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門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月4日(火)☀️/☀️
210/279

16-12 凍らせてみた


 風呂掃除を終えて、彼女の準備してくれた衣装に着替え、『魔石』の入ったピンクのバケツを片手に再びテラスに出た。


 テラステーブルには、置き忘れた水の入ったペットボトルが置かれている。

 テラスの椅子に座り、ピンクのバケツに入った、俺をギラリと睨む『魔石』を取り出す。


 今度は先程とは逆の、右手に握り込む。

 そして、置き忘れた水の入ったペットボトルを左手に掴む。


「ペットボトルの中の水の分子の振動を止める」


 そう意識して、右手の中の『魔石』を握り込む。

 右手の中の『魔石』から、ペットボトルを掴む左手に『魔素』が移動するのがハッキリとわかる。


 左手のペットボトルが冷たく感じたところで、「止まれ」と意識する。

 途端に右手の『魔石』から入ってくる『魔素』が止まる。


 これで、右手でも左手でも、『魔石』から『魔素』を取り出せることがわかった。

 また、「止まれ」と意識を切り替えれば『魔石』からの『魔素』の取り出しを止められることがわかった。


 『魔石』をピンクのバケツに戻して、ペットボトルを手に取ると、俺の握っていた部分が凍っているのがわかる。

 更によく見れば、ペットボトルの半分ほどが凍っているのがわかる。


 ここまでやって、テラステーブルの椅子に深く座り直した時、着替えを終えた彼女がやってきた。


「センパイ。どうですか?」


 彼女から湯上がりの香りがする。

 少し髪も濡れているようなので、あの後、風呂に入ったようだ。


「うん。だいぶわかってきた」

「『魔力切れ』はしてませんか?」


「大丈夫だよ。ありがとうね」

「センパイ、何か悩んでます?」


「ああ、悩んでる」

「何で悩んでるんですか?私で良ければ相談してくださいね。その為のサポートですから♥️」

 そう微笑む彼女の顔が、美しいと感じる。


 先程の、イロエロな回復の残りが俺の中にあるのだろうか。

 彼女を抱き寄せたくなる衝動を抑えて、正直に礼を伝える。


「ありがとう。由美子が居てくれて助かるよ」

「へへへ」

 彼女が嬉しそうに笑う。

 少しはにかんだ笑顔は、実に癒される。


「『魔石』から『魔素』を取り出して⋯実現させることは出来た」


 俺が状況を説明していると、テラステーブルに置かれたペットボトルに、彼女が手を伸ばす。


「あれ、これ冷たい。貰って良いですか?」

「ああ、どうぞ」


 先程、俺が『魔石』を使って、中の水を半分凍らせたペットボトルの冷たさに彼女が吸い寄せられたようだ。


「ああ、今度は凍らせてみたんだ」

「スゴいです、センパイ!」


 パキュッ

 彼女がペットボトルの封を切る。


「そうかな⋯」

「いや、スゴいですよ。ゴクゴク」


 湯上がりの冷たい水が心地好いのか、彼女は喉を鳴らして半分凍った水を楽しんでいる。

 そんな彼女を見ながら、俺は話を進める。


「それでも課題は解決しないんだ」

「課題?ああ、兄の言った『勇者の魔石』の件ですね」


「そうなんだ。『魔素』を仕組みに乗せて実現する事は出来たんだ」

「ゴクゴク」


 俺の話を聞きながら、彼女は再びペットボトルの水を喉に流し込む。


「『魔石』から取り出した『魔素』を使って、沸騰させたり、凍らせる事は出来たんだ」

「それで十分じゃないんですか?」


 かわいらしく首をかしげて彼女が聞いてくる。


「いや、進一さんに課せられた課題は逆だろ?」

「逆?」


「『魔石』から『魔素』を取り出すんじゃなくて、『魔石』に自分の『魔素』を『充填』するのが最終課題だろ?」

「そう意識したらダメですか?ゴクゴク」


 そうだな。彼女の言う通りだ。

 そこでしばし思考を深めてみる。


 ペットボトルの水を沸騰させた時は、『仕組み』の言葉をヒントに、水分子の振動を増やす考えに行き着いた。

 続いて彼女の握るペットボトルの水を凍らせた時は、水の分子の振動を止める

ことを意識した。


 物理的かつ具体的な現象=仕組み


 これを意識することで、水の温度を上げ下げする事が出来た。

 言わば、物理的な現象を前提にして、『魔素』に水分子への仕事をさせたことになる。


 俺が酔いを醒ました時はどうだったか?


 俺は酔いを醒ます仕組みは、具体的にかつ物理的には知り得ていない。


 けれども、酔う仕組みは知っている。


 血中のアルコール濃度が高くなると、そのアルコールが脳を麻痺させるから酔うのだ。

 世の中にはアセトアルデヒドが「酔い」の原因だと言う方もいるが、あれは「二日酔い」の原因で「酔い」の原因ではない。


 俺の大学時代、急性アルコール中毒で救急車で運ばれた学友がいた。

 運ばれた奴は病院で点滴を受け、命に別状は無かった。

 その時にネットで調べ、アルコールが脳を麻痺させるのが、酔う仕組みだと学んでいた。

 

 『魔石』で酔いを醒ました時に、そうしたことを考えただろうか?

 考えてはいなかった筈だ。


 彼女が俺を回復させた時に、何を考えたのだろうか?

 具体的に、イロエロな気分になる仕組みを知っていて、その仕組みを意識したのだろうか?


「由美子、さっき、俺を回復させた時に、何を考えた?」

「ギクッ」


 俺の質問に彼女が固まる。


「イロエロと考えたのかな?」

「ギクッギクッ」


 追加の質問に更に固まる。


「元気になれ!とか、考えたのかな?」

「ギクッギクッギクッ」


「固くなれとか?」

「エロ~」

 なんだよ、その顔は⋯


「もっと自分を愛して欲しいとか?」

「♥️♥️」

 こらこら、喜ぶんじゃない!


 彼女の百面相はともかく、さっきの彼女の回復では、具体的な仕組みを意識していなかったことは理解できた。


 俺も酔い醒ましでは、具体的な仕組みは意識しなかった。


 もしかして、物理的な仕組みを学んでいなくても、詳細を知らなくても実現できるのが『魔法』なのでは?


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