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門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月5日(水)☀️/☁️
235/279

17-6 街歩き


 彼女の提案で、隠岐の島の街歩きになった。


「街歩きと言っても、ここは由美子の地元だろ?」

「センパイ、私が隠岐の島を出たのは10年以上前ですよ。ここもずいぶん変わりました」


 そんな会話をしながら、可愛い彼女といちゃつくように散歩するのも悪くない。

 実際に彼女の手は俺の腕に絡まり、明らかにいちゃついてる感がある。


 隠岐の島の空は、今日も快晴。

 二人で歩く街並みは背の高い建物が少なく、晴れた空がとても眩しく感じる。


「ずいぶんと変わったと言っても、さっきのサザエ最中もなかは前からあったんだろ?」

「あれは無かったです。今朝、里依紗さんと話していて、5年前ぐらいに出来たお土産だって言ってました」


「へぇ~ 由美子が島を出てから出来たお土産だったんだ」

「里依紗さんに写真を見せてもらって、お店で見て決めようと思ったんです」


 なるほど。

 彼女にして見れば、『サザエ最中もなか』は、郷土の新しいお土産というわけだ。


「サザエって隠岐の島の名物なの?」

「海産物全般が隠岐の島の名物です」


 そうだった。

 ここ隠岐の島は、海に囲まれた離島だ。

 海でとれる新鮮な魚だけではなく、サザエのような海産物も豊富に取れるのだ。


 あの運転手さんは、『まずは⋯サザエだな』と呟いていた。

 彼女が島を出てから作られた新しいお土産で、里依紗さんが勧めてタクシー運転手さんが推すのだから、売れ筋のお土産なのだろう。


「そう言えば、こっちに何があるの?」

「雑貨屋さんらしいです。さっきスマホで見つけて面白そうだったんです」


 そんな会話をしながら、彼女と腕を絡ませ街中を散歩するように歩いて行く。


 すると、街並みに溶け込むように、鳥居と小さな祠が表れた。

 鳥居には『福かっぱ大明神』と記されている。


「隠岐の島には河童伝説かっぱでんせつがあるの?」

「ああ、ありますね」


 祠の中には河童がお座りして胡瓜きゅうりを抱えていて、何とも愛らしい感じだ。


 祠の脇に記された看板には、面白い説明書きがされていた。


  近くを流れる八尾川には、

 唐人屋九兵衛がきゅうりを

 盗むカッパを懲らしめ今後

 悪さをしないと約束させた

 話が伝わっています。

  その由来から、川に入ると

 きに唐人屋の子孫であるこ

 とを名乗ると足を引かれな

 いと言われています。

  かっぱ大明神は唐人屋の

 先代弥太郎氏が地域のため

 に祀った神様です。


 説明書きを読んでいると、彼女が俺の腕を引っ張る。


「センパイ、あの店です。行きましょう♪」


 お目当ての雑貨屋は、河童を祀る祠の直ぐ向こう側にあった。

 彼女と共に店内入ると、なかなかセンスの良い感じの陶器類が並べられている。


 それまで絡めていた腕を解き、彼女は自分の見たいものを手にし始める。


 陶製のカップや木製のコースター。

 ドライフルーツ⋯


 俺は彼女の邪魔をしないように少しづつ離れ、彼女を真似して店内を散策しながら気になるものを見て行く。


「あっ⋯」


 綺麗に並べられている、黒い紐で作られたペンダントを見て思い出した。

 確か彼女は、進一さんに新しい『魔石』のペンダントが欲しいと願っていた。

 早ければ、明日か明後日に淡路島の実家に届くと言っていた気がする。


 彼女は早目に『魔石』のペンダントを手にしたいのだろうか?


 いや、『魔石』を欲しがったのは、俺にさんざん回復魔法を施した後だ。

 きっと彼女自身も回復魔法が必要なほど、疲弊していたのかもしれない。


 あの時の俺は、体内を移動する『魔素』を扱うことに専念し過ぎた。


「由美子、頼む!」

「はい、センパイ!」


「ふぅ~疲れたぁ~」

「センパイ、すぐに回復します!」


「由美子、いけるか?!」

「大丈夫です!」


 昨日を思い出し、彼女のサポートを振り返れば、全然、大丈夫じゃないだろう。


 あの時の俺は自分の興味を優先させ、気力の続く限り『魔素』の扱いを物にしようとした。

 彼女の体調を気遣うこともなく、彼女のサポートに甘えきっていた。

 彼女の献身的なサポートがあったからこそ、俺は『魔素』の扱いを身に付けたと言える。


「ふっ⋯もっと大事にしないとな⋯」

「何を大事にするんですか?」


「おおぉう!」


 急に彼女に声を掛けられ、変な声を出してしまった。

 俺は独り言を口にしてたのか?

 それを彼女に聞かれてたのか?


「センパイ、何を大事にするんですか?」

「えっ、いや、由美子の事を大事にしたいと考えてたんだよ」


「私の事ですか?」

「ああ、昨日は随分と助けてくれただろ?」


「ええ、センパイを助けまくりでした」

「ありがとうね」


「それだけですか?」


 そう言う彼女は、自身の胸元に薄茶色の『カゴバック』を掲げてきた。


「センパイは『ありがとう』だけで済ませるんですか?」


 はぁは~ん、そのバッグが欲しいのね。


「いいよ、昨日のお礼にそのカゴバッグをプレゼントするよ」

「それだけですか?」


「えっ?」

「あれもお願いします」


 そう言って彼女が指差す先は、店内のレジだった。

 レジカウンターの前には台が置かれ、それまで彼女が手にしていたカップや雑貨が並べられていた。


 ニッコリと微笑む店員さん付きで。


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