15-26 神様の意図
食後の一杯を終わらせ、ノートパソコンとPadを手にして寝泊まりしている部屋に戻る。
戻りしなに、リビングエリアでテレビを見入る女性陣へ、就寝の挨拶も済ませた。
彼女の名を呼べば、相変わらずクネクネしていて笑えた。
寝泊まりしている部屋に入り、ノートパソコンを開く。
昨夜の疑問点を書き残したメモを、判明したことから更新する。
進一さんにも指摘された『尻』な部分は削除する。
俺は何をしているんだ?
頭の中に湧き出る疑問。
俺は、何のために、こんなことをしているんだ?
何のために、隠岐の島へ来たのか?
『継ぐ』とは何かを、進一さんから学びに来た。
『継ぐ』には学びを重ねる必要があることは理解できた。
俺は淡路陵の当代をバーチャんから『継ご』うとしているのか?
そもそも『当代』の役割って何だ?
進一さんのように『魔石』を作ることか?
何のために『魔石』を作るんだ?
子孫繁栄のため?
『門』を開くため?
『魔法』のため?
『米軍の門』では『魔法円』を得ることに拘っていた。
『魔法』ってそんなに良いものか?
『魔法』が使えれば酔いを醒ませる。
『魔法』が使えれば炭に火がつけれる。
『魔法』が使えれば炭の火を消せる。
『魔法』を使えなくても、炭に火はつけれるし、火消し壺を使えば火は消せる。
そもそも『門』って何だ?
バーチャんの言葉を思い出す。
〉『門』を何だと思うとる。
〉ワシがいた世界に繋がるのが門じゃ。
〉それを作ったのがケンタじゃ。
〉神様が門を作ったんだ。
神様は、何のために『門』を作ったんだ?
目的がない限り『門』なんて作らないだろ?
バーチャんによれば、『門』を作ったのは神様だ。
何故、別世界と繋がる仕組みを作ったんだ?
作った目的は?
『門』を作ったことで、神様は目的を達成しているのか?
神様の目的が達成されたなら、『門』を存続させ続ける必要は無い。
むしろ『門』の存続を続ける事は、神様の意図に反しているのでは?
『当代』を継ぐのは、神様の意向に"そぐわぬ"行為な気がしてきた。
別世界から来た人に、この世界の人間との間で子孫が生まれないのは、神様が生ませたくないから?
そもそも、何でこちらの世界に来たんだ?
俺の知ってる、こちらの世界に来た人は…
■零士お爺ちゃん
『米軍の門』を通じて、こちらの世界に来た。
向こうの世界では、魔王国の大魔導師の魔法実験が行われたと言う。
その魔法が原因で、こちらの世界に来た。
■桂子お祖母ちゃん(バーチャん)
『淡路陵の門』を通じて、こちらの世界に来た。
向こうの世界では、魔王国の大魔導師の魔法実験が行われたと言う。
その魔法が原因で、こちらの世界に来た。
■礼子母さん
『米軍の門』を通じて、こちらの世界に来た。
⇒向こうの世界で何があったんだ?
■一郎父さん
『淡路陵の門』を通じて、こちらの世界に来た。
⇒向こうの世界で何があったんだ?
まてよ。
夢で見た気がする。
〉この世界に来て直ぐに戻ろうとした。
〉まだ光っていたから中に入れた。
〉勇者様と魔王が魔法を放っていた。
もしかして、勇者様と魔王が放った魔法に巻き込まれたのか?
■市之助さん
『隠岐の島の門』を通じて、こちらの世界に来た。
⇒向こうの世界で何があったんだ?
まてよ。
市之助さんは『魔術師』だったとか?
それならやはり『魔法』が原因で、こちらの世界に来たのか?
ここまで考えると、向こうの世界での『魔法』がこちらの世界に来た原因のような気がしてくる。
もう少し整理して考えると、こんな図式が成り立つ気がする。
『門』神様が作った
↓
『初代当代』魔法で向こうの世界から来た
↓※子孫が生まれない
⇒『エルフの魔石』で女子は生まれる
⇒『勇者の魔石』で男子が生まれる
↓
【継ぐ】初代当代の血筋を持つ『男に限定』
↓
『次代当代』
『男に限定』は、『伊勢の守人』が付け足した気もするが…
子孫が生まれないのは事実のようだから、ここには神様の意図が入っている気がする。
ダメだ。
神様の意図を考えるなんて、哲学的過ぎる。
例え進一さんや剛志さんと問答しても、何も答えが得られない気がする。
例えPadで調べて学んでも、日記を書いた方々の考えを知るだけで、真相は得られない気がする。
そもそも『門』って何だ?
バーチャんの言葉を…
あれ?
さっきも同じことを考えた気がする。
これって、思考が巡ってるのでは?
俺はノートパソコンを閉じた。
◆
トイレに行き、寝る前の準備を済ませる。
歯も磨きたいので、洗面台に行き歯を磨いていると背後から声を掛けられた。
「センパイ、お水です。兄から持って行くように言われました」
「ああ、ありがとう」
秦さん、風呂上がり?
良い匂いがしますよ。
「ちょっと部屋で話せますか?」
「いいけど…大丈夫?」
ここは彼女の実家だ。
彼女と結婚を前提に付き合い始めたとはいえ、実家で二人っきりは、彼女の親族もいるので不味い気がする。
「大丈夫ですけど?」
あっさり返事するんですね。
それから彼女を連れて、寝泊まりしている部屋で彼女と二人っきりになった。
俺はベッドに座り、彼女は机の前の椅子に座る。
「センパイ、兄と話してどうでした?」
「何か気になった?」
「いえ、センパイが魔力切れしたり、兄にいじめられてないかと…」
「それは違うよ。俺が勝手にやったことだし、由美子が看病してくれたでしょ?」
おいおい、『由美子』と呼ばれて顔を赤くしないで。
「私の実家に来てどうですか?」
「来て良かったよ。ご両親にも挨拶できたし」
「今日は一緒に寝ませんか?」
「由美子さえ良ければ…」
そう告げると、彼女は俺の隣に座ってきた。
俺はそんな彼女の肩を抱き寄せた。