16-10 元気ハツラツ
彼女が持ってきた水の入ったペットボトル2本の内、まずは1本をテラステーブルに置く。
何かトラブルが起きるのが怖いので、彼女を椅子からから立たせ、何時でも逃げれるように注意を促す。
彼女がテラステーブルから離れたのを確認して、俺はピンクのバケツから『魔石』を一つ取り出し、左手に握り込む。
続けて右手でペットボトルを掴む。
そして心の中で意識する。
「ペットボトルの中の水の分子を激しく振動させる」
その考えに集中して、左手の中の『魔石』に気をやると、『魔石』が熱を持った感じがした。
その途端に、左手の中の『魔石』から、ペットボトルを掴む右の掌に向かって、体の中を何かが通って行くのを感じた。
腕の中を、体の中を通る何かが、右の掌からペットボトルに移動した途端、右手で掴むペットボトルが熱を持ったのがわかった。
『もっと激しく』と心の中で意識した途端に、右手のペットボトルが一気に熱を持った。
「熱っ!!」
俺は慌ててペットボトルを放すとともに、左手に握り込んでいた『魔石』をピンクのバケツに放り込んだ。
ガラン バシュッ
ピンクのバケツに放り込まれた魔石が音を立て、続いてペットボトルから音がする。
咄嗟にペットボトルを叩き、広い庭に向けて放り出す。
一連の音と、俺の声と行動に、彼女が慌てて後ろに下がった。
「由美子、大丈夫か?!」
「ええ、大丈夫です」
彼女に何も影響が無いことに一安心だ。
「センパイ、今のって⋯」
「ああ、ペットボトルの水が沸騰したんだよ。こんなに急に起こるなんて想像してなかった」
俺は庭に転がるペットボトルに近寄る。
ボトルキャップ付近の水滴に触れると、指先にお湯を掛けられた感じがする。
「うん。確かに熱くなってる」
後を着けてきた彼女が、同じ様にペットボトルの水に指先を触れる。
「本当だ!センパイ、出来ましたね!」
彼女が振り返り、感激と驚きが混ざった顔を向けてくる。
「ありがとう。全て由美子のおかげだよ。本当にありがとう」
「やっぱり、センパイはスゴいです!」
おいおい、抱きつかないで。
「ゴメン、ちょっと次も試したいんだ。良いかな?」
「はい!それよりセンパイ、『魔力切れ』してませんか?」
彼女が晴れやかな顔で、俺の体の心配をして来る。
「いや、してない。大丈夫だよ」
「辛くなったり、お腹が空いたら直ぐに言ってくださいね」
「大丈夫、大丈夫だよ」
「そうだ!念のために回復しときましょう!」
そう言って、彼女がようやく抱擁を解いてくれた。
抱擁を解いた彼女は、胸元のペンダントに両手をやり、目を瞑り乙女が祈るような仕草をする。
徐に瞳を開いた彼女が右掌を俺の胸に当てる。
彼女と見つめ合った瞬間、彼女の右掌から俺の体の中に何かが入ってくるのがわかった。
その何かは、先程、俺の左手から右手に向かって移動したのに似ている感じがする。
だが、今度の何かは、どこかに移動して行くのではなく、俺の全身に染み渡って行くようだ。
「ありがとう。これって由美子の愛かな?」
「はい。私の愛です♥️」
俺の言葉に反応した彼女が、再び抱きついてくる。
う~ん。実に抱き心地が良い。
あれ?なんかやばい⋯
抱きつく彼女に、俺の息子が応え始める。
何か、一気に元気になって行くのがわかる。
「元気になりました?」
「は、はい。元気です」
もう。ビンビンです。
元気な息子を、彼女に気づかれないよう、抱き着く彼女から思わず腰を放してしまう。
それでも彼女が強く抱き着いてくる。
更には俺の元気な息子を確かめるように、俺の下半身に彼女の腰が押し付けられる。
「センパイ。元気になりました?」
おい。下半身をグリグリ押し付けるな!
おい。俺の腰を両手で持って引き付けるな!
そんな彼女の顔を見れば、どこか潤んだ瞳をして、俺の元気な息子を確かめるようにグリグリを続ける。
「待て!由美子、待て!」
グリグリ。
俺は彼女から逃げようとして後ずさるが、足が縺れて後ろ向きに倒れてしまった。
咄嗟に、彼女がケガをしないように抱き締める。
倒れた俺に、彼女は馬乗りに成って、元気な息子に自分の下半身をグリグリ押し付けてくる。
ああ、由美子さん。
そんなに刺激しないで⋯
お願い、やめてぇ~
ズボンの上から確かめるように触らないでぇ~
はっ!
こ、こいつ!
疲労回復だけじゃなく、別の事も意識したな!
シャー つ、冷たい!
えっ、これって、水?!
突然、俺と、俺に馬乗りな彼女に水が浴びせられる。
浴びせられた水の元を見れば、テラステーブルの脇に、ホースを持った吉江さんが立っていた。
ちょ、ちょっと、水を止めてください!
情け容赦なく、吉江さんがこっちに向かって歩きながら、バシャバシャと水を掛けてくる。
ちょ、ちょっと、水を止めてください!
だが、その水のおかげか、彼女も俺の上でグリグリを止めてくれた。
「二人とも!昼間っから何してるの!」
吉江さん。すいません。
あなたの娘さんが⋯
「そう言うのは、昼間からやらないの!」
はい。おっしゃるとおりです。