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門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月4日(火)☀️/☀️
225/279

16-27 三種の神器


「二郎さんは、三種の神器をご存知ですか?」

「三種の神器?」


 里依紗さんの語りは、俺への質問から始まった。

 その質問は、普段の生活には全く縁遠い物だった。


八咫鏡やたのかがみ草薙剣くさなぎのつるぎ⋯」

「あっ!里依紗さん。それって、鏡と剣と⋯勾玉まがたまの話ですよね?」

「うんうん。二郎くんは、その付近の知識はありそうだね」

「⋯」


 質問した里依紗さんから、答えが出ようとするのを俺が遮るように言うと、進一さんが後を押す。

 隣に座る彼女は、何も言わずにグラスの海草焼酎を口に含んだ。


「じゃあ、この三種の神器についてだけど⋯」

「義姉さん、ゴメン。私、抜ける」


 里依紗さんが語りを続けようとすると、彼女が珍しく不穏な言葉を口にする。


「由美子さんは苦手よね。この手の話(笑」

「ゴメン。本当にダメなの。じゃあ、抜けまぁ~す」


 そう言った彼女はグラスを片手に席を立った。

 その様子は、今まで俺が彼女に感じたことの無い様子だった。

 ソファーエリアに向かう彼女の背を追っていると、進一さんが話し始めた。


「まぁ、仕方ないな」

「ええ、前に由美子さんと話したけど、由美子さんの気持ちもわかるわ」

 二人で何の話をしてるの?

 進一さんも里依紗さんも、話の途中で離席した彼女を責める様子もない。


「里依紗、その付近の話だが⋯二郎くんには、由美子から聞かせる方が良いと思うよ」

「そうね、二郎さん。由美子さんから聞いてね?」

「へえっ?」

 思わず変な返事をしてしまった。

 二人の話しぶりと、俺に突然ふられて変な返事をしてしまった。


「二郎くん。由美子が"門"に関わりたくないトラウナ?」

「トラウマですか?(笑」

「フフフ」


 里依紗さんも進一さんも、途中で離席した彼女を責めるどころか、心配するぐらいだ。

 むしろ、進一さんの言い間違いに里依紗さんが含み笑いを返す。


「ウホン。じゃあ、里依紗。話を戻そう」

「そうね。二郎さん、三種の神器に話を戻すわよ」

「ええ、お願いします」


 気を取り直して、里依紗さんの語りを続けてもらう。


「二郎さんは、三種の神器をどのくらい知ってるの?」

「確か⋯天皇の継承に使われるとか?」

「そうだね。2年前に平成から令和に替わる時に天皇継承のニュースに出てたね」


 進一さんの言葉がありがたい。

 そもそも『三種の神器』なんて言葉、俺がそれに触れたのは、天皇が代替わりするニュースで知ったからだ。


「ええ、そのニュース、覚えています。天皇の代替わりで、天皇を継いだ証で贈られるとか?」

「二郎さんは思い出せる?その時に何が贈られたか?」


 里依紗さんの問いかけが続く。


「確か⋯剣と勾玉まがたまだったと思います。そうだ、思い出しました。草薙剣くさなぎのつるぎ勾玉まがたまです」

「鏡は?」


「鏡?」

「天皇の継承では、三種の神器が継がれるの。剣と勾玉まがたまが贈られたんでしょ?鏡はどうしたか知ってる?」


「鏡⋯さっき、里依紗さんが口にした、八咫鏡やたのかがみですよね?」

「そう。何処にあるの?」


 俺はいくらか酔った頭で、2年前の記憶を探る。

 天皇の代替わりのニュースから、ネットで検索した記憶が甦ってくる。


「あっ!思い出しました。伊勢神宮の御神体ですよね?」

「ククク。正解だ二郎くん」


「じゃあ、次の質問よ。草薙剣くさなぎのつるぎを御神体にしている神社は何処でしょうか?」

草薙剣くさなぎのつるぎを御神体?それって⋯熱田神宮だと思いますが?」

「二郎くん、それも正解だ」


「あのニュースを見て気になって、ネットで調べたんです。八咫鏡やたのかがみは伊勢神宮の御神体で、草薙剣くさなぎのつるぎが熱田神宮の御神体だと知ったんです」

「ネットで調べたか。なかなか二郎くんは勉強熱心だな」


「ここまでの話で、三種の神器が天皇の継承に使われてるのは、わかるわね?」

「はい。八咫鏡やたのかがみ草薙剣くさなぎのつるぎ、それに勾玉まがたまですよね」


 かなり、思い出してきた。

 通勤電車の中で、時間潰しのようにスマホでネット検索したのを思い出す。

 

「じゃあ、2年前の令和になった時に、天皇の継承に使われたのは、どうして剣と勾玉の2つなの?」

「どうしてって言われても⋯八咫鏡やたのかがみは、伊勢神宮で御神体になってるから⋯」


「それなら、草薙剣くさなぎのつるぎも、熱田神宮で御神体になってるわよ?」

「そうそう、それが不思議に思ったんです。さっきも言いましたが、ネットで調べて『形代かたしろ』だとかまでは⋯」

「やはり、二郎くんは勉強熱心だな。ククク」


 里依紗さんが問いかけ、俺がネットで調べた記憶で答え、進一さんが合いの手を入れる。


「『形代かたしろ』って言うのは、神霊が依り憑く(よりつく)依り代の一種なの」

「ええ、そんな感じですよね」


偽物にせものではなく、神が宿るから形代かたしろと言う理解で良いわね」

「はい。自分はそう理解しています」


「じゃあ、本物や偽物については意識から外して話しても大丈夫ね」

「ええ、御神体ってそうした物だと理解していますので大丈夫です」


 里依紗さんからの話を理解するため、御神体が本物か偽物かは考えない。

 むしろ『形代かたしろ』と言うもので、神が宿っているものだと考える。


 2年前にネットで調べた時にも、そのように納得した。

 そもそも、御神体が本物か偽物かは問う必要性を感じない。


「少し話を戻すけど、八咫鏡やたのかがみ草薙剣くさなぎのつるぎ八尺瓊勾玉やさかにのまがたま、この3つが三種の神器なのは理解できるわね?」

「ええ、鏡と剣と勾玉ですよね」


「これらの形代で、神が宿っている御神体として、伊勢神宮や熱田神宮が祀っているのは理解できる?」

「ええ、理解できます」


 里依紗さんの話で、形代を御神体として祀っているのは理解できた。

 だが、酔い始めた頭で考えても、少々、疑問が湧いてきた。


 『勾玉まがたま』の形代を御神体として祀っているのは、何処だ?


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