15-19 御懐妊
「進一、わかった。全て話そう。賢次も正徳もありがとう。いや、すまなかった」
そう言って、剛志さんが深々と頭を下げた。
「剛志さん、頭をあげてください」
「市之助さんの遺言なんですから」
頭を下げる剛志さんへ、賢次さんと正徳さんが声を掛ける。
そこには『市之助さんの遺言』の言葉が含まれていた。
「進一、お前は魔石の力で授かったんだ」
「やっぱり?」
進一さん、随分とあっさり受け入れるんですね。
「ワシが血の繋がりから当代を継げないと言われ、せめてワシの子供に、進一、お前に継がせたかったんだ。親の我儘だ。許してくれ」
「父さん、気にしてないから。むしろそれほどまでに僕を望んでくれたことが嬉しいよ。それに今は、当代として賢次さんと正徳さんが支えてくれるだろ?この生活も悪くないよ」
「「進一さん、ありがたい言葉です」」
賢次さんも正徳さんも、嬉しいんですね。
「さて、二郎くんはどう思う?」
「お、俺ですか?」
進一さん、急に俺に振らないでください。
「いや、俺は…」
そこまで言葉を出して気がついた。
進一さんが、市之助さんや剛志さんに望まれて生まれてきたように、俺も一郎父さんと礼子母さんから望まれたのだろうか?
確か以前にSaikasで調べた時に、俺は授かり婚だったような…
「進一さん、俺は…わからないです」
「じゃあ、そこは自分で学ぶかい?」
「そうですね。自分の出生が自分で学べるんですから(笑」
「桂子さんに聞きたいかい?ククク」
「「進一さん!」」
「おいおい、進一!」
「ククク。冗談だよ冗談(笑」
「いや、それもありです。電話してみますね」
「「……」」
「待て待て、二郎君。ここで桂子さんが絡むと…」
目の前では、賢次さんと正徳さんが呆気にとられ、剛志さんは止めようとしている。
それでも俺は思い切って、スマホでバーチャんに電話した。
プップップッ
トゥルートゥルー
呼び出し音がしたのでハンズフリーに切り替え、ダイニングテーブルの中央にスマホを置いた。
「…」
「バーチャん?」
「だれじゃ」
「二郎です」
「どこの二郎じゃ」
「あなたの孫の二郎です」
このやり取りは何回目だろう?
「おお、二郎か?どうした?」
「教えて欲しい事があるんだけど」
「なんじゃ?」
「『勇者の魔石』って知ってる?Padで調べたけど出てこないんだ…」
「ほぉ~二郎はそこまで行ったか。今はどこじゃ?」
「彼女の実家だけど?」
俺がそこまで言った途端に、剛志さんも進一さんも賢次さんも、そして正徳さんも椅子から立ち上がろうとした。
「さっき、吉江さんから伊勢の話を聞いたで、その件じゃないんか?」
「えっ、吉江さんから電話があったの?」
「ああ、あったぞ。二郎と由美子さんを伊勢に行かせると言うとったでその件じゃないんか?」
「いや、『勇者の魔石』を知りたくて電話したんだけど…」
「今は秦の家と言うとったが、剛志か進一はおらんのか?」
「進一さんも剛志さんも、それに賢次さんも正徳さんも居るけど?」
ガタガタ、ガタガタ
俺が名を出した全員が椅子から立ち上がり、ワタワタと全員がリビングエリアに向かった。
あっ!逃げた!
「賢次と正徳?なんじゃ、全員おるんか?」
「うん。今はちょっと席を外したけど」
「ほぉ~ 全員、居るんじゃな?」
「うん。ちょっと色々あって『勇者の魔石』の話しになって、皆で集まってたんだけど…」
「二郎はやったんか?」
「俺がやった?」
「二郎は『勇者の魔石』で由美子さんとやったんか?」
バーチャん。変な誤解をしてませんか?
「いや、そうじゃなくて…」
「じゃあ、これから『勇者の魔石』でやるんじゃな!」
「バーチャん!」
「なんじゃ?」
「わざわざ、報告しないから!」
「チッ」
バーチャん。舌打ちが聞こえます。
「バーチャん良く聞いてね。『勇者の魔石』が出来たんだよ」
「ほぉ~」
「進一さんから『エルフの魔石』を借りて、俺が魔法を使おうとしたら『勇者の魔石』が出来たんだ」
「ほぉ~ 二郎が作ったんじゃな?」
「そう、たまたま偶然に出来たんだ」
「やっぱり、一郎と礼子の息子じゃな。お爺さんも天国で喜んどるじゃろ」
「この『勇者の魔石』って何なの?」
「その魔石は、本当に『勇者の魔石』か?」
えっ?
正徳さんは『勇者の魔石』と言ってたけど?
「それで『勇者の魔石』の何が知りたいんじゃ?」
「あ、うん…」
「どうしたんじゃ二郎?」
バーチャんが気になることを言った気がする。
だが、今は俺の出生の事実が知りたい。
「一郎父さんと礼子母さんは、その…使ったの?」
「フォフォフォ。由美子さんと使うんか?」
バーチャん。
俺の目の前にニヤニヤ顔で浮かんできたんですけど…
「いや、何となくわかった。バーチャんありがとう」
「そうかそうか。(ニヤニヤ」
「じゃあ、切るね」
「そうかそうか。(ニヤニヤ」
プツッ
これ以上、バーチャんのニヤニヤした顔と声に付き合えないと思い、俺はスマホの通話を切った。
ふぅ~
俺は一人残されたダイニングテーブルで、思わずため息をついてしまった。