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門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月5日(水)☀️/☁️
234/279

17-5 サザエ最中


 秦家の女性陣&恭平君とはリビングのソファーエリアでお別れした。


 京子さんが見送ろうとしたが、彼女と吉江さんが制してソファーエリアでのお別れにして貰った。


 京子さんの気持ちもわかるが、むしろ京子さんに何かある方が、俺や彼女、そして吉江さんとしても辛い。


 同じ様に恭平君が見送りをしたそうにしたが、これも同じ様に彼女と里依紗さんに制されていた。


 彼女としては恭平君と『さよなら』するのが辛いのだろう。

 そうした気持ちを里依紗さんも汲んでくれたようだ。


「どうも、お世話になりました」

「「「気を付けてぇ~」」」「✌️」


 それでも別れの挨拶は元気に交わした。


 今生の別れではない。

 多分だが、年内には『結納』で再び訪れるであろう隠岐の島だ。

 今、一時の別れと割り切ってリビングエリアを後にする。


 高級住宅の玄関から出ると、玄関ポーチから敷地の外へと続くアプローチにタクシーが停まっていた。


 俺と彼女が玄関から出てきたのがわかったのか、タクシーのトランクが開き運転手さんが降りてきた。


 降りてきた運転手さんに見覚えがある。

 この高級住宅まで運んでくれた、俺と彼女の会話にバキバキに割り込んできた運転手さんだ。


「あら、おじさんなの?今日は忙しいんじゃないの?」

「いやいや、お嬢をお送りするのは俺の仕事です。荷物は⋯キャリーバッグですね」


 そう言って、運転手さんは手慣れた感じで俺と彼女のキャリーバッグをトランクに入れ、ノートパソコン専用バッグも積み込んだ。

 荷物を積み終わった運転手さんがトランクを閉め、後部座席の扉を開けながら聞いてくる。


「お嬢、忘れ物はありませんか?」

「無いです」


「じゃあ、乗ってください」


 運転手さんの勧めに従って乗車すると、運転手さんが行き先を確認してきた。


「親父さんからは、空港に届けるまで貸し切りと言われたんだけど⋯」

「空港には13時⋯14時に着ければ間に合います。その前にお土産を買いたいんです」


「あぁ~ それなら俺が案内して良いかな?」

「ええ、お願いできます?」


「じゃあ、まずは⋯サザエだな」

「そうね、おじさん。お願いします」


 彼女とそんなやり取りをした後に、運転手さんは車を発進させた。



 運転手さんに案内されたのは、こぢんまりとした和菓子店だった。


「そこで待ってますんで、終わったら声をかけてください」


 そう告げられ店の前で降ろされた。

 彼女と共に和菓子店の店内へと入ると、ショウケースにはサザエを模した最中もなかが並んでいる。


「由美子、これって最中もなかなの?」

「ええ、サザエ最中もなかです」


「なかなか面白いね」

「これなら、鈴木さんや田中君でも手にしてくれそうでしょ?」


「そうだね。ユニークだし良いと思うよ」


 彼女とサザエ最中もなかについて語っていると、若い女性店員さんが声を掛けてきた。


「本土へのお土産ですか?」

「ええ、これって配送はお願いできます?」


「はい、日本全国どこへでも(ニッコリ☺️」

「じゃあ、この5個入りのを⋯4つお願いします」


「あのぉ⋯お支払はカードですか?」

「ええ、カードがダメなら現金で」


「いえ、配送希望でカードでお支払なら、こちらが便利ですよ」


 そう言って女性店員さんが三つ折のパンフレットを出してきた。


 彼女がパンフレットを受け取り開く。

 脇から覗き見ると、隠岐の島のお土産を扱うネットショップの案内とわかった。


 なるほど、店舗で現金で購入して持ち帰らず、カードで購入して配送するのならば通販サイトと同じだ。

 今回は、こうして現物を見て確認をした上で、ネットショップで購入の手続きをするのも悪くないと思える。


「スマホでしたら、そのQRコードでサイトに行けます」

「これですね」


 彼女は俺にパンフレットを持たせ、バッグからスマホを取り出しQRコードを読み取った。


 彼女は無言でスマホを操作し続ける。


「どうします?この場で購入と発送手続きもできますけど⋯」

「⋯」


 若い女性店員さんが声を掛けるが、彼女はスマホの操作を止めない。

 これは、教えられたネットショップが彼女の心を掴んだのだろう。


「宜しければ、そちらにお掛けになってください」


 女性店員さんから店先の縁台を勧められる。

 よく見れば、若い女性三人組が外から店内を伺っていた。


 慌ててスマホを操作し続ける彼女を連れて店の外に出る。

 入れ替わりに若い女性三人組が店内へと入って行く。


「センパイ、どこかでゆっくり選びませんか?」

「???」


 それまでスマホを操作していた彼女が急に聞いてきた。


「お店を回ってお土産を買って、配送を頼もうと思いましたがやめました」

「急にどうしたの?」


「買おうと思ってたお土産が、ネットショップで済みそうなんです」

「あぁ、なるほどね」


 どうやら彼女は購入予定のお土産を決めていたようだ。

 それらのお土産が、女性店員に教えて貰ったネットショップで買えるとわかり、大きく舵を切ったようだ。


「タクシーはどうする?」

「ああ⋯いや、大丈夫です」


 彼女はそう言うと、道の向こうに停まっているタクシーへと掛け寄った。


 運転席の運転手さんと何かを話すと、彼女が戻ってきた。

 そんな彼女の向こう側でタクシーが動き出し、走り去って行く。


 おいおい。荷物はトランクに入ったままだぞ。

 それに、お客を置いて行くなんて、あり得ないだろ?!


「センパイ、街歩きしましょう♡」


 走る去るタクシーに驚いて、前に出た俺に彼女が腕を絡ませてくる。


「おいおい、どうなってるの?荷物は大丈夫なの?」

「貸し切りだから、街歩きが終わる頃に迎えに来て貰います。荷物はそれまで預かって貰えます」


「そ、そうなの?」

「ええ、だから隠岐の街歩きしましょう♡」


 笑顔で微笑む彼女の申し出を断る理由は何もなかった。


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