16-25 選択肢
俺は、『淡路陵の門』の『鍵』である『お爺ちゃんの勾玉』の話をした。
宅配便でバーチャんから送り付けられたこと。
それを持って淡路島に帰省したこと。
すると神様ご一行がやってきて、若奥様が『魔素』を充填したこと。
そうした話を、剛志さんと進一さんにしてから問いかける。
「そんなことがあったんです。剛志さんも進一さんも、どう思います?」
「「う~ん⋯」」
二人とも腕を組んで考え出してしまった。
「『門』を閉めることを考えたら、手元から『鍵』の勾玉を手離すのは危険ですよね?」
「「う~ん⋯」」
腕組を解き、最初に返事をしてくれたのは剛志さんだった。
「二郎君、色々と考えてみたが⋯」
「僕も考えてみたが⋯」
「考えてみたが?」
「わからん」「わからないね」
進一さんが剛志さんに続いて答える。
「桂子さんに聞くしかないね」
「そうだね。僕らじゃ桂子さんの考えはわからないよ」
「そうですよね⋯」
「ただ、これだけは言える」
「何ですか?剛志さん」
「二郎君は、『門』の知識が増えたから、桂子さんへの気遣いが増えている」
「確かにそうだね」
「⋯」
剛志さんから思わぬ言葉が出てきた。
それに頷く進一さん。
『気遣いが増えている』???
頭の中で疑問符が沸いてくる。
俺はバーチャんに気遣いが足りないだろうか?
淡路島での日々では、高齢のバーチャんを気遣い、そろそろ戻って世話をしようとも考えた。
俺なりに気遣いはしているつもりなのだが⋯
「二郎君が知識の無いままなら、桂子さんへの、こうした気遣いは出なかっただろう」
「うんうん」
「⋯」
ああ、なるほどと理解できる。
俺の気遣いは、高齢のバーチャんの世話をどうするかが主体だった。
バーチャんが、初代で当代として、『門』を守っていることなんて考えは一切無かった。
『淡路陵の門』が、地震などで開いた際に、向こうの世界から何かが入って来ないように閉じるなんて考えていなかった。
『門』を閉じるには、一つ間違えば、『魔力切れ』を起こして死ぬこともあり得るなんて全く考えていなかった。
その役目を、高齢のバーチャん一人に延々とさせていたなんて、俺は今まで知らなかった。
「桂子さんは、二郎君に『継ぐ』か『継がないか』の選択肢を与えた気がするんだ」
「選択肢ですか?」
剛志さんからの思わぬ言葉が続き、思わず問い返してしまう。
「ワシや進一は、『継ぐ』事が当たり前だったが、二郎君は違うだろ?」
「うんうん」
剛志さんの言葉に進一さんが頷く。
「『門』を教えないで『継がせない』のと、教えた上で選択させるのは違うと思うんだよ⋯」
剛志さんが言うのも頷けるが⋯
「僕も意見を述べて良いかな?」
「ええ、進一さんの考えも知りたいです」
剛志さんの言葉に疑問を残しつつも、進一さんの考えも知りたい。
「二郎くんは『継ぐ』が何かを知りたくて、隠岐の島まで来たんだろ?」
「言われてみれば、そうですね」
「二郎くんは、知識を得た上で、どうするつもりだったんだい?」
「そ、それは⋯」
なるほど。
二人に言われてみれば、俺は自分の考えを整理していなかった。
バーチャんに『継ぐ』の言葉を与えられ、日記を読んで『門』に興味を持った。
『継ぐ』とどうなるのか。
『継がない』とどうなるのか。
そうしたことは、全く考えていなかった。
そこにあったのは、『継ぐ』ことが何かを知ろうとする、興味本位な気持ちだけだ。
これは単なる好奇心だったのだろう。
けれども、俺の立場からすれば、好奇心で済ませれるものではない。
行き着く先にあるのは、『継ぐ』か『継がない』かの選択だ。
それにしても、俺は、なぜ興味を持ったのだろう。
もしかして、『継ぐ』事で自分に何かが起きることを期待したのだろうか?
「僕や父さんと、二郎くんは違うんだよ。僕らは『継ぐ』のが当たり前だったんだ」
進一さんの言葉は続く。
「いわば、『継がない』という選択肢が、僕らには無かったんだよ。ところが二郎くんは選択肢を持っている。これはある意味で二郎くんは恵まれているよ」
「そ、そうですね⋯」
今の俺の目の前には、『継ぎたくても』その血筋から『継げない』剛志さんがいる。
一方、親の願いから『継ぐ』為の血筋を与えられた進一さんがいる。
この二人には、『継がない』と言う選択肢は無かったのだろう。
そこまで考えて、俺はある結論に達した。
「結論として、自分で考えるしかないですね。『継ぐ』のか『継がない』のか、それは自分の人生を決めるのと同じですね」
「「うんうん」」
「剛志さん、進一さん。色々と教えていただき、ありがとうございます」
俺は、心から二人に感謝を述べた。
俺の言葉に二人は頷いてくれる。
ありがたいことだ。
「さあ、進一に二郎君。メシにしないか?」
「そうだね。僕はスープを温めてくるよ」
「じゃあ、自分は残りを焼いちゃいますね」
そう言って、3人で食事の準備を始めた。