16-3 サポート
俺の我儘が受け入れられ、市之助さんの墓参りを済ませた。
市之助さんの墓前で、市之助さんが残してくれた記録=日記を読むことに許しを願った。
その墓参りの帰り道は、スーパーでの買い物を済ませての帰宅となった。
買い物の途中で、京子さんと吉江さんが淡路島を訪問した際の話となった。
はるばる淡路島を訪問した秦家の方々、そんな方々へのバーチャんの歓待は、相も変わらぬ食事(朝食と昼食)だったと言う。
バーチャんらしいとは思ったが、どこか気恥ずかしい気分だ。
そんな話の続きをしながら、秦家の高級住宅に戻り、お昼御飯を皆で食べることになった。
「と、言う訳でお茶漬けです(笑」
吉江さん。どんな『訳』かはわかりませんが…何かスンマセン。
ダイニングテーブルで、秦家の方々とお茶漬けで昼食を済ませる。
「ママ ぼく おちゃずけ すき~(✌️」
恭平君。食事中に✌️はお行儀悪いぞ。
「もしかして、桂子さんの昼食を模したんですか?」
里依紗さん。あなたも知ってるんですか?
(ただいま~)
玄関からの声は進一さんのようだ。
「パパ~ おかえり~(✌️」
「進一、おかえりなさい」
「進一、お疲れ様です」
「お兄ちゃんお疲れ様です」
「スンマセン。先にいただいてます」
「進一さん、お仕事、お疲れ様です。直ぐに準備しますね」
「…」
お茶漬けを食べている皆を見て、進一さんの動きが止まっている。
そんな進一さんに、里依紗さんが問いかける。
「進一さん、懐かしいお昼御飯でしょ?」
「…」
「も、もしかして里依紗さんも淡路島の経験者ですか?」
「フフフ」
俺の質問に、里依紗さんは微笑むだけだった。
◆
「ちょっと二郎くんに相談があるんだ。食事を済ませるから、二郎くんは悪いけどPadを持ってきてくれるかな?」
「わかりました。持ってきます」
お茶漬けを食べながら進一さんに問い掛けられた。
俺は快諾して、寝泊まりしている部屋にPadを取りに行く。
寝泊まりしている部屋で充電中のPadを手にして、昨日と同様に、階下に降りる階段の前で深呼吸する。
Padを持ってくることを、進一さんは俺に願った。
きっと、進一さんの話は『門』に関わる事なのだろう。
どんな話が来ても、驚かず悩まず、冷静に話を聞こう。
そう決心して階下に降りる。
階下でリビングのソファーを見れば、女性陣と恭平君がテレビドラマな人になっていた。
あのテレビドラマは、俺が寝坊した朝に放送していた再放送だと思うが…
ダイニングテーブルに向かうと、食事を済ませた進一さんが、新型のPadを操作していた。
「進一さん。持ってきました」
「二郎くん、すまないね。正徳さんが『勇者の魔石』を調べているんだが、思うような結果が出ないらしい」
進一さん、いきなりその話から始めるんですか?
「二郎くん。すまないが、もう一度やってみてくれないか?」
「な、何をやるんですか?」
「『魔石』に『魔素』を『充填』して欲しい」
俺は進一さんの言葉に、一瞬、思考が停止した。
じわじわと、昨日の『魔力切れ』を起こしたときの疲労感が甦ってくる。
「『魔力切れ』が怖いよな?サポートをつけよう」
そう言って、進一さんは立ち上がり、リビングエリアの彼女に声をかける。
テレビドラマな人々の反応は無いと思ったが、丁度、テレビドラマが終わったらしい。
進一さんと彼女が何やら話をした後に、二人でダイニングテーブルにやって来た。
「二郎くん、由美子がサポートに着く。それでお願いできないか?」
「センパイ。出来ますか?」
「…進一さん。すいませんが、もう一度最初からお願いします」
彼女が来てくれたことで、俺は再始動できた。
「そうだね説明が必要だね。正徳さんが『勇者の魔石』を調べているが、比較計測が必要らしいんだ」
「比較計測?」
「昨日、二郎くんが作った『勇者の魔石』は、僕が作った『エルフの魔石』が元になっている」
「ええ、元々は進一さんが持っていた『魔石』ですよね」
「そう、僕の『魔素』に、二郎くんの『魔素』が上書きされてる感じなんだろう」
「進一さんのと、自分のが混ざってる感じですか?」
「正徳さんは、そこを気にしているんだ。そこで、純粋に二郎くんの『魔素』を『魔石』に『充填』したのと比較したいそうだ」
「それって、自分に出来るんでしょうか?」
「ククク。自信が無いかい?」
「ええ、昨日のもどうやってやったか覚えてなくて…」
「僕は二郎くんなら出来ると思ってるよ。頼めないかな?」
「努力はしますが…」
「センパイ。頑張りましょう(グッ」
由美子さん、ヤル気満々ですね。
「『魔力切れ』を起こさないように、由美子がサポートに着く。出来上がった魔石の所有権は二郎くんだ。なんとかお願いできないか?」
「由美子、その、進一さんの言うサポートは経験あるの?」
「はい。大学に行くまでは私の役目でした」
「二郎くんは、昨日、里依紗がやったのを見てるよね」
進一さんが、彼女をサポートに着けると言い出してきた。
なるほど。
昨日のBBQの片付けで、進一さんと里依紗さんがコンビを組んで、何らかの魔法で炭の火を消した話だろうと察した。
そこまで話を聞いて、俺は彼女をサポートに付けた、『魔石』への『魔素』の『充填』に強い興味を持った。
〉由美子さんなら二郎さんと一緒に出来る筈だから
里依紗さんは俺にそう言った。
今の俺で出来るだろうか?
自信はないがやってみたい。
俺は決心した。
「由美子、一緒にやろう」
「はい♥️」
俺の決心に、彼女は明るく返事をしてくれた。♥️付で。
「よし。二郎くん、ありがとう。由美子、ペンダントは持ってきてる?」
「ええ、充填してもらおうと思って持ってきてます。今、持ってきます」
進一さんの投げ掛けに、彼女は嬉しそうに席を離れた。
「二郎くんは、Padでこの日付の市之助さんの記録を読んでくれ」
そう言った進一さんは、新型のPadを俺に見せると席を立ち、リビングエリアの吉江さんや京子さん、里依紗さんに声をかけている。
俺は進一さんに教えられた、市之助さんの記録=日記を開いて読み始めた。
─
黒い石を門に通すと魔石になる。
荒々しい黒い魔石だ。
黒い魔石を自分の魔力で包むと静かになった。
ここまで読んで止まった。
『魔力』って…な・ん・で・す・か?