2-11 米軍の門
「お爺さんから教わったんじゃ。」
「まじ?」
「お爺さんは米軍の門で向こうの世界からアメリカに来たんじゃ。」
「米軍の門?アメリカに来た?」
バーチャんは笑っていない。
その笑っていない顔から本当のことを言ってるんだろうと思う。思いたい。
「ごめん。バーチャん。米軍の門って何?」
「アメリカの軍隊が持っとる門じゃ。」
ダメダメ。
『アメリカの軍隊』なんて話が出てきたら、もうバーチャんお得意のジョークにしか思えない。
「お爺さんもワシも魔王の国から来たんじゃ。お爺さんは米軍の門でアメリカに来て、ワシは淡路陵の門で日本に来たんじゃ。」
「…」
「アメリカに来たお爺さんは米軍の関係者に育てられ、そこで英語を学んだんじゃ。」
「…」
「Do you understand what I'm telling you?」
「え?は? はい。」
再び突然の英語だった。
やはりバーチャんは笑っていない。
その笑っていない顔から、本当のことを言ってるんだろうと思い始めた。
「ごめん。バーチャん。突然の話しすぎて俺の思考が追い付いてないんだ。ちょっと時間が欲しいから、先に御飯食べちゃって、いい?」
「ああ、良かろう。食べ終わってから続きを話したる。」
やはりバーチャんは笑っていない。
その笑っていない顔から、俺はこの話をきちんと受けとめるべきだと思った。
俺からバーチャんに『勾玉』の話を望んだのだ。
バーチャんが本当のことを話しているなら、俺は受け止める必要がある。
だが、なんとも信じられない話だ。
けれども、バーチャんが俺に嘘の話をしても何のメリットも無い。
だからバーチャんの話は本当なんだ。
そうしたことまで考えながら晩御飯を食べ続けた。
静かな晩御飯となってしまった。
◆
晩御飯を食べ終え、バーチャんが続きを話し始めようとした。
もう少し頭の中を整理する時間が欲しい俺は、洗い物をしてからとバーチャんを制してしまった。
ここまでのバーチャんの話を考えながらグリルを洗った。
ゴシゴシとなぜか2回もグリルを洗ってしまった。
「何度も磨きよるのう。きれいになってよか。」
そう言われるほど磨いてしまった。
「洗い物はこれで終いじゃ。続きは茶でも飲みながら話そう。」
「ごめんバーチャん。ちょっとスマホ見てくる。」
「じゃぁ、ワシは茶を入れとく。」
俺は、お爺ちゃんが使っていた部屋でスマホを見てみた。
着信は無かった。LINEが1件入っていた。
「電話して大丈夫ですか?」17:55
彼女(秦由美子)からのLINEだ。
30分ほど前だ。
「今は難しい。」18:30
バーチャんの話の続きが気になり、素っ気ない返信だが勘弁して欲しい。
返信を書きながら仏間に行くと、バーチャんがPadを操作しながらお茶を啜っていた。
バーチャんの向かいに座ると、バーチャんはPadを机に置いて話し始めた。
「二郎は、どこまで理解できた?」
「順番に理解したいから、お爺ちゃんの話からお願いしていい?」
「じゃぁ、お爺さんがアメリカに来た話しからじゃな。」
その時、机の上に置いた俺のスマホが震えた。
「ごめん。ちょっとだけ待って。」
直ぐに彼女からのLINEだろうと思い、確認のためにバーチャんに待ってもらった。
「電話がOKならLINEください。」18:40
彼女は残業中かもしれないと考えていると、バーチャんがこう言った。
「そのスマホで『トリニティ核実験』を調べてみい。」