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門の守人  作者: 圭太朗
2021年4月19日(月)☁️/☁️
2/279

1-1 有給休暇の申請


「カドモリ君!」


 パワハラ課長が俺を呼ぶ声がする。


 宅配便の不在票を受け取った翌朝。

 俺は出社して直ぐに有給休暇申請を書き上げ、わざわざ印刷してパワハラ課長のデスクに置かれた『未決』と書かれたデスクトレーに放り込んだ。

 

『未決』『既決』と書かれた札が貼り付けられたデスクトレーを見るたびに、古くさい昭和レトロなやり方に疑問を感じる。

 パワハラ課長は昨年の9月に着任早々、この方式を持ち込んだ。

 既に電子決済が導入されていた社内で、わざわざパワハラ課長がやり始めた方法だ。


 課の皆は当初は反対していたが、


『電子決済では記録が残らん』

『電子決済が良いとは限らん』


 パワハラ課長のいかにも無能な管理職が口にする言葉に続けて、最後には、


『俺は、この方法以外では申請を受け付けない』


 課の皆に、そう宣言して強行した方式だ。


 そんな『未決』に放り込んだ俺の有給休暇の申請を眺めながら、パワハラ課長が俺を呼ぶ。


「はい。何でしょう?」

「朝から有給休暇の申請など見たくない」


 何を言ってるんだこいつ?

 このパワハラ課長を殴ったら退職だろうか?

 そんなことを考えていたら追い討ちが来た。



「あれ?GWも組み合わせて3週間?長すぎる」


 殴ろう。

 そうすれば有給休暇にとどまらずに永久な休みが得られそうだ。


「理由は?」

「⋯」


 いつから有給休暇を出すのに理由が必要になったんだ?


「皆が休日出勤も当たり前に働いているのに君だけが有給休暇の取得か?」

「祖母の容態が悪くて⋯」


「祖母?本当かぁ~?」


 疑いの眼差しを向けてくるパワハラ課長。



「本当は村の集団お見合いにでも参加するんだろ?」


 えっ?

 何を言い出すんだこいつ。

 そのニヤけた顔に左フックを叩き込みたい。


 就職留年した一年はジム通いに費やした。

 脳筋なトレーナーが熱心に教えてくれた左フックは今も現役だと信じたい。

 ここでお披露目して同僚の注目を集めるのも悪くないか。

 おいおい俺まで脳筋な考えになってないか?



「お~い 山田」

「はい。課長。お呼びですか?」


 パワハラ課長の腰巾着な山田が飛んできた。

 こいつの課長に呼ばれたときのフットワークは俺より早いかも。


「彼が長期有給休暇を取るんだって」

「えっ?この忙しいのに!?」


 課長には左フックで山田には右アッパーだな。


「こいつの仕事、適当に割り振っとけ」

「この山田にお任せください!」


 課長と山田の声に、フロアに座る同僚が一斉に椅子に座り直し、カタカタとキーボードを叩く音が広がる。

 山田に仕事を振られまいと皆が忙しさを醸し出す。


 それにしても、山田に俺の仕事を任せて大丈夫か?

 課長は忘れたのか?


 山田は先月もお客様に出禁を食らって、俺が山田の付き添いで土下座謝罪に行ったのを忘れたのか?



 パワハラ課長は俺の有給休暇申請に判を押し、投げるように『既決』の札の貼られたデスクトレーに放り込んだ。


「ほら受理したぞ。他に何かあるのか?」

「いえ、ありません」


 俺は慇懃な課長の言葉から来る怒りを圧し殺し、皆が忙しそうにするフロアをそそくさと出ることにした。


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