16-13 魔法と魔力
俺がやったことは『魔法』なのだろうか?
『魔石』から『魔素』を取り出すことにも、取り出しを止める事にも成功した。
取り出した『魔素』を使って、水分子の運動を増やしたり減らして、水の温度を上げ下げする事はできた。
これは物理的な仕組みを『魔素』で実現したに過ぎない。
はたしてこれは『魔法』なのだろうか?
今まで見てきた体験してきた『魔法』と思えるものを並べてみる。
・進一さんとの酔い醒まし
・進一さんの炭への着火
・彼女の『魔力切れ』した俺への癒し
・進一さんの炭の火消し
・彼女の『魔素』の移動
・俺の水の沸騰
・彼女のエロ回復
・俺の水の氷結
こうして並べてみると、どれもが『魔法』に思えるが、俺のやった事は物理的な仕組みを使ったことだ。
それでも彼女は『スゴイ』と称えてくれる。
「由美子が飲んでるペットボトル、その水を凍らせたのって『魔法』だと思う?」
「違うんですか?立派な『凍結魔法』だと思いますよ。スゴイことですよ。これから暑くなる時期には便利そうです」
うんうん。
夏場には良さそうだね。
「さっき、お風呂の水を温めたのは?」
「かなり便利な『湯沸かし魔法』ですよね。ガス代が節約できます。スゴイことですよ」
いやいや。
『魔石』を使った湯沸かしなんてガス代より高いと思うよ。
ちょっと待て。
さっきから彼女は『スゴイことですよ。』と俺を称えてくれる。
もしかして、由美子は出来ないのか?
「さっき、進一さんがお湯を沸かしたことがあるって言ったよね?」
「ええ、兄さんが『魔石』を使って、いとも簡単にお湯を沸かしました」
「由美子は出来たの?」
さっきは『てへぺろ』で誤魔化されたが、由美子は出来なかったんじゃないか?
「進一さんに出来て、由美子は出来なかったんだね?」
「ええ⋯無理でした。魔力切れしそうになって、兄に止められました」
「由美子も、進一さんと同じ様に『魔石』を使ったけど、『魔力切れ』を起こしそうになったんだね?」
「ええ、それが何か?」
わかった。
いやわかった気がする。
『魔法』が何か。
『魔力』が何か。
『魔力切れ』が何か。
これらを理解できた気がする。
俺は、意を決した。
多分だが『勇者の魔石』を作れそうな気がする。
「由美子は、俺の『魔素』が金色だと言ったよね?」
「ええ、もう一度見ます?」
そう言って、彼女は胸元の『魔石』に片手を延ばす。
「いや、見ないで。『魔力切れ』しそうだから(笑」
「そうですね。あれをやると少しだけ疲れるんです。けど、今は『魔石』があるから大丈夫ですよ」
そう言って、彼女は乙女の祈りのポーズをしようとする。
俺は、慌てて彼女の手首を掴んで制する。
「マジでやめて。由美子の言うことは信じてるから」
「センパイ、それは愛ですね♥️」
「うん。愛だよ」
「♥️♥️♥️」
由美子さん。♥️が三つも出てますよ。
こらこら、抱き着こうとするんじゃない!
抱き着こうとする彼女を制して、俺は質問を続ける。
「さっきの『魔素』を移動したのは?」
「『魔素』を移動した?」
「ほら、進一さんから貰った新しいペンダントから、古いペンダントに『魔素』を移動したやつも『疲れる』よね?」
「ああ、あれも疲れます。さっきも久しぶりにやったんで、早速、回復魔法を使いました」
やはり俺の感じているとおりだ。
やれそうな気がしてきた。
ますます『勇者の魔石』を作れそうな気がしてきた。
「よし。じゃあやるよ」
「えっ❤️」
おい。『やるよ』に反応して♥️を出すんじゃない。
◆
「ハァハァ」
「ゼェゼェ」
「センパイ、やりすぎです!」
「大丈夫、由美子!まだイケる!」
「えぇ~ まだやるんですかぁ~」
「ああ、まだまだぁ~!」
「センパイ、休憩しましょう!」
「そ、そうだな⋯ちょっと休憩するか⋯」
はい。
エッチな妄想をしないでね。
「あぁ~空になってる」
椅子に座り込んで額に汗をかきつつ、乙女の祈りポーズを解いた彼女が、ペンダントトップを見ながら呟く。
確かに彼女の胸元で輝いていたペンダントトップ、『エルフの魔石』は既に真っ黒な黒曜石になっている。
それに対して、テラステーブルの上には、金色に輝く『勇者の魔石』が3個と、ギラリギラリどころか全体が光輝く魔石が1個。
「使う?」
俺はそう言って、全体が光輝く『魔石』を彼女に渡す。
「はい。使います!」
彼女は全体が光輝く『魔石』を両手で包むように乙女の祈りポーズをする。
「ふぅ~。なんとか落ち着いたけど⋯お腹が空いて、これ以上は無理です!」
そう叫んで、テラスから小走りに屋内へと消えていった。
俺も空腹を感じていたが、目の前に置かれた『勇者の魔石』、これを自分自身が作れた達成感の方が勝っていた。