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門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月4日(火)☀️/☀️
204/279

16-6 ドーナッツ


「あれが⋯『魔力』?」


 俺は、進一さんの言葉に首を捻るばかりだ。


「わからないか?」

「⋯」


「じゃあ、さっきのを順番に細かく検証して行こう」

 進一さんは、そう口にして、俺にさっきの彼女の様子を思い出させる。


「いいかい。最初に由美子は何をした?」

「彼女は⋯」


〉胸元の新しいペンダントに両手をやり、

〉目を瞑り乙女が祈るような仕草をする。


「進一さんから貰った新しいペンダントに手をやり⋯」

「そう。まずは『魔石』に含まれた『魔素』の存在に意識を集中したのさ」


 なるほど、彼女の仕草や口にした言葉、これらにどんな意味があるかを考えて行くんだな。


「次に由美子は台詞を口にしたよね?」

「確かこんな台詞を⋯『新たなる魔石にて、古き魔石を輝かせん。』だったと思いますが?」


「ククク。由美子らしい台詞だよね(笑」

「あれにはどんな意味があるんですか?」


 『魔力』が何かを知りたい俺は、進一さんの冗談交じりの言葉の先を急かした。


「あれはね、多分、首にぶら下げたペンダントの『魔素』を、二郎くんの手の中のペンダントに移動させて輝かせる、そんな意識を強めたんだろうね」

「胸元の『魔石』に触れて『魔素』を感じて、その『魔素』を古い魔石に移動する」


「そう、それを強く意識したんだよ」

「その後に深呼吸して⋯」


「由美子は気合いを入れて、強く念じた」

「それで『魔素』が移動するんですか?!」


「そう。意識して念じる=魔法だよね?酔い醒ましで二郎くんも経験しただろ?」

「え、ええ⋯それと『魔力』がどう関係するんですか?」


「意識して念じて、どうなった?」


「由美子の手が温かくなって、それが手の甲からてのひらに移動して行く感じで⋯」

「それでどうなった?」

 そう言って進一さんは、僅かに光が宿ったペンダントを見せてきた。


「実際に『魔素』が移動した⋯」

「そう、実際に実現させた。その実現させる力が『魔力』なんだよ」


 進一さんの説明に、何となくだが『魔力』が何かを理解できそうな気がしてきた。

 自分が実行した酔い醒ましの『魔法』と絡めて、さっきの様子を心の中で反芻する。


「センパイ。ドーナッツ食べます?」


 彼女の声と共に、目の前に菓子皿に入れられた小振りのドーナッツが出てきた。


「ありがとう」

 そう言って進一さんはドーナッツに手を伸ばす。


「兄さん、次はセンパイにやって貰います?」

「そうだね。由美子は経験者だけど、二郎くんは初めてだろ。昨日のように外でやって貰おう」


 俺に外でやって貰う?

 何をどうやるか意味不明なんですけど?


 もしかして、昨日と同じ事を俺がやるの?



 この緑の芝生は、誰が手入れしているのだろう。


 剛志さんだろうか、それとも進一さんだろうか。やはり吉江さんだろうか。


 隠岐の島は、対馬暖流の影響で過ごしやすい地と聞く。

 それでも数ヶ月前は、この緑に染まる庭も雪に覆われていたであろう。

 雪に覆われ固く凍えていたであろう庭は、今は柔らかな生命の息吹をたたえ、見事な新緑に覆われている。

 庭の周囲の植木は芝に負けぬ青い葉を茂らせ、清潔で優しい風がその葉を揺らしている。

 風の渡る空は、高く透き通るように青い。

 そこに浮かぶわずかな雲は、輪郭をくっきりとさせている。


 そんな春の陽気の中で、俺は既視感デジャヴュに身を委ねる。


 目の前には⋯

  空き缶の上に乗せられた炭。


 進一さんは俺と彼女を庭に連れ出し、空き缶の上に昨日のBBQの残りの炭を一つ置いてこう言った。


「はい、二郎くん。これが『隠岐の魔石』だ。言わば『エルフの魔石』の原石だな」


 進一さんはそう言って、俺に一つの魔石を渡してきた。


 渡されたのは、昨日と同じ様な大きさの魔石だ。

 『エルフの魔石』の原石。

 『隠岐の魔石』と言うことは、市之助さんの記録に書いてあった、『隠岐の島の門』を使って作られた『魔石』だろう。


 渡された魔石の中の光を見ようとすれば、ギラリと光る。

 その眩しさに少し目を細めれば、中の光は治まる。

 それでも魔石の中の様子を見ようとすると、再びギラリと眩しく光る。


 まるで、『こちらを見るな』『中を見ようとするな』そう訴えてくる感じすらする。

 今迄、見たことの無い魔石だ。


「何個か由美子に預けておくから、全て『勇者の魔石』にして構わないよ。遠慮なくやってくれ」

 進一さん、それをプレッシャーと言います。


 彼女は進一さんから、ピンクのバケツを受け取った。

 久見海岸で、黒曜石拾いに使ったのと同じ様なピンクのバケツだ。

 念のために、ピンクのバケツの中を見せて貰えば、進一さんの言葉を越えて10個以上の魔石が、ギラリギラリと光を放ちながら俺を睨んでくる。


「正徳さんが待ってるから。じゃあ、二郎くん、由美子、よろしく✌️」

「いってらっしゃぁ~い」

 さすがは恭平君の父親だね。

 同じ金髪イケメンだもんね。


 彼女に送り出され、声を掛ける間もなく、進一さんは小走りに高級住宅の庭から出ていった。


 俺の左手には⋯

  進一さんから渡された魔石。


 彼女の手元には⋯

  魔石が10個以上入ったピンクのバケツ。


 そして、空き缶の上に置かれた炭。


 その炭を見つめて、俺は既視感デジャヴュに身を委ねるしかなかった。


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