「えぇ~!お兄さんなんですか!カッコいいですよねぇ~」

「あら、兄が喜びます(笑」


 助手席に座る山本さんが、勢いを着けてこちらを見てきた。


「いいなぁイケメンのお兄さんと、モデルみたいな妹さんかぁ~」


ウゥン


 運転手さんの咳払いで、山本さんが慌てて前に向き直った。

 これは運転手さんも巻き込む必要がありそうだ。


「運転手さん⋯すいませんお名前を知らなくて⋯」

「いえ、私はあくまで運転手ですので、名乗りは勘弁してください。『運転手』で十分です」


 なるほど。

 運転手としてのプロ意識が高そうだ。


「いえいえ、あの時は素晴らしい機転で助かりました。おかげで遅れること無く大阪へ着けました」

「それは良かったです」


「下ろしていただいた須磨駅では驚きました。駅のホームから砂浜と海が見えるなんて、あんな駅があるんですね」

「二郎さん、あの駅ですね。良い眺めでしたね」

「あそこは有名な海水浴場なんですよ」


 おっと、運転手さんが語り始めたぞ。


「やはり運転手さんは、あの駅をご存じだったんですね?」

「いやぁ、実は女房の実家があの付近なんです」


 よしよし、彼女の援護射撃えんごしゃげきもあって良い感じだ。


「今日これから向かう伊勢神宮、私は初めてなんです。やっぱり運転手さんは、何度か行かれたんですか?」

「ええ、先月も行きましたね」


 かなり良いぞ。

 運転手さんが壁にならずに、自身の経験を語り始めた。


「山本さんも先月に伊勢に行かれたんですか?」

「いえ、先月は鈴鹿の実家に戻ってました。淡路陵への着任前に帰省してたんです」


「おや、山本さんは鈴鹿出身かい?俺は鈴鹿の隣の亀山なんだ」

「あら、亀山のどちらです?」


 運転手さんと山本さんが会話を始めた。

 自身の出身を語るぐらい二人が襟元を開いてくれたなら、変な行動には出ないだろう。


 ここで一拍入れて様子見だな。


「すいません。どこかトイレに行ける場所はありますか?」

「トイレですか?運転手さん、近場にありますか?」

「この時間なら⋯山本さんPAによりますよ」


「はい、お願いします」

「お手数をお掛けします」


 俺の希望に山本さんが運転手さんに問いかけ、運転手さんの提案を山本さんが受け入れた。

 二人で相互に確認をしてくれた。


 些細なことだが、これで二人に連帯感が生まれれば、伊勢への道中は安泰だろう。


 車中が良い感じになり、少し安心した俺の手を彼女がそっと握って来た。

 彼女の手の温もりに、俺は更なる安心感を抱いた。


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