16-30 『YES』or『NO』
進一さんと里依紗さんが語る日本神話の中から、衝撃的と言うか考えさせられる話が出てきた。
代表的な日本神話の『天岩戸』で、岩戸を開く際に『勾玉』が使われたと言うのだ。
この有給休暇中に『門』に関わってきた日々、そして『継ぐ』とは何かを学びに来た隠岐の島での経験。
これらからすれば、今聞かされた日本神話の『天岩戸』は、『勾玉』を使って『門』を開くのと同じだ。
「進一さん里依紗さん、『伊勢の門』の『鍵』は『八尺瓊勾玉』なんですか?」
俺は思いきって二人に問いかけた。
「その問いへの答えは『YES』ね」
「うんうん」
里依紗さんが答え、進一さんが頷く。
ここで俺は当初の話を思い出した。
そもそもは、里依紗さんと交わした⋯
〉里依紗さんのご実家は『守人』
〉母が『伊勢の門』の守人の一人
〉お母様は伊勢神宮にお勤めですか?
〉ちょと違うわね
『伊勢神宮』と『伊勢の門』の関係が理解し難い。
待てよ。確か進一さんは⋯
〉実は伊勢神宮にも『門』があるんだ
〉『伊勢の門』と呼ばれて、別名が『神の門』と呼ぶらしい
どうも理解ができない。
進一さんは伊勢神宮に『伊勢の門』があると言う。
そして里依紗さんの母親は『伊勢の門』の守人だが、『伊勢神宮』には勤めていなと言う。
「進一さんと里依紗さん。YESかNOで答えてください」
「急にどうしたの二郎さん?」
「いや、里依紗。二郎くんの質問を聞こう」
進一さん、ありがとう。
俺の無礼な願いを受けてくれてありがたい。
「進一さん、伊勢神宮に『伊勢の門』はありますか?」
「その質問への答えは『YES』だね」
「あら?!」
進一さんは『YES』と答えた。
その答えに里依紗さんは首を傾げた。
「里依紗さん、同じ質問です。伊勢神宮に『伊勢の門』はありますか?」
「答えは『NO』よ」
「ククク」
里依紗さんは、ハッキリと『NO』と答えた。
どういうことだ?
二人の答えが違っている。
「二人の答えが違うんですが⋯」
「二郎さん。これだけは覚えてね。『伊勢神宮』と『伊勢の門』は別のものよ」
「ククク。外から見れば同じなんだけどね(笑」
ガタン!
「進一さん!まだそんなことを言ってるの!」
急に里依紗さんが立ち上がり、進一さんに怒りを表す。
「里依紗、落ち着いて⋯」
「里依紗さん落ち着いてください」
俺も進一さんも、慌てて里依紗さんをなだめる。
「進一さん、別のものだと結婚前に言ったはずです!まさか未だに同じだと思ってるんですか!」
「いや、だから⋯周囲からはそうした見方もあると言う話で⋯」
里依紗さんの怒りが治まらない。
進一さんが弁明を始めてしまった。
「あ~ショックだわぁ~」
「いや、だからそれは見方の話であって⋯」
「じゃあ、聞くけど同じだと思ってるの!」
「いや、それは⋯」
「さっき、二郎さんの質問には『YES』って言ったじゃない!」
「いや、それはそれで⋯」
おいおい、里依紗さん。
俺を巻き込まないで。
「進一さんが、あんな連中と同じ考えだなんて!」
「いや、だから里依紗⋯周囲からの見方の話であって⋯」
里依紗さんが立ったまま進一さんを問い詰める。
金髪イケメンの進一さんがオロオロするのが少し笑える。
「じゃあ、聞きます。『伊勢の門』は『伊勢神宮』の一部ですか?」
「いえ、違います。『伊勢の門』と『伊勢神宮』は別の物です」
あっ、進一さんが折れた。
「よろしい!今後、気を付けるように!」
「はい。気を付けます!」
「じゃあ、私はお風呂に行ってきます」
「はい」
里依紗さんは仁王立ちでグラスの海草焼酎を一気に飲み干し、踵を返すようにリビングテーブルを離れた。
あんな飲み方をして風呂に入って、大丈夫だろうかと要らぬ心配をしてしまう。
「ふぅ~ 二郎くん。この手の質問は⋯里依紗の前では禁句なんだ。特にお酒が入ってる時には⋯」
「なんかスンマセン(笑」
思わず愛想笑いを交えて謝ってしまった。
具体的に、何が里依紗さんの琴線に触れたかが俺には解らない。
それでも『伊勢の門』の守人には、派閥のようなものがあるようには感じる。
「進一さん。その⋯『伊勢の門』には派閥のようなものがあるんですか?」
「派閥?まあ、そんな感じだね」
「何か変な感じですね」
「あそこは当代が不在だろ。だから取り纏めが効かなくて、守人同士で考えが合わずに争ってしまうんだよ」
「へぇ~」
「厄介なのは、伊勢神宮からも守人が来てて、代々の守人と覇権争いまでするし⋯」
「なんか拗れてますね⋯」
「もっと嫌らしいのは、他の門を、そう例えばこの『隠岐の島の門』は『伊勢の門』に属するとか言う奴も居るんだよ」
「プッ 何ですかそれ?!」
「笑えるだろ。自分達の門の位置付けすら出来ずに、他の門に手を出してこようとするなんて、僕からすれば頭がおかしいと感じるよ」