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門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月4日(火)☀️/☀️
200/279

16-2 郊外型スーパー


 納骨堂の前で合掌してから、枯葉などの目立つゴミを拾おうと見回すが、何も落ちていない。


 吉江さんが花立にお花を入れ、供物台にお供え物を置き、水鉢に水を入れる。

 京子さんがお線香を上げ、4人で合唱する。


"市之助さん。あなたの孫の由美子さんと一緒になります。"

"それと市之助さんの残してくれた記録を読みます。"

"桂子バーチャんが言っていたとおりに、市之助さんの思いを理解できるように努めます。"

"あたたかく見守ってください。"


 俺はこれから市之助さんが残したものから、幾多の事を学ぶだろう。

 昨夜も考えたが、『何の為に』学ぶかは見えていない。

 それでも俺が学ぼうとしている姿勢でいる今は、あたたかく見守って欲しいと願った。


 5月の墓地に吹く風が、俺の頭を撫でるように吹く。

 まるで、市之助さんに撫でられているようだ。


 墓参りを済ませ、駐車場に4人で向かう際に、俺は吉江さんと京子さんに礼を述べる。


「京子さん、吉江さん。市之助さんの墓に参る許しを頂き、ありがとうございます」

「二郎さん、由美子と一緒になれば、あなたは私の義息子よ。遠慮しないで」


 吉江さんの隣で京子さんも頷いている。

 俺は彼女と一緒になり、二人の親族になるのを実感した。



 共同墓地の駐車場に戻り、皆で車に乗り込む。


 彼女の案内で秦家に戻る最中に、吉江さんが思い出したように声を出した。


「そうだ、お母さん。買い物に付き合ってくれる?」

「私は大丈夫よ。二郎さんは?」

 京子さん、俺のことは気にしないでください。


「気にしないでください。今日は運転手だと思って使って下さい」

「センパイ。荷物持ちもお願いしますね(笑」

 運転手兼荷物持ちですね。お任せください。


 彼女の言葉に吉江さんが諭すように問いかける。


「由美子は、いつになったら『二郎さん』と呼ぶのかな?」

「「……」」

 吉江さん。俺では返事が出来ない言葉です。

 彼女も黙っちゃったし…


 続けて京子さんも問いかけてくる。


「由美子は二郎さんと所帯を持ったら、桂子さんと一緒に住むのかい?」

「「……」」

 京子さん。俺だけでは返事が出来ない言葉です。

 彼女も黙っちゃった…助手席でクネクネしないで!


「お母さん、二郎さんも由美子も仕事があるから、直ぐには決められないわよ」

 吉江さん。おっしゃるとおりです。


「それにしても、まさか由美子が桂子さんの孫と一緒になるとは驚きね」

 京子さん。俺も驚きです。


 そんな会話の車中から道行く車を見れば、昨日同様に黄色ナンバーのレンタカーが目につく。

 そして昨日同様にタクシーも目につく。


 今日も隠岐の島は快晴だ。


 低音を響かせて走る3台~4台のバイク集団を見掛け、ナンバープレートを見れば全てが『川崎』だった。

 『川崎』と言うことは神奈川県だ。

 関東地方から、ここまでツーリングに来たんだなと感心する。

 バイクツーリングも、この天気ならば楽しそうだ。

 更に楽しそうだと感じたのは、電動自転車を漕ぐ3名の女性たちだ。


 5月の快晴は紫外線も強い。

 彼女達は、日焼け対策をしているのだろうか。


 そんな、要らぬ心配をしていると彼女が声を掛けてきた。


「二郎さん」

「えっ?」

 急に、彼女から下の名前で呼ばれて戸惑う。


「そこの右側のスーパーに入ってください」

「ああ、そこだね」


 彼女に指示された郊外型スーパーの駐車場に車を駐め、吉江さんと共に京子さんの降車に手を添える。

 彼女も降りてきて、俺の腕に手を絡ませながらスーパーへ向かう途中で、彼女が嬉しそうな声で、再び俺の下の名を呼んできた。


「二郎さん♥️」

 うん。美人で可愛い顔を俺に見せてくれるのは嬉しいが…


「由美子、ちょっと待って。急に『二郎』呼びは戸惑うよね?」

「はい!センパイ(♥️」


 呼び名は戻ったけど、♥️マークは相変わらずですね。



「二郎さん。今日のお昼はどうします?何か食べたいものあれば言ってね」

「いえ、特には…」


「桂子さんのところだと…」

「昼食は…お茶漬けですね(笑」


「ぷっ。桂子さん、まだお茶漬けなの?」

「えっ?桂子さん、まだお昼はお茶漬けなの?」

「ええ、淡路島に帰省して、毎日がお茶漬けです(笑」

 吉江さんも京子さんも、『まだお茶漬けなの』と不穏な言葉を口にする。


「自分の記憶だと、実家での昼食はいつもお茶漬けですね(笑」

「驚いた。今でもお昼をお茶漬けで済ますなんて…」


「ちょっと聞いて良いですか?」

「ええ?」


「もしかして、京子さんや吉江さんが淡路島に来たときも、お昼ご飯は…」

「そう。「お茶漬けだったの」」

 京子さんと吉江さんがハモるとは?!


 バーチャん、何年、お茶漬けでお昼を済ませるんだよ。

 まさか?朝御飯も?


「あの…変な質問ですが…朝御飯、その淡路島に来ていた時の朝御飯は…」

 俺の質問に、吉江さんと京子さんが揃ってニヤリと微笑む。


 すると彼女が割り込んできた。


「お祖母ちゃんとお母さんから聞いて、驚きました。これがセンパイの実家の味なんだなって」

 彼女が生き揚々と語る。


「由美子が二郎さんの朝御飯を準備するって聞いて、淡路島での朝御飯を聞いたら…プププ」

 吉江さん。思い出し笑いですか?


「だって~、私が淡路島に行ったときと変わらないんだもん。プププ」

「吉江、桂子さんの朝御飯の話かい?味噌汁と生卵と漬物だろ?」


 はいはい。京子さん。


 それが俺の実家、バーチャんが作る、いつもの朝食ですね。


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