15-20 子孫繁栄
バーチャんとの通話を切った俺は、リビングエリアのソファーの後ろでウロウロする四人に声を掛けた。
「通話は切りました。会議を続けましょう」
ソファーに座る女性陣は、ウロウロする四人に反応もせず、俺の声にも反応しなかった。
それぞれのパートナーが無反応なので、行き場のない四人を無事にダイニングテーブルに連れ戻せた。
「剛志さんと進一さんが、バーチャんから逃げた理由は察しがつきます。淡路島でバーチャんに弟子入りした際に何かあったんですよね?」
「はい。「そのとおりです」」
「それでも自分は、賢次さんと正徳さんのお二人の態度が理解できません。自分の認識では、お二人は『隠岐の島の門』の守人であって、当代になろうとしてバーチャんに弟子入りとかしてないですよね?」
「「……」」
俺の問いに賢次さんと正徳さんは沈黙する。
それでも逃げた四人は素直に俺の話を聞いてくれる。
「言えませんか?言えないならバーチャんに聞くだけです」
「二郎君、賢次と正徳は、元々が国から来たんだ。言わば今の『彼ら』の元上司だよ」
「えっ?!」
「桂子さんと零士さんには淡路陵でお世話になりました」
「私も零士さんと桂子さんにはイロイロと…」
驚いた。
どこまでバーチャんは関わり続けるんだ。
「賢次さんも正徳さんも、バーチャんと面識があるんですか?」
「ええ、あります。幼い頃の二郎さんとも遊んだ記憶があります」
「零士さんの葬儀には参加させていただきました」
正徳さんも賢次さんも、マジですか?!
ごめんなさい、俺には記憶がないです。
「そ、そうなんですか…すいません、何か生意気な態度で接してしまって」
「いえ、二人とも桂子さんには頭が上がりません。返しきれない借りがあるんですが…その正直に言えば苦手で…」
「苦手と言うか不得手でして…」
「そうなんですか…桂子が迷惑をかけてすいません」
「いえいえ「むしろ「お気になさらず」」
正徳さんと賢次さん。
不思議なハモリ方です。
「ウホン。二郎君。そろそろ『勇者の魔石』に話を戻して良いかな?」
「ええ、『勇者の魔石』がどんな代物か理解できました。すいませんが、自分は『勇者の魔石』の所有権を主張します」
剛志さんから言われ、出生の秘密を知った俺は、『勇者の魔石』の所有権を主張した。
『魔素』が何かは深く理解していないが、自分の体から出た何かが宿った代物だ。
それを使って他所の誰かが子孫繁栄をするなんて、背中が痒くなってくる。
「二郎君。少し聞いても良いかな?」
「何でしょう?」
「その…使うつもりなのか?」
「使う?何をですか?」
「決まってるだろ!『勇者の魔石』だよ。由美子と一緒になったら使うんだろ?」
剛志さん。ニヤニヤしないでください。
賢次さんも正徳さんも。ニヤニヤしないでください。
「(ククク。)」
進一さん、笑い声がこぼれてます。
◆
「じゃあ、『勇者の魔石』は門守二郎くんの所有で良いですね」
「ワシは異論はないぞ。むしろ二郎君と由美子に使って欲しいぐらいだ(ニヤニヤ」
「楽しみだな(ククク」
「う~ん。かなり高値で売れるんだが(ニヤニヤ」
進一さんと剛志さんの意見は放置して、賢次さんの言葉に耳を向ける。
「賢次さん。そんなに価値があるものなんですか?」
「そりゃそうさ。他の門の連中が黙ってないよ。確実に跡継ぎが生まれてくるんだよ。理解できるだろ?」
他の門が黙ってない?
理解できない言葉なんだが?
「『勇者の魔石』は御懐妊を促すだけじゃないんですか?」
「それなら『エルフの魔石』でも可能だよ。『勇者の魔石』は確実に男の子が生まれるんだよ」
「えっ?!」
「なんだ、門守君はそこまで考えなかったのか?」
「ククク。二郎くんはわかってるようでわかってないね(ニヤニヤ」
「由美子の息子か(ニヤニヤ」
「う~ん(ニヤニヤ」
俺は皆のニヤニヤ顔に心が折れそうです。
「門守君以外はわかってると思いますが、『エルフの魔石』は懐妊を促すが女子の出生率が高い」
賢次さんの言葉には驚くしかなかった。
『魔石』は門を開く以外に、そんな用途があるのかと驚くしかなかった。
それでもどこか納得できる部分がある。
市之助さんと京子さんの間には、娘さんが3人(吉江さん、保江さん、美江さん)いるのだ。
市之助さんは、別世界でのハーフエルフだ。
それが門を通じて現代に来て、京子さんと結ばれ『エルフの魔石』で子孫繁栄を果たしたのだろう。
「対して『勇者の魔石』では、進一さんと門守君のように男子の出生率が高い」
賢次さんが説明するが、わずかに2名だろと思うが口には出さない。
「その全てが『門』に関わる当代…門守君は次期当代だと言うことだ」
俺は何と言えば良いのか思案する。
だが、知りたいこともある。
「その、聞いて良いですか?」
「何だい、門守君?」
「その…他の門では、そんなに跡継ぎの子供が生まれないのですか?」
「『人種適合』だよ。本当に別世界から来た血筋の場合、こちらの世界では子孫に恵まれないんだよ」
正徳さんが『勇者の魔石』の分析結果を交えて説明してくれた。
「正徳さんの言うとおりだ、本当の門では、どこも跡継ぎで悩んでるんだ。だからこそ『エルフの魔石』を、まずは欲しがるんだ」
賢次さんが正徳さんをフォローする。
「その…本当の門と言いましたが、偽の門だと…。なんか上手く言えないんですが…」
「二郎くん、偽の門は脇に置いておこう。本当の門=『本物の門』が魔石を欲しがる理由はわかってくれるかな?」
「ええ、それは理解できました」
「そこで最後に二郎くんに聞きたい」
進一さんが真顔で聞いてきた。
「Saikasに記録するかい?」
「いえ、しません」
俺は即答で否定した。
Saikasに『勇者の魔石』を記録したら、他の門からどんな話が舞い込んでくるかわからない。
「そうだな…二郎君はしたくないよな…」
「大きな取引になりそうだが諦めるか…」
剛志さんも賢次さんも諦めてくれた。
「門守さん、引き続き計測調査はさせて貰えますか?」
正徳さんが『勇者の魔石』の継続して調べたいと申し出た。
だが、俺には気になることがあった。