17-1 日程調整
「センパイ、起きてください」
由美子、今朝も綺麗だね。
「う~ん、今、何時?」
「8時20分です」
しまった!寝坊してしまった。
「これに着替えたら降りてきてください。みんな朝御飯も済ませてますよ」
あぁ⋯昨日の朝も同じ言葉を言われた気がする。
昨晩は、あれから全ての未読メールに目を通した。
結果的に、未読メールの全てが情報共有とその返信だったので、特に俺や彼女、課の連中が返信する必要は無いと判断した。
それでも30通を読み解くのは骨が折れる作業だった。
トイレに行き顔を洗い歯を磨き、着替えを終える。
彼女や吉江さんと伊勢神宮への日程を相談したくて、昨晩書いたメモを片手に階下へ行く。
「おはようございます」
「「おはようございます」」
「お兄ちゃん、おはよう✌️」
ソファーでくつろぐ京子さんと吉江さん、恭平君に挨拶する。
寝坊した俺の挨拶に、二人はにこやかな顔で返事を返してくれた。
恭平君は、いつもの✌️サインだ。
「二郎さん、お伊勢様の件。今朝、桂子さんにお伝えしたわよ」
「お手数をお掛けします」
吉江さんが朗らかな顔で声をかけてきた。
吉江さんとしては、俺と彼女がお伊勢様へ出向く件が決まったこと。
それをバーチャんへ伝えたことで、肩の荷が下りた感じなのだろうか。
だが、俺としては日程の調整をしたい思いもあり、思いきって吉江さんに提案をする。
「吉江さん、明後日のお伊勢様ですが、日程を調整したいです」
「なにっ!どういうこと?!」
吉江さん、お伊勢様へ行くのを中止する訳じゃないです。
急に立ち上がり、仁王立ちで朝から睨まないでください。
俺は手にしたメモを持ってソファーに座った。
恭平君が気を利かせたのか、京子さんの膝に身を預けるように移動する。
「吉江さん、詳しく話しますから座って話を聞いてもらえますか?」
吉江さんを宥めるようにソファーに座らせ、持ってきたメモをソファーテーブルに置き、日程調整の説明を始める。
「お伊勢様へ行く日付を、1日、早めようかと思うんです」
「あら、良い提案ね」
おっと吉江さん。急に笑顔ですか?
「宿の手配と、里依紗さんのご実家の都合がつくならの話です。それと由美子の気持ちもあります」
「具体的には、どんな感じの日程なの?」
「昨夜考えたのは、こんな感じなんです」
吉江さんが日程の変更に同意してくれそうなので、昨夜メモに記した日程をみせる。
今日中に淡路島の実家に戻る部分を指差し、吉江さんへの説明をする。
「昨日の夜、あれから整理してみたんです。この案ですと、淡路島の実家に一旦戻るので、お伊勢様へ出向くのに時間を要するんです」
「⋯そうね。二郎さんの言うとおりね」
「吉江さん、ボールペンか何かありますか?」
「ええ、あるわよ」
俺は吉江さんからボールペンを借りて、メモの下部に日程調整の案を書き足してみた。
━当初の案━
5月5日(水) 隠岐の島→大阪伊丹空港→淡路島の実家
5月6日(木) 淡路島の実家→伊勢神宮
5月7日(金) 伊勢神宮→淡路島の実家
5月8日(土) 休日
5月9日(日) 淡路島の実家→東京
━俺の調整案━
5月5日(水) 隠岐の島→大阪伊丹空港→伊勢神宮
5月6日(木) 伊勢神宮→淡路島の実家
5月7日(金) 休日
5月8日(土) 休日
5月9日(日) 淡路島の実家→東京
俺の調整案を見ながら、吉江さんが呟く。
「そうねえ⋯二郎さん、先に朝御飯を済ませて、里依紗と話しとくから」
そう言って吉江さんがダイニングテーブルへ目をやる。
俺も吉江さんの目線を追えば、ダイニングテーブルで彼女が朝食の準備をしながら里依紗さんと会話していた。
俺はソファーから立ち上がり、ダイニングテーブルで雑談する二人に声をかけた。
「里依紗さん、おはようございます」
「あら、おはようございます」
「ちょっと伊勢神宮へ行く日程で相談があるんです」
「えっ?私にですか?」
「ええ、すいませんが吉江さんと話してくれます?」
「吉江義母さんと?いいですけど⋯」
里依紗さんがリビングエリアに目をやれば、吉江さんが里依紗さんを手招きしていた。
里依紗さんが吉江さんの元に向かったので、ダイニングテーブルに彼女と共に座り朝食をいただくことにした。
朝食は昨日と同じメニューで、味噌汁は俺の好きな玉ねぎと卵、そして白いご飯と生卵に漬け物。
まるで実家の朝食を再現したようだ。
彼女の笑顔を見ながらの朝食は、なんか嬉しい。
「センパイ、明後日の伊勢神宮を変えるんですか?」
「うん。今日中に淡路島に戻ると、明日の午後に伊勢神宮に向かうことになって、少しバタバタするんだ」
「⋯もしかして、桂子お婆さんに挨拶する前にお伊勢様ですか?」
「由美子は嫌かい?」
「私は構わないけど、桂子お婆ちゃんに失礼な気がして⋯」
「う~ん。由美子のそう言うところが俺は好きだな」
「しぇ、しぇンパイ、あしゃから愛の告白でしゅか?」
「顔が赤いよ(笑」
彼女は顔を赤らめながら、少しクネクネ気味に朝御飯を食べている。
こういうところが彼女の可愛さでもある。
「バーチャんには俺からも伝えるから」
「桂子お婆ちゃんに伝える件は、絶対にセンパイが助けてくださいね」
「そうだね。俺も由美子の印象は良くしたいからなぁ⋯」
「そういうのって、以外と大切らしいですよ」
「嫁姑な話か?」
「うん。里依紗さんに少し教わろうかな⋯」
「そうだね。それが良いかもね(笑」
「何か、里依紗さんのご実家と母さん、変に仲が良いんです」
「俺から見ても吉江さんと里依紗さんの仲が良いのは感じるなぁ⋯」
「センパイもそう思います?」
「ああ、嫁姑って⋯色々、聞くだろ?」
「⋯センパイ。朝から不安にさせないでください」
「けど、俺は由美子なら大丈夫だと思うよ(笑」
「変なプレッシャー掛けないでください」
「朝から仲が良いわね」
そんな話を彼女としていると、里依紗さんから声を掛けられた。
「仲が良いのは結構だけど、二郎さんも由美子も勘違いよ」
今度は吉江さんから声を掛けられた。
見れば里依紗さんと吉江さんが仁王立ちだ。
二人の仁王立ちの様子に、やっぱり二人は仲が良いと感じる。
「由美子さんは私の実家を忘れたの?」
「あっ!ご、ごめんなさい⋯忘れてました⋯」
里依紗さんの言葉に、彼女が思い出したような顔をし、しょんぼりとした声で返事をする。
俺は何が何だかわからない。
里依紗さんの実家は、『伊勢の門』の守人なのはわかるが⋯
「いいわ、二郎さんと由美子は朝御飯を済ませて。桂子さんの顔を見ながら話したいから、里依紗は進一を呼んで。由美子は洗い物も済ませて」
「「「はい」」」
テキパキと指示を出す吉江さん。
その様子に全員が「はい」としか返事を出来なかった。