17-6 街歩き
彼女の提案で、隠岐の島の街歩きになった。
「街歩きと言っても、ここは由美子の地元だろ?」
「センパイ、私が隠岐の島を出たのは10年以上前ですよ。ここもずいぶん変わりました」
そんな会話をしながら、可愛い彼女といちゃつくように散歩するのも悪くない。
実際に彼女の手は俺の腕に絡まり、明らかにいちゃついてる感がある。
隠岐の島の空は、今日も快晴。
二人で歩く街並みは背の高い建物が少なく、晴れた空がとても眩しく感じる。
「ずいぶんと変わったと言っても、さっきのサザエ最中は前からあったんだろ?」
「あれは無かったです。今朝、里依紗さんと話していて、5年前ぐらいに出来たお土産だって言ってました」
「へぇ~ 由美子が島を出てから出来たお土産だったんだ」
「里依紗さんに写真を見せてもらって、お店で見て決めようと思ったんです」
なるほど。
彼女にして見れば、『サザエ最中』は、郷土の新しいお土産というわけだ。
「サザエって隠岐の島の名物なの?」
「海産物全般が隠岐の島の名物です」
そうだった。
ここ隠岐の島は、海に囲まれた離島だ。
海でとれる新鮮な魚だけではなく、サザエのような海産物も豊富に取れるのだ。
あの運転手さんは、『まずは⋯サザエだな』と呟いていた。
彼女が島を出てから作られた新しいお土産で、里依紗さんが勧めてタクシー運転手さんが推すのだから、売れ筋のお土産なのだろう。
「そう言えば、こっちに何があるの?」
「雑貨屋さんらしいです。さっきスマホで見つけて面白そうだったんです」
そんな会話をしながら、彼女と腕を絡ませ街中を散歩するように歩いて行く。
すると、街並みに溶け込むように、鳥居と小さな祠が表れた。
鳥居には『福かっぱ大明神』と記されている。
「隠岐の島には河童伝説があるの?」
「ああ、ありますね」
祠の中には河童がお座りして胡瓜を抱えていて、何とも愛らしい感じだ。
祠の脇に記された看板には、面白い説明書きがされていた。
近くを流れる八尾川には、
唐人屋九兵衛がきゅうりを
盗むカッパを懲らしめ今後
悪さをしないと約束させた
話が伝わっています。
その由来から、川に入ると
きに唐人屋の子孫であるこ
とを名乗ると足を引かれな
いと言われています。
かっぱ大明神は唐人屋の
先代弥太郎氏が地域のため
に祀った神様です。
説明書きを読んでいると、彼女が俺の腕を引っ張る。
「センパイ、あの店です。行きましょう♪」
お目当ての雑貨屋は、河童を祀る祠の直ぐ向こう側にあった。
彼女と共に店内入ると、なかなかセンスの良い感じの陶器類が並べられている。
それまで絡めていた腕を解き、彼女は自分の見たいものを手にし始める。
陶製のカップや木製のコースター。
ドライフルーツ⋯
俺は彼女の邪魔をしないように少しづつ離れ、彼女を真似して店内を散策しながら気になるものを見て行く。
「あっ⋯」
綺麗に並べられている、黒い紐で作られたペンダントを見て思い出した。
確か彼女は、進一さんに新しい『魔石』のペンダントが欲しいと願っていた。
早ければ、明日か明後日に淡路島の実家に届くと言っていた気がする。
彼女は早目に『魔石』のペンダントを手にしたいのだろうか?
いや、『魔石』を欲しがったのは、俺にさんざん回復魔法を施した後だ。
きっと彼女自身も回復魔法が必要なほど、疲弊していたのかもしれない。
あの時の俺は、体内を移動する『魔素』を扱うことに専念し過ぎた。
「由美子、頼む!」
「はい、センパイ!」
「ふぅ~疲れたぁ~」
「センパイ、すぐに回復します!」
「由美子、いけるか?!」
「大丈夫です!」
昨日を思い出し、彼女のサポートを振り返れば、全然、大丈夫じゃないだろう。
あの時の俺は自分の興味を優先させ、気力の続く限り『魔素』の扱いを物にしようとした。
彼女の体調を気遣うこともなく、彼女のサポートに甘えきっていた。
彼女の献身的なサポートがあったからこそ、俺は『魔素』の扱いを身に付けたと言える。
「ふっ⋯もっと大事にしないとな⋯」
「何を大事にするんですか?」
「おおぉう!」
急に彼女に声を掛けられ、変な声を出してしまった。
俺は独り言を口にしてたのか?
それを彼女に聞かれてたのか?
「センパイ、何を大事にするんですか?」
「えっ、いや、由美子の事を大事にしたいと考えてたんだよ」
「私の事ですか?」
「ああ、昨日は随分と助けてくれただろ?」
「ええ、センパイを助けまくりでした」
「ありがとうね」
「それだけですか?」
そう言う彼女は、自身の胸元に薄茶色の『カゴバック』を掲げてきた。
「センパイは『ありがとう』だけで済ませるんですか?」
はぁは~ん、そのバッグが欲しいのね。
「いいよ、昨日のお礼にそのカゴバッグをプレゼントするよ」
「それだけですか?」
「えっ?」
「あれもお願いします」
そう言って彼女が指差す先は、店内のレジだった。
レジカウンターの前には台が置かれ、それまで彼女が手にしていたカップや雑貨が並べられていた。
ニッコリと微笑む店員さん付きで。