16-17 ホットプレート
「剛志さん、お疲れ様です」
「父さん、お疲れ」
「進一に二郎君、もう出るんだろ?先にやっててくれ」
「じいじい あらってぇ~」
剛志さんが盃を傾ける仕草をし、恭平君は両手を広げて剛志さんに甘えている。
「父さん、頼んで良い?」
「おお、任せろ!恭平、洗うぞぉ~」
「じいじい あらってぇ~」
親子三代のやり取りを邪魔しないよう、俺はそっと風呂場を出て脱衣所で体を拭き上げる。
彼女の準備してくれたスウェットに着替えていると、進一さんも体を拭き上げ、里依紗さんが準備したであろう作務衣に着替えている。
やはり金髪イケメンの湯上り作務衣姿は絵になる。
二人とも着替え終わり、リビングダイニングに向かう最中、
「やっぱり湯上がりは、ビールが良いよな」
「確かにそうですね」
進一さんの言葉に、湯上りビールが楽しみになってきた。
リビングダイニングに入ると、リビングエリアのソファーで広げられていたお土産は片付けられ、リビングテーブルの上に小鉢が3つ準備されていた。
ダイニングテーブルに目をやると、白い物が見える。
何だろうと見に行くと、彼女、里依紗さん、吉江さん、京子さんが座って何かを作っている。
よくよく見れば、"餃子"を4人で包んでいた。
「お、今日の晩御飯は餃子か。ますますビールだな。僕はビールを持って行くから、二郎くんはグラスを頼む」
進一さんはそう言いながら、凍ったグラスを俺に渡し、進一さんは瓶ビールの栓を抜く。
「里依紗、僕らの方は"あれ"でお願いできるかな?」
「"あれ"で良いんですか?」
進一さんと里依紗さんが、夫婦の会話をしているなと横目に見ながら、先にリビングエリアのソファーに向かう。
夫婦の会話で少し遅れてきた進一さんと共にソファーに座り、互いに酌をしてグラスを軽く掲げる。
「Double魔石に」「勇者の魔石に」
「ククク」「ハハハ」
互いの乾杯の合図に、互いに少し乾いた笑いが出る。
それでも湯上りビールを一気に喉に流し込む。
ゴクゴク
おお、なんだか昨日よりうまい気がする。
勇者の魔石が作れた喜びが強いのだろうか、なんだか昨日よりビールの味がハッキリとわかる。
「センパイ。自分達で焼いてください」
彼女が金属バットに並べられた生の餃子を持ってきてテーブルに置く。
「進一さん、こっちのホットプレートで良かったんですね?」
「ああ、こっちで良いよ」
彼女に続いて、里依紗さんが円形のホットプレートを持ってきて、リビングテーブルに置いて行く。
ソファーテーブルに置かれたそれらを見て、俺は少し違和感を受けた。
ホットプレートは円形で蓋が付いたタイプなのだが、電源ケーブルが見当たらない。
ホットプレートの周囲を見るが、何処にも電源ケーブルの差し込み口が無いのだ。
「二郎くん。ホットプレートを温めてくれるか?」
「これ?電源ケーブルが無いですよ?」
「ククク」
進一さんがニヤついている。
待てよ、これって何かあるな?
俺はホットプレートに手を伸ばし、蓋を脇に置き、プレート部分を持ち上げてみる。
外側の枠と言うか台はあるが、それにプレートが乗せられているだけ。
プレートを温める電熱部分が見当たらない。
あれ?
俺は慌てて、プレート部分の裏面を見ると、そこには驚く物があった。
「進一さん、これって?!魔法円?」
「ククク。見ただけでわかるとは素晴らしい!」
黒いプレートの裏面は白く、そこには黒で丸い二重円が描かれ、外側の円と内側の円の間には見たことの無い紋様が描かれている。
内側の円には内接する三角形と、それに重なる四角形が描かれ、四角形のひとつの頂点に小さい丸が描かれている。
「二郎くんは、魔法円を見たことがあるのかい?」
「いえ、『米軍の門』が魔法円だと日記で読んで、ネットで"魔法円"を調べておおよその形を知ってたんです」
「ああ『米軍の門』の記録だね。確かにあの記録から、『米軍の門』が魔法円だと読み取れるからね。それでも、これを見ただけで魔法円と気付くのは素晴らしいね」
「これって『米軍の門』⋯そんなわけ無いですね⋯ハハハ」
「残念ながら『門』の魔法円じゃないね。ククク」
「どんな魔法円なんですか?」
「見てのとおり、ホットプレートだよ。ククク」
俺は『米軍の門』の魔法円について返したつもりだが、進一さんが見事に返してきた。
確かに目の前にあるのは、電源ケーブルは無いがホットプレートだ。
「じゃあ、二郎くん。遠慮なく温めて」
俺の意図を見透かしたように、進一さんはホットプレートに話を引き戻す。
仕方なく俺もホットプレートに注意を移す。
「どうやって?」
「その四角形の角の丸に『魔素』を流すんだ」
「この小さい丸ですね」
「二郎くん、少しだけで良いよ。本当に少しだけで良いんだ」
俺は進一さんの指し示す、四角形の頂点に描かれた小さい丸に指先を当てる。
先ほど勇者の魔石を作ったときを思い出し、自分の体の中の『魔素』に意識を巡らす。
「はい。行きます」
掛け声と共に自分の体の中の『魔素』に意識を戻し、小さな丸に当てた指先に『魔素』が届くように意識する。
すると指先から魔法円に『魔素』が流れて行くのがわかる。
その途端に魔法円全体が僅かに光り、手にしたプレートが熱を帯びるのを感じた。
止まれ
指先からの『魔素』の流れが止まるように意識して、小さな丸に当てた指先を魔法円から離す。
指を離しているにも関わらず、魔法円全体は僅かに光っている。
光る魔法円の様子を見ていると、進一さんが俺の手からプレートを取り上げた。
「どれどれ、これなら大丈夫だね。じゃあ、後は二郎くんに任せるね」
そう言って、進一さんはプレートを枠にセットした。