16-14 お帰りなさい
ズルズル ズズー
空腹に耐えられず、テラステーブルで彼女と共にカップラーメンを啜る。
「由美子、ありがとうね」
「こんなに回復を使ったのは初めてです。ゴクゴク」
そう言いながら、彼女はカップラーメンのスープを飲み干す。
「本当にごめんね」
「ちゃんと、責任を取ってくださいね♥️」
「はい。責任を取ります」
「どうやって責任を取るんですかぁ~?」
自分から責任を取れと言いながら、どうやって責任を取るのかと聞いてくる。
これは、彼女が俺をからかい始めているとわかるやり取りだ。
俺も彼女を習ってカップラーメンのスープを飲み干す。
「ゴクゴク そうだ、これをあげるよ」
俺はテラステーブルで輝く、『勇者の魔石』と全体が光輝く魔石を指差す。
「えぇ~、それですかぁ~」
彼女が残念そうにブーたれていると、台車に段ボールを乗せ、ゴロゴロと押してくる見知らぬお兄ちゃんがやって来た。
「こんにちはー宅配便で~す」
その声に、テラステーブルに置かれた『勇者の魔石』や全体が光輝く『魔石』を隠すようにピンクのバケツに放り込む。
一方の彼女は、食べ終わったカップラーメンを片付ける。
「秦吉江さん宛です」
「はい。サインで良いですか?」
「ええ、こちらにお願いします」
彼女が受け取りにサインを済ませ、俺は宅配便のお兄ちゃんから段ボールを受け取る。
思ったよりも軽い感じの段ボールをテラステーブルに乗せる。
「ありがとやした~」
不思議な返事をして、宅配便のお兄ちゃんは台車をゴロゴロしながら庭の外のトラックに小走りで向かう。
そんなお兄ちゃんと入れ替わりで、軽自動車が入ってきた。
多分、里依紗さんと恭平君だろう。
軽自動車が車庫に止まると、案の定、恭平君と里依紗さんが降りてきた。
二人の姿に、彼女が声をかける。
「恭平ちゃ~ん」
「ゆみこ おねえちゃ~ん!」
彼女が声をかけると、恭平君が元気に応えながら、ダッシュで彼女に向かって走ってくる。
里依紗さんは、恭平君の荷物らしきバッグを片手に、俺と彼女の座るテラステーブルに向かって歩いてくる。
「お帰りなさい」
「ただいま~。これ なあに~」
彼女と恭平君は戯れつつも、恭平君はテラステーブルに置かれた段ボールが気になるようだ。
「里依紗さん。お帰りなさい」
「ただいま。これは?」
里依紗さんは、段ボールよりも食べ終わったカップラーメンが気になるようで指差してくる。
「もしかして『魔力切れ』?」
「ええ、ちょっと補給してました(笑」
「二郎さん。覚えたての時は気を付けてね(笑」
里依紗さん。
なんか含みある言い方ですね。
「ねえねえ ゆみこおねえちゃん はやくあけよ!」
「センパイ。中に運べます?」
恭平君の催促と彼女の願い応え、俺は段ボールをテラスから屋内に運び入れた。
彼女は食べ終えたカップラーメンを片付けるため、屋内へと入って行く。
恭平君は里依紗さんと手を繋いで玄関に向かった。
俺はテラステーブルに置かれたピンクのバケツを取りに戻る。
すると、庭の外から、こちらに向かって歩いて来る二人の人影に気が付いた。
二人の人影をよく見ると、進一さんとロードバイクを推すメガネ執事さんだ。
メガネ執事さんが、テラス屋根を支える柱にロードバイクを立て掛ける間、進一さんが話し掛けてきた。
「二郎くん、お疲れ様。どうだい?」
「進一さん、お帰りなさい。何とか出来ました」
進一さんから出された課題を乗り越えた俺は、意気揚々とピンクのバケツを進一さんの前に差し出す。
ピンクのバケツを覗き込んだ進一さんは、全体が光輝く『魔石』を取り出した。
それをまじまじと見てから、俺に問いかける。
「これ、何個掛けたの?」
掛けた?
それに使ったのは2個の『魔石』だ。
『掛けた』の問いへの答えになるかわからないが、使った『魔石』の数を答える。
「使ったのは2個です」
進一さんが手にする、全体が光輝く『魔石』。
これは『勇者の魔石』に挑む前に、試しで作ったものだ。
『魔石』を両手に握り、左手の『魔石』から右手の『魔石』へ、『魔素』の移動を意識して作ったものだ。
そのときの事は、ハッキリと覚えている。
『魔素』が移動し、右手の『魔石』に纏わりつくのを感じた。
そこで俺は強く意識した。
"手伝うから、そのまま『魔石』に入ろう。"
すると右手の『魔石』が、一瞬、膨らむ。
その膨らむ感じは、彼女が『魔素』を移動したときに、俺の手の中で『魔石』が膨らんだのに似ていた。
「2個なのに随分と入ってますね」
メガネ執事さんが進一さんの手元を覗き込み、声を出す。
「それに少し大人しいですよね?」
「手懐けた感じがしますし⋯」
そう言って、メガネ執事さんが進一さんの手から『魔石』を取り上げ、両手で包む。
「ほう。二郎さんの『魔素』が混ざってますね。良いものですよ」
そう言って、進一さんの手元に戻す。
進一さんは左手を胸に当て、『魔石』の鑑定を始めた。
「二郎さん。かなり進歩しましたね」
突然のメガネ執事さんの褒め言葉に、俺は固まってしまった。
「あ、ありがとうございます」
「これからの二郎さんが楽しみです」
俺の拙い返事に、メガネ執事さんは微笑みを返してくれた。