15-24 酒宴の終わり
「二郎くん、門から出てきたのが初代で当代なら、『伊勢の門』を『継いだ』今の当代は誰だと思う?」
「えっ?」
「ハッハッハ。進一、その説明じゃわからんだろ」
「剛志さんも進一さんも、ちょっと待ってください。『伊勢の門』についてはPadで学べますか?それなら自分で学べると思いますが?」
「待て待て、二郎くんは『伊勢神宮』の全てを学ぶ気か?ククク」
「二郎君、『伊勢神宮』の全てを学んでる奴が居ると思うか?ハッハッハ」
二人の話を聞いて、何となく自分の発言が笑えることに気が付いた。
伊勢神宮は歴史ある場所だ。
それでこそ日本の成り立ち、日本創生の神話から始まる場所だ。
日本創生の神話としての歴史、伊勢神宮の記録、その量を考えたら膨大な量だろう。
当代を『継ぐ』為には、全ての記録=日記を学ぶことが条件の一つだ。
そんな膨大な量の記録=日記に挑み、成し遂げた人物が存在するとは思えない。
『門』の当代を『継ぐ』には、
〉・門から出てきた者の血筋を持つこと
〉・門に関わる全てを学ぶこと
〉・継ぐ覚悟をしていること
〉・自ら継ぐと宣言し意思を示すこと
これらを達成して『継ぐ』資格を得ると言うのならば、『伊勢の門』=『神の門』には当代を『継いだ』者はいないと考えるのが妥当だろう。
だとすれば、今の『伊勢の門』に居るのは、門に関わりし人々、『守人』だけだろう。
そうなると…
続けて違和感を抱いたのは、進一さんが言っていた言葉、
〉『継ぐ』者は
〉・門から出てきた者の血筋を引く男で
〉・婚姻相手を連れて
〉・伊勢神宮に行き
〉・継げるか否かの判定を貰う
ここまで思い出して、『伊勢の門』=『神の門』の在り方に違和感を越えた、強い不信感を覚えた。
この後付けのような条件は、『伊勢の門』の『当代』が示したものでは無く『守人』が勝手に付けたものでは?
「そうか!わかって来ました!」
俺は、思わず大きな声を出してしまった。
「ど、どうしたんだ。二郎君!大丈夫か?!」
「おいおい。二郎くんは、もう出来上がったか?」
「だ、大丈夫です。『伊勢の門』の『守人』の在り方がわかって来ました!」
「ククク。今朝の話かい?」
「そうです。進一さん!今朝の進一さんの話です。進一さんが伊勢神宮に行った話の意味がわかりました」
「ククク」
「あぁ~。進一が伊勢に行った時の話を二郎君にしたのか?」
「うん。二郎くんに話したよ」
「なるほど。それで二郎君は気が付いたんだな?」
「ええ、気付きました。バッチリ気付きました」
「ククククククククク」
「ハッハッハハッハッハ!」
「ホッホッホ」
二人の笑いに合わせて、俺はサンダースさんを真似て笑ってしまった。
◆
それからの酒宴は、『伊勢の門』の『守人』を肴に盛り上がってしまった。
『伊勢の門』の『守人』は、『伊勢の守人』と呼ばれているそうだ。
『伊勢の門』=『神の門』であることから、一部の『伊勢の守人』は自ら『神の守人』などと名乗っていると言う。
「自分から『神の守人』と呼ぶなんて、随分と勘違いしてますね(笑」
俺は、半分呆れ半分冗談で口にした。
「そうそう、自分で『私は神の守人だ』なんて言ってくるんだよ。笑えるだろ。ククク」
「酷いのになると『神の守人として告げる』とか言って来たのもいたぞ」
進一さんと剛志さんの言葉に、俺は呆れるばかりだ。
「二郎君が由美子と伊勢に詣でると、そうした勘違いしてる奴らが、一人や二人は出てくると思うぞ(笑」
「ククク。僕の時には何人いたかな…いち、にい…さん…」
進一さん、そんなに居たんですか?
そんな話で盛り上がっていると、こちらを伺う視線に気が付いた。
剛志さんも進一さんも気が付いたようだ。
「さて、吉江が時計を気にし出した。そろそろ席を開けないと小言を言われそうだぞ」
剛志さんの言葉に視線の元のダイニングテーブルを見れば、彼女と吉江さんが会話をしながらも、時計とこちらを交互に見ている。
京子さんも里依紗さんと恭平君も、既に食事を終えたのか、ダイニングテーブルには見当たらない。
時計を見れば、7時を回っていた。
そろそろ酒宴を終わらせて食事を済ませ、世話をしてくれる女性陣を解放する時間だろう。
リビングソファー席を空けて、大型液晶テレビを女性陣に明け渡すべき時間だろう。
「吉江、そっちで食事して良いか?」
剛志さんが立ち上がり、吉江さんに声を掛ける。
「ええ、お茶漬けを準備してますよ」
「おお、進一、二郎君。それで十分だよな?」
「「はい。十分です」」
剛志さん、俺と進一さんに丸投げですか?
◆
ダイニングテーブルに席を移し、お茶漬けを3人でいただく。
吉江さんは京子さんを連れて風呂に行き、食事の世話は彼女がしてくれた。
「この後も、進一は二郎君と飲むんだろ?悪いがワシはここまでだ」
「父さん、終わりにするの?今日は早いね?」
「明日は仕事に来いと言われてるんだ。運転手が足りないらしい。二郎君すまんな」
そう言って剛志さんは席を外した。
考えてみれば今はGWだ。
隠岐の島に来た観光客の数も多いだろう。
剛志さんはタクシー会社のお偉いさんと言っていたが、稼ぎ時には自らハンドルを握るんだと納得する。
「二郎くんは、まだ飲むだろ?」
「えぇ、進一さんは大丈夫ですか?」
「これもあるから、大丈夫だよ」
そう言って、進一さんは胸元を左手で触れる。
ああ、そこに魔石を下げてるんですね。