17-4 ヤマモト
吉江さんと京子さんから、俺の知らない言葉を聞かされた。
『伊勢講』と『お蔭参り』という言葉だ。
俺は全く知らない言葉に戸惑ってしまった。
「二郎くん、桂子さんに何かあるかい?」
「えっ?!いや、無いですけど⋯進一さんは終わったんですか?」
「ああ、眼鏡さんからの事情聴取は終わったよ(笑」
「ハハハ。自分からは特に無いです」
眼鏡さんとのテレビ会議を終えた進一さんから声を掛けられた。
進一さんは『アマツカ』さんの件で、イロイロと眼鏡さんからの質問責めにあったようだ。
「母さんとお婆ちゃんはあるかな?」
「また桂子さんに会いたいねぇ~」
「そうね、進一のこれがあれば何時でも桂子さんと話せるわよ」
進一さんからの問い掛けに、京子さんも吉江さんも特に無いようだ。
「由美子は⋯」
そう言って進一さんが立ち上がると、恭平君がダッシュでやってきて、進一さんに抱きついた。
「おぉ~恭平!お姉ちゃんはどうした?」
「おねえちゃんは コップあらってるぅ~」
恭平君が彼女の行方を話すと、彼女がソファーエリアにやってきた。
「恭平ちゃん、自分のコップは自分で洗おうねぇ~」
「はぁ~い✌️」
恭平君はいつもの✌️サインだ。
里依紗さんが、そんな恭平君を進一さんから引き剥がすと、抱き締めるようにソファーに座らせる。
「由美子は桂子さんに話があるかい?」
「じゃあ、ちょっと良いですか?」
そう言って彼女は新型Padを手にした。
大型液晶テレビには、彼女とバーチャんが写し出される。
「桂子お婆ちゃん、きちんと挨拶せずに⋯本当にすいません」
「由美子さん気にするでない。どうせ明日にはこっちに来るんじゃろ?」
「はい、明日⋯明後日には行きます」
「おお、大歓迎じゃ。気を付けて来るんじゃぞ」
「はい、ありがとうございます」
「由美子さん。こちらこそ、ありがとうね」
彼女とバーチャんが締めの言葉を述べて、新型Padを使ったテレビ会議が終わった。
進一さんは新型Padを彼女から受け取ると、Padを操作してテレビ会議を終わらせたようで、大型液晶テレビが真っ黒になった。
真っ暗になる直前に、一瞬だが、バーチャんの後ろで眼鏡さん以外のスーツ姿な女性が写った気がしたが⋯
まあ、眼鏡さんと一緒に来た『国の人』だろう。
『国の人』だとして、女性もいるのかと思案する俺の目の前では、進一さんがテレビ会議の後片付けをしている。
「進一さん、ありがとうございました」
「あぁ、気にしないで良いよ。それより伊勢では『負けるな』よ(笑」
「『負けるな』⋯ですか?(笑」
「ああ、少し尖ってた方が面白いぞ。ククク」
進一さん、変な知恵を与えないでください。
「じゃあ、後はお伊勢様へ行くだけね」
「はい。ありがとうございました」
吉江さんからの声掛けに、お礼の言葉で答える。
「由美子、何時に出るの?」
「そろそろ着替えて行きます。お土産買って行きたいんで」
「お父さんに連絡して、車を呼んどくわね」
「はい。センパイ、着替えましょう」
「ああ、そうだね」
彼女に促されソファーから立ち上がると、進一さんから手を差し出された。
「二郎くん、悪いが正徳さんを待たせてるんで、ここでお別れだ」
「はい。本当にありがとうございました」
差し出された手に合わせ、進一さんと強く握手をした。
握手をした進一さんの手の温もりから、彼女の実家である『秦の家』から退散する時が近づいたと実感した。
◆
彼女の準備した衣装に、寝泊まりさせて貰った部屋で着替える。
結果的に、隠岐の島へ来た時と同じ衣装で、某アパレルショップで揃えたボタンダウンのシャツにジャケットだ。
ノートパソコン専用バッグにノートパソコンとPadを納め、忘れないように充電器の類いなども入れる。
ウエストポーチに携帯の充電器を入れて少し考え、結局、ウエストポーチもキャリーバッグに押し込んだ。
ジャケットの内ポケットには、財布とスマホだけにした。
内ポケットにスマホを入れる際に確認すると、見知らぬ番号から着信履歴があった。
留守録も入っている。
多分だが、『国の人』の眼鏡さんからだろうと留守録を再生する。
「門守二郎さんの携帯でしょうか?先ほど伺った番号に連絡しております。お手数ですが折り返し連絡を頂ければ助かります」
案の定、眼鏡さんからの連絡だった。
俺はその番号をアドレス帳に『国の人な眼鏡』と名前をつけて保存し、折返しの通話をする。
プップップッ
トゥルートゥルー
「はい」
呼び出し音2回で眼鏡さんの声がする。
「門守です。眼鏡さんですか?」
「⋯はい、眼鏡です。二郎さんですね。早速の連絡をありがとうございます」
「いえいえ、礼を述べるのはこちらの方です。急な伊勢訪問に対応していただき、ありがとうございます」
「それで、この番号ですが、空港への迎えの者と共有して良いでしょうか?」
「ええ、構いません。むしろ、よろしくお願いします」
「お迎えに上がる者は⋯『ヤマモト』と言います。後程、『ヤマモト』の携帯から連絡させます」
コンコン
「センパイ、準備できました?」
眼鏡さんと話していると、彼女がノックと共に部屋に入ってきた。
「眼鏡さん、すいません。仕度があるんで切ります」
「はい、それではお気を付けて」
「センパイ、眼鏡さん?」
「ああ、さっき番号を教えただろ?確認の電話だよ」
「あぁ~ 眼鏡さんらしいですね。さて、準備はできました?」
そう言う彼女を見れば、俺と同じ様に隠岐の島へ来た時と同じ衣装だ。
う~ん。やっぱり彼女は可愛い。
「車も来てるみたいですよ」
「えっ、もう来てるの?」
彼女の言葉に動かされて、部屋の中を見渡す。
よし、忘れ物は無いなとキャリーバッグとノートパソコン専用バッグを手に彼女と部屋を出て階段へ行く。
すると、階段の前には彼女のキャリーバッグが置かれていた。
「うん。重いよな⋯」
「センパイ、オナシャス!」