15-21 計測調査
「正徳さん。この調査結果が英文な理由は、その計測器か何かが日本製じゃ無いと言うことですよね?」
「門守くんは、やっぱり気になるよね。進一さんと剛志さん、話して良いですか?」
俺から正徳さんへんの問いに、正徳さんは剛志さんと進一さんへ承諾を求める。
「自分の推測ですが、アスカラ・セグレ社が絡んでますか?」
「やはり二郎君は気が付くか!」
「ククク。正解だよ」
「まあ、そこら辺はあそこが一番だしな」
「門守くんは知ってたんですか?」
「いえ、知りませんでした。自分が学んだ限りでは、魔石の調査や実験は『米軍の門』関係だと思ったのです」
「やはり門守くんは淡路陵の次期当代だけありますね。桂子さんの教えが良い証拠だと思います」
「正徳さん、桂子を誉めていただきありがとうございます。ただ、今は次期当代は勘弁してください」
「ククク」
「それで⋯大丈夫なんですか?」
「「ククク。「何が?」??」」
俺は、自分が関わった『勇者の魔石』の計測というか調査で、アスカラ・セグレ社が関わることに懸念を抱いた。
俺が学んだ限りでは、魔石の調査や実験は『米軍の門』の軍関係者が関わっている。
実験の最高責任者がアルバイン・セグレさんで、後継者がジョージ・セグレさん。
そのお子さんがエリック・セグレさんで、アスカラ・セグレ社の経営者であり、隠岐の島へ来る前に『魔石』を欲しがった人だ。
そんなアスカラ・セグレ社製の計測器で『勇者の魔石』を計測して大丈夫なのだろうか?
「二郎くん、悪い癖が出てるぞ。『疑心暗鬼』になってるぞ。ククク」
「あっ⋯」
進一さんに言われ、少し反省した。
アスカラ・セグレ社製の計測器の詳細を俺は知らない。
またアスカラ・セグレ社の、エリック・セグレさんの『門』への関わり方を、俺は詳しくは知らない。
そう言えば、剛志さんと進一さんは、アスカラ・セグレ社からの『魔石』の要求を断るような話をしていたじゃないか。
それでも目の前の秦家の方々(剛志さん、進一さん、賢次さん、正徳さん)は、アスカラ・セグレ社製の計測器を『エルフの魔石』に実際に使ってるじゃないか。
そんな秦家の方々は、俺に包み隠さず『門』にどう関わっているかを教えてくれたじゃないか。
秦家の方々を信用しないでどうする。
進一さんの言うとおりに、俺は『疑心暗鬼』になっていたことを自覚した。
「進一さんの言うとおりですね。悪い癖が出ました」
「但し、二郎くんには悪いが『彼ら』には『勇者の魔石』の件は伝わってると理解して欲しい」
えっ?
進一さんの言葉に、俺は一瞬、凍り付きそうになった。
「そ、それでこそ大丈夫なんですか?『国の人』⋯隠岐の島では『彼ら』か、その方々に『勇者の魔石』の存在を知られて大丈夫なんですか?」
「ガハハハ。門守君は彼らのことを敵視してるのか?俺が目を光らせとくから心配するな」
「門守くん、賢次さんの言うとおりだよ。それに彼らの立ち位置は、実に微妙だと考えた方が良いよ」
「ククク」「ハッハッハ」
俺の心配を賢次さんは笑い飛ばし、正徳さんは俺に考えるように勧めてくる。
剛志さんと進一さんの笑い声は、かなり明るい。
「さて、門守くんから許可も貰えたので、私は戻って調査を継続します」
正徳さんが立ち上がり、集まりから抜ける宣言をしてきた。
「おっと、今の門守君の言葉で良い案が浮かんだぞ。悪いが戻らしてくれ」
正徳さんに続いて、賢次さんも集まりから抜ける話をして来る。
「じゃあ、今日は終わりにしよう。皆さんお疲れさまでした」
進一さんが、集まりの終了を継げる宣言をする。
そのとき突然、剛志さんから風呂に誘われた。
「二郎君。一緒に風呂に入らないか?」
「ええ⋯入りましょう」
俺は一瞬戸惑ったが、剛志さんからの風呂の誘いを受け入れた。
先ほどの『国の人』との付き合い方々を話せればと思い、剛志さんの誘いを受け入れた。
皆が席を立つのを待っていたかのように、恭平君とお友達、そして彼女がダイニングエリアに顔を出した。
「センパイ、お風呂ですか?後で着替えを持って行きますね」
「うん。剛志さんと入ってくる。みんなを連れてどうしたの?」
「みんなが、喉が乾いたみたいだから何か一緒に飲もうと思って」
「おねえちゃん ぼくは ジュースがいい」
「わたしも ジュース のみたい」
「ジュースのみたい」
「じゃあ、ママに聞いてこよう!」
彼女の掛け声で子供達はリビングソファーのテレビドラマな集団に向かって走って行く。
俺と剛志さんは風呂に向かい、進一さんと賢次さん、正徳さんは玄関に向かった。
◆
剛志さんと一緒に風呂に入り、先に体を洗い終えた俺は剛志さんに声をかける。
「剛志さん、背中を流しましょう」
「おお、すまんな」
俺は自分から進んで、剛志さんの背中を流すことを申し出た。
剛志さんは快く受け入れてくれた。
剛志さんの背中を流しながら、一郎父さんが生きていたら、こうして背中を洗っていたのだろうかと考えてしまう。
「やはり気持ちが良いな」
「進一さんは、剛志さんの背中を流さないんですか?」
「ハッハッハ。当代に背中を流させるわけには行かんだろう?」
「それでも親子なんですから」
「そう言って進一もやろうとするが、ワシは進一が当代である限りやらせんぞ」
「当代ってそんなに偉いんですか?」
「偉い偉くないじゃないんだよ。当代がそんなことを普段からやっていたら、他の者に示しがつかんだろう」
「そういうものなんですか?」
「二郎君。例えばだが、進一がうっかり誰かに口を滑らしたらどうする?日々、親の背中を洗っていますなんて口にしたらどうする?」
「親子なんだから良いと自分は思いますが?」
「いや、そう見ない者もいるということだよ。当代の進一より、ワシに威厳を感じさせてはならんのだよ」
「そう言うものでしょうか?」
「世の中には、威厳を感じれば下手に出る者は多い。だが威厳を感じないと見下す者も同じ様に多いのだよ」
「はあ、そうかもしれませんね」
「そうした見下す考えで接してくる者に、進一の貴重な時間を使わせるのは避けたいのだよ」
「⋯なるほど。理解できます」
俺は剛志さんの考えに、最初は戸惑ったが理解できた。
剛志さんの言うとおりに、他者を見下して接してくる輩の姿勢を直すのは、実に無駄な時間だ。
対等の関係を考えられず、常に他者を見下す傲った考えの輩はどこにでもいる。
そんな輩の姿勢を直しても、自分には何の利点もない。
そんな輩の姿勢に応じるのは、時にストレスになるし不要な労力を強いられる時がある。
むしろそうした輩とは接点を絶ちたいほどだ。
剛志さんは、進一さんの当代としての役割、当代としての貴重な時間を思い、そこまで配慮して進一さんには背中を流させないのだ。
例え親子であろうとも、そこまで配慮が必要なのかと感心していると、剛志さんにきつく言われてしまった。
「だから、二郎君に背中を流して貰うのは、今日が最初で最後だ。二郎君も淡路陵の次期当代としての自覚が必要だぞ」