16-11 湯口
ゴシゴシ ゴシゴシ ゴシゴシ
現在、彼女と二人で、お風呂掃除中です。
俺は、彼女の実家の高級住宅の庭で、『魔石』を使ってペットボトルの水を沸騰させるのに成功した。
その成功を祝うかのように、彼女から『エルフの魔石』を使った回復を受けた。
彼女が何を意識して回復をしたかは明確には知らないが、イロエロと元気になった。
そんな俺と彼女が戯れる様子を見て、彼女の母親の吉江さんに、水を浴びせられた。
吉江さん、盛った犬じゃないんだからね。
「着替えなさい!ついでに風呂掃除しなさい!」
吉江さんに言われ、今ここでデッキブラシを握っています。
俺はトランクスにTシャツ姿で、湯船以外の洗い場全体をデッキブラシで擦って行く。
一方の彼女は、短パンにTシャツ姿で広い湯船の中をデッキブラシで擦っている。
一通り、互いの持ち場を洗い終えたので、先程の吉江さんのようにホースから水を出しながら全体を流して行く。
後は湯船に湯をためれば、直ぐにでも入れる状態になるだろう。
「これって、お湯をためて良いのかな?」
「はい。そこの湯口からお湯が出ます。後ろにレバーがありますよ」
彼女が指差す先を見れば、湯船に向かう木製の湯口があった。
その湯口の後ろに回ると、2本のパイプに、それぞれ赤いレバーと青いレバーが付けられていた。
試しに赤いレバーを動かすと、湯口からお湯が出てきた。
一旦、赤いレバーを戻し、続けて青いレバーを動かすと今度は水が出てくる。
そこで俺は、少し考えた。
「由美子、まだ『魔石』はあるよね?」
「は~ん。センパイ、またやってみたいんですか?」
「ああ、やってみたい。さっき感じた『魔素』の動きを、もう一度、確かめたいんだ」
「わかりました。持ってきます」
そう言って、彼女はダッシュで風呂場から出て行く。
俺は、残されたデッキブラシなどを片付けていると、彼女が再びダッシュで戻ってきた。
「ハァハァ。センパイ、これですよね」
そんなに慌てなくても大丈夫だよ。
息を荒げ、走って来たであろう彼女の手には、『魔石』が入ったピンクのバケツが握られていた。
俺はピンクのバケツを受け取り、中を覗き込む。
相変わらず、中の『魔石』はギラリギラリと光ながら俺を睨んでくる。
一番、俺を睨んでくる『魔石』を選び出し左手に握り込む。
空いた右手で湯口の後ろの青いレバーを動かし、湯口から水が出てくるのを確認する。
左手で『魔石』を握り、右手を湯口から流れ出る水に浸す。
「右手に触れる水の分子を激しく振動させる」
その考えに集中して、左手の中の『魔石』に気をやると、『魔石』が熱を持った感じがした。
その途端に、左手の中の『魔石』から、右の掌に向かって、体の中を何かが通って行くのを再び実感した。
この俺の体の中を移動しているのが『魔素』だ。
そう実感していると、右手の上を流れる水が温かくなるのを感じる。
「うん。出来てる」
右掌を流れる水は温かくなっている。
流れる水ならば、沸騰することは無いだろう。
試しに『魔石』を握り込んだ左手を緩める。
体の中を流れる『魔素』が、左手から入ってくるのが止まる。
もう一度、左手で『魔石』を握り込むと、再び『魔石』から流入する『魔素』が体の中を通り、右手へと向かうのがわかる。
「止まれ」
そう意識すると、左手の中の『魔石』から『魔素』の流入が止まる。
「センパイ。どうですか?」
そう言いながら、彼女が少したまり始めた湯船に手を入れる。
「少し温かいですね」
「もっと熱い方が良いかな?」
「ええ、出来ます?」
「任せて!」
俺はそう言って左手を開き、『魔石』の状態を確認する。
『魔石』はいまだに、ギラリギラリと俺を睨んでくる。
まだ『魔石』の輝きが強いことを確認したので、その『魔石』を握り込む。
右手は湯船の中に入れ、湯を混ぜるように動かしつつ意識を高める。
「右手に触れる水の分子を激しく振動させる」
そう意識すると、再び俺の体の中を『魔素』が通って行き、右手の周囲が温かくなる。
湯の温度が高くなったなと感じたら、かき混ぜるように右手を動かす。
その都度、左手の中の『魔石』に集中すると、体の中を『魔素』が通り続けるのを実感する。
だいぶ湯温が上がってきたところで、彼女が声を掛けてきた。
「センパイ!完璧です(グッ」
「ああ、『魔素』が体の中を移動するのが、ハッキリとわかったよ」
「どうします?」
「どうします?何が?」
「このまま、混浴しちゃいます?」
「しない」
「えぇ~センパイ。混浴しましょうよぉ~」
残念そうに言う彼女を残して、ピンクのバケツを片手に風呂場から出る。
脱衣所のバスマットで濡れた足を拭いていると、吉江さんが脱衣所の外から俺を見ていた。
トランクスにTシャツ姿で、片手には『魔石』のっ入ったピンクのバケツ。
少し恥ずかしい姿だ。
「吉江さん、洗い終わりました」
「一緒に入らないの?」
えっ?