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門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月4日(火)☀️/☀️
205/279

16-7 彼女の場合


「センパイ。どうします?」


 おいおい。俺に聞かないで。


 隠岐の島の彼女の実家、高級住宅な家のテラスに彼女と並んで座る。

 目の前のテラステーブルには、100円ショップで売っていそうなピンクのバケツ。

 ピンクのバケツには、ギラリギラリと俺を睨み返す『魔石』が10個以上は入っている。

 その『魔石』と同じ物が、俺の手の中にも一つある。

 昨日、この高級住宅の整備された庭でBBQが行われ、俺はその最中に『エルフの魔石』に俺の『魔素』を『充填』して『勇者の魔石』を作った。


 いや、正しくは『作ってしまった』だ。


 その『勇者の魔石』を彼女の義叔父の正徳さんと彼女の兄の進一さんが調べ、さらに追加で作って欲しいと依頼されたのだ。

 しかも『勇者の魔石』を『作ってしまった』際には、『魔力切れ』なる症状に陥り多大な疲労感に襲われ、暫し意識を失う程だった。

 その『作ってしまった』のに重要なアイテム、『空き缶の上に置かれた炭』も少し離れた場所に準備されている。


 けれども俺は困惑している。

 作り方がわからないのだ。


「何をどうすれば成功するかが、まったくわからないんだけど?」

「二人で一緒に頑張りましょう♥️」

 いやいや。

 ♥️は嬉しいけど、今日のこの流れじゃないよね?


「教えて欲しいんだけど、さっきのは、どうやったの?あの古いペンダントの『魔石』に『魔素』を『充填』したやつ」

「ああ、あれですね。簡単ですよ。新しい方から古い方に『魔素』が移れ~って強くお願いするんです」

 はいはい。それはわかります。


「けど、兄さんの依頼は違いますよね?」

「そうだね。由美子の言うとおりだな」


 今回の進一さんの願いは、俺の『魔素』を『魔石』に『充填』することだ。


「だから、センパイが自分でやらないと出来ませんよね?」

「それって、俺が⋯俺の体の中に『魔素』が在って、それをこの『魔石』に移れ~って⋯」

 そこまで話して、彼女が俺をじっと見つめてきた。


 彼女は俺の瞳を、真顔で真っ直ぐに見つめてくる。

 普段はかわいい笑顔の彼女に、真顔で見つめられるとドキドキしてしまう。


「あると思いますよ」

「何でそう思うの?」


「だって、センパイ⋯」


 そう言った彼女は、胸元の魔石に両手を添えて目を瞑り、乙女の祈りのような仕草をした。

 そして閉じていた瞳をゆっくりと開け、再び俺を見つめてきた。


「やっぱり、センパイは金色じゃないですか」

「えっ?『金色』?」


 その言葉で金髪イケメン親子の顔が浮かぶ。

 息子の恭平君は初対面の俺を『金色のお兄ちゃん』と呼び、父親の進一さんも『魔石』を使えば『魔素』の色が見えると言う。


「もしかして、由美子は『魔素』の色が見えるの?」

「へへへ」

 かわいい笑顔だね。


「初めてセンパイを見かけた時、あれって思いました」

「⋯」


「それに、恭平ちゃんも金色だって言ってたじゃないですか」

「ちょ、ちょっと待って。恭平君が見えるのを知ってるの?」


「兄に聞いて、里依紗さんにも聞いて、恭平ちゃんも見えるんだと確信しました」

「俺は進一さんに聞いたんだけど⋯」


 やはり親族だけある。

 そうした話を、平然と出来るんだと感心させられる。


「もしかして、吉江さんや、保江さん、美江さんも見えるの?」

「母さんはわからないです。保江姉さんや美江姉さんは見えてるかもしれないです。そんな話をしてましたから」


 御親族でも、それなりの話で済ます部分もあるんですね。


「それで、センパイ。これをどうします?」


 彼女が指差すのは、テラステーブルに置かれたピンクのバケツ。


 彼女はそれを自分の方に少し寄せると、ガラガラとピンクのバケツの中で魔石が転がる音がする。

 『魔石』をこんなにも無造作に扱ってしまって、良いのだろうかと心の奥底で考えてしまう。


 そんな考えよりも、今は自分の『魔素』をどうやって『魔石』に『『充填』するかが問題だ。


「由美子が始めてやった時は?」

「私が市之助さんに言われてやった時は⋯自分の中に魔素があることを信じなさいって言われました」


 なるほど。

 一理ある言葉だと思う。


「センパイ。信じられます?」

「う~ん。直ぐには信じられないよね。けれども俺は、実際に経験してるんだから信じるしかないね」

 俺の言葉に彼女はニッコリと微笑む。


「それで、市之助さんに言われた後はどうなったの?」

「兄が褒められたんです」


 由美子、ごめん。

 どこか話が飛んでる気がするよ。


「兄さんと市之助さんがやってて、楽しそうだから、私も見よう見真似にやってみたんです」


 兄と祖父がやってることに、幼い彼女が興味を持ったんだなと伺える話だ。


「それで、由美子もやってみたの?」

「目の前で兄さんが出来て、市之助さんが褒めまくってるのを見て。なんだか悔しくなって⋯」

 なんか、微笑ましい感じの話だな。


「兄に出来たんなら、私にも出来るって強く願ったけど無理でした」

「普通はそうだよね(笑」


「そうしたら市之助さんに言われたんです。まずは自分の体の中にある『魔素』の存在を信じなさいって」

 おいおい、市之助さん。

 幼い彼女に何を教えたんだ?


「それで、一所懸命に『体の中に魔素がある』って口にして信じてみたら出来たんです。褒められたい一心でやりました(✌️」

 そこで✌️サインですか?


「その後に『魔力切れ』で寝込みましたけどね(笑」

 おいおい、全然微笑ましくない話だぞ!


「よかったら、私がやってみましょうか?」

「ダメダメ。由美子が『魔力切れ』を起こしたら大変だから絶対にダメ!」


「センパイ、優しいんですね♥️」


 彼女がいかにも感激したと言わんばかりの顔で俺を見てくる。


 普段、褒められることの無い俺。

 彼女の褒め言葉に照れてしまった。


 彼女はそっと俺に手を重ねてきた。

 その手を握り返そうとする俺。


 そんな二人に声が掛かる。


「こんにちは~」


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