16-21 焦げた餃子
「お伊勢様へ行くと『天使』が出てくるんだよ」
「はい?」
突然、進一さんが意味不明な言葉を口にした。
「二郎君は、由美子とお伊勢様へ行くんだろ?」
「ええ、まだ日にちは決めていませんが…」
進一さんと剛志さんの『お伊勢様』の言葉から、昨夜の二人との話を思い出した。
「あぁ~『伊勢の門』の守人の話ですね。昨日の夜に話した件ですよね?『私は神の守人』とか言い出してるんですよね?」
俺の言葉を気にせず、進一さんが話しを続ける。
「二郎くん、世の中には…さっき話しに出た『新興宗教』には『天使』と『神様』が混在してるんだよ」
「??」
お伊勢様=伊勢神宮は、新興宗教じゃ無いと思うのだが?
「二朗くん、まずは新興宗教やカルト宗教の様相を話すよ」
そう言って進一さんは語り始めた。
新興宗教やカルト宗教では、『教祖』が自分を神に称える、もしくは周囲が教祖を神として称えている。
この教祖に仕える者達は、神=教祖の意志を代行したり遂行する「選ばれた存在、特別な存在」=「天使」だと考えている。
そして新興宗教やカルト宗教では、自らの組織外の人間達を、自らの組織の下位に置いて、「ただの人間」「選ばれなかった存在」として、優越感に浸り、見下す傾向がある。
そこで湧いてくるのが『我々「天使」が「人間」を見守り、(愚かな・悪しき)「人類」を、神の道に、良き方向に、導いている』と言う考えだ。
「この付近までは理解できるかな?」
「ええ、理解できますし、まさにそのとおりだと納得できます。進一さんの言うとおりです」
俺は強く進一さんの語りに同意した。
進一さんと剛志さんは俺の同意に頷く。
「そして彼らは次の段階に進むんだ」
進一さんは語りを続ける。
本来、天使は霊的な存在だ。
人間の様に物理的に存在するものではない。
神の御霊あるいは叡智の一部を構成しているものだ。
従って、人間のように過失を起こすことはない。
成長することも、課題を達成することで位階が上がるというような存在でもない。
しかし、天使を地上的に人間の類比で考え、過失を行う天使、過失の償いを行う天使、未熟な状態から一人前に成長する天使などの概念が出てくる。
自己の失敗を償うため、あるいは失敗を回復するため、地上に降りてきて、様々な活動をする天使というようなイメージがここから出てくる。
あるいは、未熟な天使は、地上で人間のあいだで試練を積んで、成長して一人前の天使となって天界に帰って行くなどの考えが出てくる。
こういう天使は、本来の天使ではなく、通俗的な解釈から来た「地上的な天使」であるが、このような俗信が広く流布し世界中に広がっている。
「二朗くん、まだ大丈夫かな?ついてこれるかい?」
「ええ、大丈夫です。実に共感できる話です」
進一さんの語りに、俺は共感を込めて頷く。
一緒に聞いている剛志さんも頷いている。
「さて、彼らは『最後の』段階に進んで行くよ」
進一さんは『最後の』と話が終盤であるように語りを続けた。
元々は『教祖』に仕えるだけの存在だった彼らは、大きな勘違いを始める。
自分達は、より神に近い存在、もしくは神や教祖と同じ存在なんだと勘違いを始めるんだ。
その勘違いが、宗教の組織内部だけで済めばよいのだが、人間の奢りは危険だ。
宗教組織内部でそうした考えを持った者が、選民意識を抱えたままで社会に出てくる。
そうなると社会に悪影響を与え始めるんだよ。
「どうだい二郎くん?」
「わかります。理解できます。新興宗教やカルト宗教では、そうした傾向の方々が多いです」
「二郎君。宗教だけだと思うかい?」
今度は剛志さんから問われる。
「いえ、カルト宗教や新興宗教だけじゃないですね」
「「うんうん」」
剛志さんも進一さんも俺の言葉に頷く。
「一般的な企業でも同じ考えの人間は存在します」
「「うんうん」」
二人の共感を得られたので、今度は俺が語り始めてしまった。
企業の重役になった、役職になった、昇進した。
所詮はそれだけの事、組織内部での成果に過ぎない事なのに、組織外部にも奢りを出してくる方々は多数存在します。
さらに危険とも言えるのが、行政組織などにも類似の選民意識を持った人々が多いことです。
例えば国会議員や県会議員、市議会議員、俗に言う議員さんですね。
選挙と言う一般人から選ばれたことを忘れ、逆に選ばれたことで奢りが始まります。
そして当選回数を重ねると奢りも重なって行きます。
まあ、奢りが重なって不祥事も重なれば、議員ですから、次は選ばれないと言う状況に陥りますね。
一番困るのは、行政職員、いわゆる公務員な方々です。
不思議なことに、行政職員であると言うだけで彼らは選民意識を持ち、本来は公務員でしかないのに、公務員以外に奢り高ぶる傾向があります。
公務員以外を下に見てしまう傾向があります。
まさに、行政組織外の人間達を、自らの組織の下位に置いて、「ただの人間」「選ばれなかった存在」として、優越感に浸り見下す傾向があります。
厄介なのは、国家公務員や公務員には、議員のような『選挙』で選別される仕組がありません。
「そうした状況を、『神様』は、どう見てるんだろうね?」
俺が熱く語っていたら、急に進一さんから『神様』の視点で問われてしまった。