16-26 お伊勢様へ
剛志さん、進一さん、俺の3人で夕食を済ませた。
3人の晩御飯の洗い物も、3人で済ませた。
「二郎君、すまんが先に休ませてもらうぞ。明日も早いんだ」
「剛志さん。いろいろと、ありがとうございました」
「次に会えるのは⋯結納だよな?期待してるぞ(笑」
「はい。また連絡します」
そんな会話をして、剛志さんは立ち去った。
リビングテーブルに残された俺と進一さんは、進一さんのすすめで再びグラスに酒を満たす。
「二郎くん。明日の飛行機は、昼過ぎだよね?」
「あれ、何時なんだろ?」
「ククク。由美子任せかい?」
そう言って進一さんが席を立ち、ソファーに座る彼女に話しかける。
気が付けば、ソファーには女性陣が全員座っていた。
未だテレビドラマは始まっていないようで、進一さんが彼女を連れて来た。
「私も少し飲もうかな?」
「ああ、良いよ。グラスは自分でな」
進一さんにいわれ、彼女はキッチンからグラスを持ってきた。
彼女もリビングテーブルに座り、俺の前に氷が入った空のグラスを出してくる。
はいはい。と思いながら俺は剛志さんの置いていった海草焼酎でグラスを満たす。
彼女のグラスも準備できたことで、改めて3人で乾杯の仕草をする。
「由美子、明日の飛行機は何時なんだ?」
「確か14時だったかな?」
「聞いといて悪いんだが、明日は送れそうもないんだ。由美子はタクシーを手配できるよな?」
「うん。大丈夫。昼前に出てお土産を買うから。自分達で行けます」
「なら、それで頼むね」
「そうだ、お兄ちゃん、これ」
「ん?」
彼女がペンダントを出してきた。
昼に進一さんが彼女に渡した、里依紗さんがデザインしたやつだ。
進一さんはペンダントトップを見つめる。
「これって、昼に渡したやつだろ?」
「そう。回復を続けたら、あっという間に空になったの」
「ククク。使ったのか?」
進一さん。ニヤリとしないで。
「ウホン。今は手元に無いんだ。二郎くんの『魔石』を返す際に、一緒に新しいのを送るよ」
「宅配便?」
「いや、彼らに持って行って貰う」
「いつ頃になるかな?」
「明日は無理だから⋯最速で明後日だな」
「じゃあ、桂子お婆ちゃんの所でお願いして良い?」
彼女と進一さんが、新しいペンダントの話をするなかで、バーチャんの名前を出してきた。
「なんだ?桂子さんのところに寄るのか?」
「明日の飛行機で大阪に行って、桂子お婆ちゃんのところに戻ろうと思うの。きちんと挨拶したいし」
そう言って、彼女は俺に腕を絡ませてくる。
「わかった。桂子さんのところに送るよ。二郎くん、それで良いね?」
「ええ、それでお願いします」
「ちょっと待った」
突然、吉江さんが現れた。
しかも仁王立ちだ。
あれ?吉江さんの後ろに里依紗さんも仁王立ち?
「二人がお伊勢様に行くのはいつなの!」
「「「⋯⋯⋯」」」
思わず進一さん、俺、彼女が呆気に取られてしまった。
「明日の飛行機で本土に戻って、そのまま、お伊勢様じゃダメなの?」
吉江さん。なかなかすごい剣幕です。
その吉江さんの剣幕に、彼女が応えた。
「桂子お婆ちゃんに挨拶に行くから、早くて明後日?」
「よろしい。明後日にお伊勢様ね。私から桂子さんに伝えとくから。里依紗、実家に連絡しなさい」
「はい」
里依紗さんが吉江さんの指示に即答して、スマホで通話している。
「ククク。二郎くん、どうする?」
「ええ、明日は淡路島に泊まって、明後日、伊勢神宮に向かいます」
「よし。明後日にお伊勢様ね。里依紗、どう?」
吉江さんの言葉に、里依紗さんが答える。
「お義母さん、明後日は無理だそうです。金曜日の10時なら大丈夫です!」
「決まりね。由美子と二郎さん、金曜日の10時にお伊勢様へ行きなさい」
「「はい」」
吉江さんの言葉に、俺も彼女も『はい』の返事しかできませんでした。
◆
リビングテーブルには、里依紗さんが加わり4人となった。
吉江さんは、俺と彼女が伊勢神宮に行く日程が決まって安心したのか、ソファーエリアの京子さんの側に戻って行った。
里依紗さんは進一さんの隣に座り、進一さんのグラスを奪い、ちびちびと飲んでいる。
俺は、吉江さんが里依紗さんに実家に連絡させた理由がわからず聞いてみた。
「里依紗さん。どうして実家に連絡を?」
「ああ、それね。実家がお伊勢様に近いんです」
「ククク。まあ、近いな」
進一さんの少しニヤけた顔に疑問が浮かび、思いきって聞いてみた。
「もしかして⋯里依紗さんのご実家は『守人』ですか?」
「ええ、母が『伊勢の門』の守人の一人よ」
「ククク」
あっさりと里依紗さんが答える、進一さんはいつもの笑いで応える。
「じゃあ、お母様は伊勢神宮にお勤めなんですか?」
「う~ん⋯ちょと違うわね。進一さんから聞いてないの?」
「ええ、聞いてないです」
それから、里依紗さんと進一さんが『伊勢神宮』と『伊勢の門』の関係を話してくれた。