17-2 緊急テレビ会議
「桂子さん、見えてますか?聞こえてますか?」
「大丈夫じゃ。見えとる聞こえとる」
朝食を食べ終え、彼女が洗い物を済ます頃に進一さんが帰ってきた。
進一さんは、吉江さんの指示で一昨日と同じ様に新型Padでバーチャんとのテレビ会議の準備をしている。
リビングエリアの大型液晶テレビには、バーチャんの顔と進一さんの顔が並んで写し出されている。
前回同様に、画面分割してのテレビ会議になるらしい。
「桂子さん、朝から何度もすいません」
「吉江さんか、どうしたんじゃ?」
バーチャんとのテレビ会議は、吉江さんから始まった。
「今朝話した、由美子と二郎さんがお伊勢様へ行く日を変えたいんです」
「なんぞあったんか?」
「実は勘違いしてて、今日、二人が本土に戻ったら、そのままお伊勢様へ向かわせたいんです」
「ほぉ~ じゃあ今日はこっちに来ないんじゃな?」
「ええ、それで今日は二人を伊勢周辺に泊めさせて、明日の朝にお伊勢様へ行かせたいんです」
「そうか、ワシはそれでええぞ」
バーチャんの言葉を聞いて、吉江さんがホッとした顔を見せた。
一方、俺の隣に座る彼女は、背筋を伸ばし佇まいを正した。
「それで、桂子さん。由美子が話があるそうです」
吉江さんが、それまで手にしていた新型Padを彼女に渡す。
「桂子お婆ちゃん、おはようございます。由美子です」
「おお、由美子さんじゃ。相変わらず可愛いのぉ~」
「あ、ありがとうございます」
「由美子さん、よくぞ二郎の嫁になる決心をしてくれた。ワシは嬉しいぞ!」
「ふ、不束者ですが、どうぞよろしくお願い致します」
「ゆ、由美子、それは私や父さんが言う台詞よ!」
彼女の言葉に吉江さんが反応する。
進一さんは恭平君を膝に抱えて笑いを堪え、隣に座る里依紗さんも同じ様に笑いを堪えている感じだ。
「由美子さん、こちらこそ若輩者の二郎じゃ。せめて仲良うしたってくれ」
「はい、ありがとうございます」
彼女はそう言うと、隣に座る俺にPadを渡してきた。
なるほど、彼女が気にしていた『順番』の話しは、俺に丸投げする気だと察した。
「バーチャん、彼女が気にしてるのは、バーチャんに正式に挨拶に行く前に、伊勢神宮に行くことなんだ」
「おお、今度は二郎か。由美子さんはそんなことを気にしとるんか?」
「あぁ、そうなんだ⋯」
「由美子さんに伝えたってくれ、二郎の嫁に来てくれるだけで十分じゃ。ワシは順番なんぞ気にしとらん」
「バーチャん、ありがとう」
「順番は気にせんが⋯まさか!もう由美子さんに子ができたんか!」
バーチャんの言葉に進一さんがビクリと反応し、里依紗さんが慌てて恭平君の耳を塞ぐ。
吉江さんは頭をたれ、京子さんはオドオドし、彼女の顔は赤く染まる。
「一郎も礼子も早かったからのう、由美子さんも二郎も頑張るんじゃぞ」
「バーチャん、恭平君もいるから!」
思わず俺の発した言葉に反応したのか、里依紗さんに耳を塞がれた恭平君が✌️サインをしてみせる。
これ、恭平君に聞こえてるだろ。
「そうじゃ、二郎。眼鏡が来とるんじゃ」
「えっ?!」
「進一も居るならちょうど良い、ほれ、進一と二郎じゃ」
バーチャんがそう言うと、新型Padに『国の人』の眼鏡さんが写しだされた。
「あら、眼鏡さん」
彼女が驚いた声を上げる。
「桂子さん、眼鏡さんが来てるの?」
吉江さんも驚いた声を上げる。
「あら、懐かしい」
京子さんまで声を上げる。
「へぇ~、眼鏡さんが来てたんだ」
進一さんも少し驚いている。
「二郎さん、由美子さん。ご婚約おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
『国の人』な眼鏡さんからの第一声は、俺と彼女を祝う言葉だった。
「二郎さん、ご婚約の知らせは私が一番最初ですよね?」
「ええ、まあ、最初になりますね」
眼鏡さんの言葉に、大阪へ向かう際のやり取りを思い出す。
〉ご一緒になられる際は
〉『私へ一番最初に』一報を願います
「最初に知らせて頂き、本当にありがとうございます」
「いえ、こちらこそ祝いの言葉に感謝します」
「隠岐の当代である進一さんもいらっしゃるんですよね?」
「ええ、代わりますか?」
眼鏡さんが口にした進一さんを見れば、それまで膝に抱えていた恭平君を里依紗さんに預けようとしていた。
「いえ、先に二郎さんと由美子さんの伊勢訪問の話をさせてください」
「はい?」
「今日の午後に本土に戻られて⋯」
「ええ、午後に飛行機で大阪、そのまま伊勢神宮へ向かいます」
「と言うことは⋯今日は伊勢で一泊されるんですね?」
「ええ、まだ宿は取れていませんが⋯」
「空港からの御足と伊勢での宿を手配します」
「えっ?」
さも当たり前のように述べる眼鏡さんの言葉に驚いた。
慌てて彼女を見れば、キョトンとした顔をしている。
「いえ、そこまでお手数をお掛け出来ません」
「いえいえ、明日、伊勢に行かれるのなら同じです」
何が同じなんだと思いながらも、昨夜の進一さんとの会話を思い出した。
これは、眼鏡さんか誰か『国の人』が伊勢神宮に同行するつもりなんだと察した。
「私は今日はお迎えに行けませんが、別の者を空港まで迎えに行かせます。その際に連絡が取れるよう、電話番号をお知らせいただきたいのです」
そう言えば、俺は『国の人』である眼鏡さんに自分の電話番号は教えていない。
一瞬、教えて良いのだろうかと迷っていると、彼女が自分のスマホを取り出した。
「えぇ~っと⋯」
「いや、由美子のは教えたくない。俺の番号にしよう」
「えっ?そ、それならセンパイのは⋯」
そう言って彼女はアドレス帳を開き、俺の電話番号を見せてきた。
俺は彼女に見せられた自分の電話番号を読み上げる。
「080ーXXXXーXXXXです」
「ありがとうございます。後程、確認のために電話させていただきます」
「はい、了解しました」
「それで、隠岐の当代の進一さんとお話をさせていただけますか?」
眼鏡さんから進一さんと代わって欲しいとの要望を受けた。
俺は進一さんへ伺いの目線を送る。
「進一さん、大丈夫ですか?」
「良いよ。代わろう」
了解を得られたので、新型Padを進一さんに渡そうとすると恭平君が割り込んできた。
俺が進一さんに差し出した新型Padに向かって、恭平君が✌️サインを出し続ける。
それに応えた眼鏡さんが、同じ様に✌️サインを出す様子が大型液晶テレビに写し出されていた。