16-4 ペンダント
『魔力』って…な・ん・で・す・か?
市之助さんの記録=日記を読んで、『魔力』の言葉で躓いてしまった。
昨日も躓いた『魔力』なる言葉。
その意味を知りたくて、進一さんに声を描けようとするが、進一さんは里依紗さんと会話中だ。
「進一さん。じゃあ恭平と出掛けて来ますね」
「パパいってきます(✌️」
「恭平、仲良く遊ぶんだよ」
里依紗さんと恭平君は、お出掛けするようだ。
そんな恭平君に、戻ってきた彼女が声をかける。
「恭平ちゃん。結菜ちゃんによろしくね」
「うん(✌️」
彼女の問い掛けに恭平君はにこやかに答え、玄関へとダッシュで向かう。
そんな恭平君を追いかける里依紗さんも小走りだ。
「結菜ちゃん?」
「昨日、遊びに来た結菜ちゃんのお母さんから、誘われたらしいの」
ペンダントらしき物を片手に、戻ってきた彼女が答える。
「由美子、持ってきた?」
「うん。一ヶ月ぐらい前に空になったみたいで…」
彼女はペンダントを進一さんに渡す。
進一さんは、渡されたペンダントを手に取り、ペンダントトップの黒く丸い石をじっくりと見ている。
端から見ると、只の黒く丸い石だ。
きっと、『エルフの魔石』なのだろう。
「これって、空になってるけど…年末に送ったやつだよね?」
「うん、このところ疲れが取れなくて、随分とお世話になりました」
なるほど。
『エルフの魔石』は子孫繁栄だけではなく、疲労回復にも使えるのかと彼女の言葉から伺える。
「由美子、かなり仕事が辛かったんだね」
「それもこれも、センパイがいじめるからなんですぅ~シクシク」
そう言いながら、彼女は俺の隣に座り、腕を絡ませてくる。
ほらほら、進一さんが見てるから。
「じゃあ、新しいのを持ってこよう」
ニヤニヤ顔を俺に見せながら、進一さんが席を立った。
俺は進一さんがダイニングテーブルに置いていったペンダントに手を伸ばし、進一さんの様にペンダントトップをじっくりと観察する。
昨日見た『魔石』とは違い、只の丸い黒曜石を細かい白銀の爪で止めているデザインだ。
丸いペンダントトップの黒曜石は、外からの光を受けて俺の顔を鈍く写すだけ。
「これって黒曜石?」
「『エルフの魔石』です。疲れてる時に使ってたんです。かなり効果があるんですよ」
彼女の言葉で確信した。
やはり『エルフの魔石』をペンダントトップにあしらったものだ。
「進一さんは、半年前にとか言ってたけど?」
「ええ、いつもは1年ぐらいは持つんですが、これは半年で完全に黒くなって…」
「由美子は昔から使ってるの?」
「ギクッ」
俺の言葉に彼女の動きが一瞬止まる。
「大学入試でも使ったとか?(笑」
「ギクギクッ」
おいおい。本当に使ったんですか?
「そういえば、由美子の卒論はかなり優秀だったよね?」
「ギクギクギクッ」
少しおどおどする彼女が面白い。
「会社でも使ってたの?」
「てへぺろ(✌️」
『てへぺろ』って何ですか?
まあ、かわいいから許すけど(笑
「疲労回復は効果絶大ですよ。一度使うと、きっとセンパイも欲しくなります」
「おいおい、そんなに効果があるの?」
「一番は、軽い風邪とかですね。これがあれば微熱も治まるんです。後は筋肉痛にも効果があるんです」
「へぇ~」
彼女の『筋肉痛』の言葉で、淡路島でバーチャんの農作業を手伝い、筋肉痛に襲われたのを思い出す。
そんなに効果があるのならば、使ってみたい気もしてくる。
学業にも効果あり。
疲労回復にも使える。
筋肉痛にも効く。
軽い風邪なら治療できる。
更には俺の経験した酔い醒まし。
なんか、危ない薬みたいだ。
「これって…その、危ない薬みたいな…」
「センパイも使いたいですか?」
少しニヤついた顔で言うな。
俺の『危ない薬』に反応して、からかってるのだろ。
彼女はからかい気味に、俺ににじり寄る。
「す~ごく効くんですよ。眠気や疲労感がなくなり、頭が冴えるんです」
はいはい。ますます危ない薬のうたい文句ですね。
「
秦の家では、みんなやってますよ~
栄養剤と同じだから大丈夫
かんたんにやせられるよ~
イライラがとれるし~
集中力がつきますよ~
最高に楽しくなれるよ~
肌がきれいになるよ~
成績が上がるよ~
1回だけなら関係ないよ~
いつでもやめられるよ~
お金はいらないよ~
」
ますます、彼女が俺ににじり寄る。
「とりあえず、試してみましょう。ねっ、センパイ」
「テイッ」
にじりよる彼女の頭頂部を、後ろから進一さんが銀色のケースで叩く。
「痛ッ!!」
「由美子。お前は、いつから危ない薬の売人になったんだ?ククク」
俺ににじり寄る彼女を、戻ってきた進一さんが止めてくれた。
「ほれ、新しいのだ。大切に使えよ」
そう言って進一さんは、先程、彼女の頭を叩いた長細い銀色のケースを渡した。
「お兄ちゃん。いつもありがとう」
「二郎くんは、魔石の怖さを知ってるから、乱用はしないよな?」
進一さん、それって益々、危ない薬です。
「さて、二郎くんは読み終わった?」
「読んだけど理解できません…『魔力で包む』と書いてありますけど、そもそも昨日も話した『魔力』がわかりません」
進一さんに教えられた市之助さんの記録=日記を読んで、『魔力』で躓いたと正直に答える。
「ククク。無理もないか。由美子、新しいのを二郎くんに見せて」
彼女は既にケースから新しいネックレス?
いや、先端に魔石をあしらっているからペンダントだな。
それを手に取りじっくりと見定めていた。
脇から彼女の手元を覗き見ると、先程、彼女が持ってきたのとはデザインが違っていた。
進一さんが持ってきた銀色のケースに納められている方は、ペンダントトップの魔石の周囲を爪の無い白銀が覆っている。
言わば、かなり装飾を削ったデザインとなっている。
その白銀に覆われた黒く磨き上げられた魔石が、内部から銀色の光を放つ。
外側の白銀と合間って、ペンダントトップがなんとも言えない美しさを見せているのだ。
「お兄ちゃん。これって新作?」
「わかるかい?里依紗がデザインしたんだ」
「やっぱり、義姉さんのデザインかぁ~。センスあるなぁ~」
「由美子、見せてくれる?」
俺が彼女に言うと、渋々ながら彼女は新しい方を俺に渡してくれた。
すると、進一さんが古い方を渡してくる。
俺は両方を手にして、ペンダントトップの魔石を比較してみる。
古い方は黒曜石だが、新しい方は内部に銀色の光を持つ、明らかに『魔石』とわかるものだ。