16-16 Double魔石
「二郎くん。この『Double魔石』については、風呂にでも入って話さないか?」
進一さんから入浴の誘いを受けた。
俺は"全てが光輝く『魔石』"と呼んでいたが、別の呼称、『Double魔石』が既にあるようだ。
『Double魔石』と名が着く程だ。
きっと、過去に市之助さんも進一さんも作ったことがあるのだろう。
その話を聞けるのだ、二つ返事で入浴の誘いを受け入れた。
進一さんと共に玄関から屋内に入り、リビングエリアに向かう。
リビングソファーでは、USJのお土産の段ボールが開けられ、皆が集まっていた。
京子さんは"組分け帽子"を被り、如何にも魔法使いな感じだ。
金髪の恭平君が"魔法学校の生徒"になっていて、実にかわいらしい。
そして里依紗さんも恭平君とお揃いな格好で俺に声を掛けてきた。
「二郎さん。お土産をありがとうございます」
里依紗さん。
あなたも"魔法学校"に入学ですか?
「これ、なかなか、可愛いわね。二郎さんありがとうね」
吉江さん。
右腕の白いものは⋯フクロウですか?!
「由美子のチョイスは確実ですから(笑 ハハハ」
俺は二人に乾いた笑いを返す。
「里依紗に由美子、二郎くんと風呂に入ってるから、沸いてるんだよね?」
「兄さん。バッチリです✌️」
進一さんの投げ掛けに、彼女が答える。
「じゃあ、行ってくる。恭平、二郎お兄さんと由美子お姉さんに、きちんとお礼を言うんだよ」
「おにいちゃん おねえちゃん ありがとうございます✌️」
「「はい。良くできました✌️」」
思わず俺も彼女も恭平君の✌️に答える。
◆
進一さんと共に風呂に入る。
体を洗い、進一さんと広い湯船に浸かる。
「ふう~。それにしても二郎くんは、面白いものを作ったね」
「あの『魔石』の事ですか?あれは自分だけの成果じゃないです。進一さんの教え、由美子のサポート、これらがなければ挑めませんでした」
進一さんの投げ掛けに、俺は半歩引いて答える。
"面白いもの"と進一さんに称えられると、少し自慢したい気分になるが、今は大人しく『Double魔石』に関わる話を進一さんに喋らせたい。
「あの魔石は、それほど面白いのですか?」
「ククク。やはり二郎くんは知らないよね?」
「ええ、まっったく知りません」
「あれはね、僕では出来なかったんだ」
「えっ?進一さんでは出来なかった?!」
「ああ、僕としてはちょっと悔しいな(笑」
「そ、そうなんですか⋯」
やはり進一さんも挑んでいたんだ。
「市之助さんの記録に出てきて、僕も挑んだけど、一撃で魔力切れしそうになったんだ。懐かしいなあ。ククク」
「あれはですね、最初に⋯」
「待って二郎くん」
俺が『Double魔石』を作ってしまった時の状況を口にしようとしたら、進一さんに制された。
「いきなり説明されたら試したくなる。暫く貸してくれるんだろ?」
「おっと、そうですね。好きなだけ正徳さんと一緒に調べてください(笑」
俺は進一さんに説明したかったのか?
少し自慢気だっただろうか?
それともこうした『魔石』の扱いについては、話さないのが習わしなのだろうか?
「進一さん、やっぱり『魔石』とか『魔素』については互いに話さないのが、その⋯当たり前なんですか?」
「ククク。弟子入りしたとかなら話すらしい。それに『継ぐ』際には先代と会話するらしいよ」
何となくだが理解できる話だ。
弟子入りして修行する際には、そうした会話もするのを理解できる気がする。
「あれ?じゃあバーチャんに弟子入りした進一さんは、バーチャんからそんな話を聞いたんですか?」
「ククク。桂子さんが『魔石』と『魔素』の話をすると思うかい?」
「いや、絶対にしないでしょうね(笑」
進一さんの言葉は、妙に説得力があり納得できる。
「僕の場合は、市之助さんが『魔術師』だったろ。おかげで市之助さんの記録には、そうした話が多いんだよ」
「なるほど。理解できます」
「市之助さんは、『門』を通じてこの世界に来てから、色々と『魔法』を試したらしいんだ」
「なんか、市之助さんの苦労を感じる話ですね」
「苦労か⋯魔法が使える世界から、魔法の無い世界に来たら戸惑うだろうね」
「ん?待ってください⋯」
「二郎くん。どうしたんだい?」
「いや、何か⋯んん?何だろう少しわかってきた気がして⋯」
「何がわかったんだい?」
「その⋯神様が『門』を作った意図が⋯」
なんか、もう少しでわかりそうな気がする。
神様=サンダースさんが『門』を作った意図が見えてきた気がする。
「バーチャんが言ってたんです。
"『門』を何だと思うとる。"
"ワシがいた世界に繋がるのが門じゃ。"
"それを作ったのがケンタじゃ。"
"神様が門を作ったんだ。"
そんなふうに言ってたんです」
「⋯」
「それで考えてたんです。"なぜ神様が『門』を作ったか?"を考えていたんです」
「ククク。二郎くんは、随分と哲学的な考えをするんだね?」
哲学的?
進一さんは、何を言いたいんだろう?
その時、脱衣所から恭平君と剛志さんの声が聞こえた。
「進一、二郎君。恭平と一緒に入るぞ~」
剛志さんの声と同時に、恭平君と剛志さんが風呂場に入ってきた。