16-18 遺産
魔法円のホットプレートが面白い。
指先に『魔素』を纏わせ、進一さんに教えられた小さな丸を触れば、するすると『魔素』が吸われて行く。
魔法円がボーっと明るくなり、プレート部分が熱を持つのがわかる。
指先を小さな丸から離せば、『魔素』の移動は止まる。
『魔素』を少し入れただけで、魔法円がプレート温めてくれる。
プレートに手を翳せば、既にかなりの熱を持っている。
「魔法円は面白いだろ?」
「ほんの少しの『魔素』で機能するんですね。この魔法円は『門』から出てきた奴ですか?」
進一さんんの言葉に、『米軍の門』の記録を思い出しながら聞いてみる。
〉魔法円は羊皮紙に書かれて出てきた
〉欠損した羊皮紙を修復するなど
〉魔法円の実験では水や火が出た
確か、そんな事が日記に書かれていた。
「違うよ。市之助さんの遺産だよ。さっきも話したけど、市之助さんは以前の世界では『魔術師』だっただろ。こちらの世界で『魔法』の実験をする際に、幾多の魔法円も使ったんだよ。この温める⋯熱する魔法円もその一つさ」
進一さんの言葉に納得してしまう。
市之助さんは、以前の世界では『魔術師』だったとの話から、『魔法』を使っていたのだろうと推察できる、
それに、進一さんは市之助さんの記録=日記で『魔法』を学んでいる。
こちらの世界で『魔法』を試した記録があるとも言っていたから、その『魔法』を『魔法円』でも発動できるのだろう。
「そろそろ並べないか?」
「えっ?」
「餃子だよ」
「ああ、そうですね」
進一さんの言葉に慌てて油を引き、餃子を並べて水を入れ蓋をする。
念のために、再度、指に『魔素』を纏わせホットプレートの小さな丸を触れば、するすると『魔素』が吸われて行く。
「さっき、二郎くんは神様が『門』を作った意図の話をしていたよね?」
「ええ、言いました。それを進一さんは『哲学的』だと指摘しました」
「そう『門』の意味、なぜこの世界に『門』が存在するかを考えるのは素晴らしいことだ」
「⋯」
「魔法が存在する向こうの世界、魔法の無いこちらの世界」
「そうです。そこに神様が『門』を作って繋げた意図があるような気がします」
俺は、先ほど風呂場で感じた事を、進一さんにぶつけてみた。
俺の考えをぶつけられた進一さんは、ホットプレートの餃子とにらめっこ。
蓋をされたホットプレートの蒸気穴から湯気が出始める。
もしかしたら、進一さんは俺の話しなど、聞いていないのか?
それでも俺は、進一さんに語り続けた。
「神様が門を作ったとして、こっちの世界に無いもの、『魔法』をこちらの世界に広めたかったんでしょうか?」
「ククク。面白い考えだね」
おっと、進一さんは俺の話を聞いていたようだ。
「進一さんは、どう思います?」
「そうだね。二郎くんみたいな考えもあると思うよ」
蒸気穴からの湯気は治まらない。
未だに魔法円がプレートを熱しているようだ。
「仮にだけど、神様が『門』を作ったのは、『魔法』をこの世界に広めたいとしてだよ⋯二郎くんはどうするんだい?」
「どうする?」
「二郎くんは神様の意図を汲んで、『魔法』をこの世界に広めるかい?そうだね⋯『魔法普及の会』でも作って全世界に広めるかい?ククク」
「いや、そんなことは⋯」
「世の中には神様のお告げを伝えるとか語って、人を集めてお金を集めてるのもいるよね?」
「それって⋯新興宗教ですか?(笑」
「ああいった連中は、これこそが世界を救う神だとか、来世で幸せになるためだとか、前世の悪行を改めるためだとか?(笑」
「壺を買えば幸せになれるとか、霊験あらたかな数珠とかですか?(笑」
「二郎くんは『門』を使って、新興宗教を始めるのかと心配しちゃうぞ」
進一さん。
顔の横で斜めにした人差し指はなんですか?
金髪イケメンでやると絵になるぞ。
俺の話をちゃんと聞いてますか?
それとも半分からかってる?
「二郎くんが神様の意図を世界に広めたら、二郎くんは神様の使いになるね」
「だから、進一さん。自分にはそんな考えは無いですよ」
「神様の使い。何だと思う?」
「えっ?何がですか?」
「"神様の使い"だよ。何だと思う?」
「進一さん。真面目に聞いてますか?」
「真面目に聞いてるさ。二郎くんが言わんとしてるのは、神様が『門』を作った意味だろ」
「ええ、その話をしてます」
「まあ、落ち着いて聞いてくれよ。その神様が『門』を作った目的や意図を、伝えるのが誰かって話だよ」
ひととき熱くなってしまったが、進一さんは真面目に話しているようだ。
「話を戻させてもらうよ。神様が目的を持って『門』を作った。その目的をこの世界に広めるのは誰だと思う?」
「誰って言われても⋯」
「まだわからないかな?"神様の使い"だよ」
「"神様の使い"⋯ですか?」
頭の中で言葉を探す。
浮かんできたのは⋯
日本なら"神主"
西洋なら"牧師"
いや、どちらも違うな。
"神主"は神様の使いじゃない。
神社で祭司を執り行う人であって、進一さんが問う、"神様の使い"では無い。
確かに神様の教えを知り得ている人だろうが、"神様の使い"ではないだろう。
同じ様に、"牧師"も違うだろう。
ならば進一さんの問う"神様の使い"は誰だ?
「"天使"⋯でしょうか?」
「そう、その言葉が出て安心したよ。"神様の使い"は、"天使"が正しいんだよ」
進一さんが肯定する。
俺の口にした"天使"の言葉を肯定してくれた。
自分の考えの正しさに安堵しつつ⋯閃くものがあった。
「進一さん!そう言うことですか!」