16-19 天使
アマツカ=天使
「進一さん!あの人は、天使なんですね?」
「ピンポーン!おっと、焼けたかな?」
ホットプレートからは、パチパチと餃子の焼ける音がする中、進一さんが正解を知らせる音を口にする。
進一さんの言葉で、あのコスプレ集団の構成を理解することができた。
神様 = サンダースさん
女神様 = 若奥様
天使 = メガネ執事さん=アマツカさん
見習い女神 = メイドさん
この4人で淡路島に来たんだと理解を深めた。
餃子を食べながら、ビールで進一さんと乾杯をしつつ、他に神様に関わりそうな人は⋯
そんなことに思いを巡らせていると、視線の端に恭平くんが見えた。
いつものダッシュでダイニングテーブルに向かう恭平君を、彼女が追いかけている。
神様がいて、天使がいて、恭平君がいて追いかける彼女がいて⋯
目線を進一さんに戻せば、金髪イケメンが焼きたての餃子を熱そうに食べながら、ビールで流し込んでいる。
何とも不思議な感じがする。
おっと、恭平君が風呂から出てきたと言うことは、まもなく剛志さんも来そうだな。
「剛志さんが、そろそろ来そうですね」
「恭平が上がったから、じきに来るだろう。二郎くん、次を焼き始めよう」
進一さんの意見に従い、ホットプレートの餃子を全て取り皿に入れ、改めて油を引き直して餃子を並べて水を入れ蓋をする。
再度、指に『魔素』を纏わせホットプレートの小さな丸を触れば、するすると『魔素』が吸われて行く。
蓋の蒸気穴から蒸気が出始めたので、指を離して『魔素』の注入を止める。
「二郎くんは物覚えが良いな。どうだい、『魔素』の感覚は掴めたかな?」
進一さんの言葉から、今の俺と魔法円の相性が頭をよぎる。
今朝までは、昨日までは、『魔素』なんて信じていなかったのに、今は易々と使いこなしている自分がいる。
〉二郎さん、まずは信じる事です
天使さんは、俺に言ってくれた。
俺は、神様や女神様、天使の存在を信じたのだろうか?
自分の中の『魔素』の存在を信じたのだろうか?
今は信じている自分を感じる。
自分の指から出した『魔素』と、目の前で餃子を焼いているホットプレートは現実だ。
進一さんは⋯
ちょっと待て。
「ふと思ったんですが、魔法円で訓練する方法もありですか?」
「ククク。二郎くんは訓練以前に『魔石』に充填したじゃないか」
やられた!
そんな思いが心に沸いて来た時、剛志さんが声を掛けてきた。
「お待たせ。進一はビールか、二郎君は付き合うよな?」
4合瓶とロックグラスを持った剛志さんが、湯上りの香りを纏いながらやってきた。
「父さん、今、二郎くんが焼いてくれてる」
「おお、懐かしいもんが出てるな。二郎君がやってるのか?」
「ええ⋯」
剛志さん。さすが当代を目指した人です。
市之助さんの残した『魔法円』のホットプレートに、俺が『魔素』を使って熱するのに動じないんですね。
「父さん、今日の二郎くんは大活躍だよ」
「賢次から聞いたよ。あれも出来たんだって?」
剛志さんの声がかなり明るい。
"あれも"って『勇者の魔石』ですか?
それとも『Double魔石』ですか?
「そう言えば、アマツカさんも来たんだって?何か言ってたか?」
「二郎くんの様子見を兼ねて、二郎くんが最初に作った『勇者の魔石』を見に来たと言ってたよ」
おいおい。
剛志さんも進一さんも、天使さんと気さくに話す関係なのか?
天使さんは"神様"の使いだろ?
気さくに話す相手なのか?
敬う相手じゃないのか?
「剛志さんも進一さんも、天使さんと親密な感じですね」
「⋯」
「ククク」
剛志さんが止まり、進一さんが笑う。
「進一さん、さっきも話しましたが、天使さんは"神様"の使いですよね?」
「そうだよ。ククク」
「そうだな。"神様"の使いだな」
「気さくに話す相手ですか?」
「ハッハッハ」
「ククク。二郎くんは"天使"を信じるかい?」
「おいおい、進一。いきなりその質問か?」
「ククク。いや、天使さんも気にしてたから」
「し、進一さん。天使さんが俺の何を気にしてたんです?」
思わず口調が『俺』になってしまった。
「天使さんは、二郎くんが何を信じているかを気にしてたよ」
「自分がですか?」
「そうだよ。二郎くんが何を信じているかを気にしてたよ」
「⋯」
「⋯」
剛志さんの沈黙は、俺の返事を待っているのだろう。
俺は天使さんを信じている気がする。
〉二郎さん、まずは信じる事です
天使さんに言われて、天使さんを信じた気がする。
それを切っ掛けに『魔素』を認識できた気がする。
「ハッハッハ。進一、二郎君に"天使"の正しい認識を持たせるためにも、あの話をしたらどうだ?」
急に剛志さんが笑い出した。
剛志さんの笑いに進一さんが応える。
「そうだね。天使さんも少し気にしてたから」
「な、何の話ですか?」
「二郎くん、天使って何だと思う?」
「進一さん、ちょっと待ってください」
「二郎君、どうした?」
急に剛志さんと進一さんから、『天使』に関わる話をふられた。
何だ?二人は何が言いたいんだ?