16-24 古い勾玉
「ちょっと、スマホを取ってくる」
そう言って、進一さんは席を立った。
残されたのは、俺と剛志さんと魔法円のホットプレート。
そのホットプレートからパチパチと餃子の焦げ始める音がする。
慌てて蓋を取ると、よい感じに焼けた餃子が姿を表した。
その餃子を肴に、剛志さんと海草焼酎を酌み交わす。
「『鍵』の勾玉だが⋯通常は弟子入りしないと見せないらしい。二郎君は、半分、進一に弟子入りしたのも同じか。ハッハッハ」
「あれ、じゃあ剛志さんは、『淡路陵の門』の勾玉を見てるんですか?」
剛志さんから、『鍵』の勾玉の話を振られた。
俺は『弟子入り』の言葉を気にしながらも、剛志さんがバーチャんに弟子入りした話を思い出す。
「桂子さんに見せてもらったよ。翡翠だろ?」
「ええ、若奥様が⋯」
「若奥様?ああ、確かに若奥様だね(笑」
「ここ、隠岐の島にも来たんですか?」
俺は神様ご一行が淡路島を訪れ、若奥様(女神)が『魔素』を充填した話をしようとすると、若奥様の言葉に剛志さんが食い付いた。
「ああ、隠岐の島にも来たよ。古いやつが壊れてね。新しく作ったら直ぐに来たよ」
「壊れた?」
進一さん、何をしたの?
「そう、進一が写真と言ってるのは、壊れたやつを撮影した時のだろうな」
「いや、あれって、壊れるんですか?」
剛志さんに、古い勾玉が壊れた話を聞こうとすると、後ろから声を掛けられた。
「ほら、これだよ。二郎くん」
戻ってきた進一さんが、スマホを見せてきた。
見せられたのは、二つに割れた黒い勾玉だった。
「これって『鍵』の勾玉ですよね?壊れるんですか?」
「ああ、10年前の地震で急に『門』が開いたんだ。『鍵』を使って急いで閉じたんだ」
「何とか閉じれたけど、その時にこの有り様だよ」
進一さんの説明から、『隠岐の島の門』も地震で開くことがわかった。
また、『門』を閉じるのに実際に『鍵』として勾玉を使っていることがわかった。
「壊れたままだと、もし地震か何かで『門』が開くと、命懸けで閉じることになるだろ?」
「そ、そうですね⋯」
「それで例の工房にお願いして、同じサイズのを作ってもらったんだ」
進一さんの言う例の工房とは、原石を拾いに行った際に立ち寄った、黒曜石の工房だろう。
「新しく作って、残りの『魔石』で充填したんだが⋯」
「あの時か?進一は魔力切れになったな。ハッハッハ」
剛志さん、笑うところじゃないと思います。
「『門』が開いてないから、新しい『鍵』の勾玉を『魔石』にできないだろ?」
進一さん。
俺に『魔石』の作り方を問いかけないでください、
「仕方がないから、由美子がやって見せたように『魔石』から『魔素』を移動したんだ」
「ええ、あれですね」
「1個目は素直に移動してくれたが、2個目を掛けようとして、魔力切れだよ。ククク」
「『Double魔石』?」
「そこで二郎君の言う若奥様が登場だ」
なるほど、頷ける流れだ。
やっぱり女神様だけのことはある。
窮地に陥ると助けるんですね。
「進一、二郎君なら、出来るんじゃないか?(笑」
「そうだね。『魔素』の入ってない予備のがあるから、二郎くんにやってもらうか?(笑」
「お断りします。それは女神様の仕事です(笑」
「ククク」
「ハッハッハ」
「ハハハ」
冗談が出始めて、ひと安心だ。
それでも気にはなる。
思い返せば、バーチャんから宅配便で送り付けられた時、『お爺ちゃんの勾玉』は『魔素』が切れ掛けていた。
今は女神様が充填してくれた状態だが、地震か何かで『門』が開いて、バーチャんが閉じた時に壊れたら後がない。
俺の知る限り、バーチャんは予備の『鍵』なんて持っていないだろう。
そうなると『お爺ちゃんの勾玉』無しで、バーチャんが『門』を閉じようとしたら⋯
バーチャんを、『魔力切れ』で死なせるわけには行かない。
本気で予備の『鍵』を備える必要があるな⋯
待てよ。
バーチャんは、俺に宅配便で送り付けてきたよな?
あれって、俺に充填しろって事だったのか?
というか、バーチャんの手元に『鍵』になる『お爺ちゃんの勾玉』が無かったら、バーチャんはどうする気だったんだ?
「進一さん、手元に『鍵』になる勾玉が無いのって⋯こう、不安になりませんか?」
「「????」」
「実は⋯」
俺は宅配便で、『淡路陵の門』の『鍵』である『お爺ちゃんの勾玉』を、バーチャんが送り付けて来た話をし始めた。