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門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月3日(月)☀️/☀️
190/279

15-18 勇者の魔石


「あの魔石を調べた私から、門守くんに説明します」

 そう言って、正徳さんから『勇者の魔石』の説明が始まった。


「まず『勇者の魔石』の前に隠岐の当代である進一さんが作った魔石を『エルフの魔石』と呼ぶことを理解して欲しい」

「はい。市之助さんがハーフエルフであることから『エルフの魔石』なんですね。そうなると…」


 俺はそこまで自分で口にして察した。


「『勇者の魔石』とは、父と母、そして自分が魔素を充填した魔石なんですね?」

「そうだ。正解だ」


 俺は、次の質問を正徳さんへしてみた。


「『エルフの魔石』と『勇者の魔石』では何が違うんですか?」

「これが比較表だ。但し『勇者の魔石』は過去のものだ」


 渡された紙は、やはり英文だった。

 俺はそれを受け取りつつ、正徳さんの顔を見る。


「注目して欲しいのは、人種適合なんだ。human = 人間への適合の数値が『エルフの魔石』と比較して『勇者の魔石』が桁違いだろ」

「??」


「つまり魔石で治療行為をする時、治療魔法を発動する時に、発動した魔法が人間に効きやすいんだよ」

「???」


「例えば進一さんが作った『エルフの魔石』を100個使わなくても、『勇者の魔石』が1個あれば、簡単な治療魔法で治せるんだよ。わかるかな?」

「????」


 この付近で、正徳さんが何を言いたいのかが、全く理解できなくなってきた。


「わからないか…う~ん。門守くんへ何と説明すればわかってもらえるんだろう…」

「じゃあ、次は俺だな」


 正徳さんが説明に淀んだ隙に、賢次さんが割り込んできた。


「門守君、格段に『価値』が違うんだよ」

「価値が違う?」

「賢次さん、二郎くんに価格の話しはしないでね(笑」


 進一さんが冗談交じりに、賢次さんを少し牽制する。


「おっと、そうだな。価格の話しは無しで行こう」

「それって、あの魔石を売る話ですか?」


 俺は賢次さんが魔石の販売を管理していることを思い出し、冗談交じりに返してみた。


「おお、門守君!売る気があるんだな?俺に任せろ!」

「二郎君、本気で言ってるのか?」


 今度は剛志さんが俺を制してきた。


「二郎くん。魔石を売るとしても、父さんの話を聞いてからにした方が良いと思うよ」

「そうだな。『勇者の魔石』の事実を知っているワシから話そう」


 進一さんが提案し、剛志さんが話したそうに語りだした。


「まず二郎君に知って欲しいのは、俺の知っている『勇者の魔石』は、一郎さんと礼子さんが充填して作ったということだ」


 俺の予想通りだった。

 一郎父さんと礼子母さんが『勇者の魔石』を生前に作ったのだ。


「やはり勇者の血筋と言われる、礼子母さんが絡んでるんですね。でも一郎父さんは勇者見習いと聞いてますが…」

「そこは桂子さんから聞いた話だな?ワシは市之助さんからは、一郎さんこそが勇者だと聞いてるぞ?」

「「剛志さん、脱線しかかってますよ」」

「ククク」


 剛志さんの話に賢次さんと正徳さんがチャチャを入れ、進一さんが軽く笑う。


「ウホン。話を戻すぞ。『勇者の魔石』はワシらが淡路陵に行った際に、市之助さんの指導で一郎さんと礼子さんが作ったんだよ」


 それから剛志さんは『勇者の魔石』について語ってくれた。



『勇者の魔石』


 勇者の血筋を継ぐ者が『魔素』を充填した魔石を『勇者の魔石』と呼ぶそうだ。

 市之助さん一行が淡路陵へ出向いた際に、市之助さんの提案で一郎父さんと礼子母さんが『魔素』の充填を行って作った。

 その時に作った『勇者の魔石』は複数個あると言う。

 市之助さんは何個かの『勇者の魔石』を隠岐の島に持ち帰り、『隠岐の島の門』を開くのに使ってみたところ問題なく開いたと言う。

 それを契機に、市之助さんは『隠岐の島の門』の再構築を実行し成功したそうだ。

 また、市之助さんは各種の魔法実験を『エルフの魔石』と『勇者の魔石』で比較して試みるなどして詳細に調べ、『勇者の魔石』で現代人への治療にも成功したと言う。

 これらの事が、彼ら=『国の人』の知るところとなり、多大な額が支払われ『勇者の魔石』が買い取られたと言う。

 また『他の門』でも欲しがり、市之助さんは購入先と購入目的を吟味し、直接の販売も行ったと言う。



「二郎君、ワシからの説明で『勇者の魔石』の価値が分かってくれるかな?」


 剛志さんに問われたが、俺は理解の及ばない部分、懸念、疑問などが大量に湧きだし、自分の思考の枠から溢れて行くのを感じた。


「すいません。無理です」

「「「「…………」」」」


 俺の返事に皆が黙ってしまった。

 俺は皆の沈黙に慌てて、説明をしてくれた剛志さんへ言葉を続けた。


「剛志さん、お願いですから勘違いしないでください。剛志さんの説明が悪い訳じゃないです。自分の知識不足が原因です」

「「「う~ん…」」」

「…」


 剛志さん、賢次さん、正徳さんが揃って悩み声をあげる。

 進一さんは腕を組んで、目をつむり押し黙った。


「そうですね…今説明してくれた正徳さんは『勇者の魔石』をどうしたいんですか?」

「二郎君、ちょっと待ってくれ。君は『勇者の魔石』を理解していないのに、正徳に希望を聞くのか?」

「希望なら俺も言いたい。『勇者の魔石』を売るなら俺に任せてくれ。門守君には相応の対価を約束をする」

「ククク」


 ここまで説明をしてくれた正徳さん。

 その正徳さんへの俺からの質問を、剛志さんが制したかと思えば、今度は賢次さんが希望を言い出してきた。

 そんな皆の意見を聞きながら、押し黙っていた進一さんがいつもの笑い声を出す。

 これでは、皆の考えを整理して纏めるのは無理な気がしてきた。


「すいません。まず大事なことを決めさせてください」

「いや、その前に、父さんが二郎くんに全てを話して欲しい。『勇者の魔石』の本当の価値を、二郎くんは理解していないと思うんだ」


 俺の皆への提案を進一さんが止めてきた。

 しかも『勇者の魔石』の本当の価値を、剛志さんが説明していないと言うのだ。


「進一、お前はどこまで知ってるんだ?」

「前から知ってたよ。市之助さんからも聞いていたから、父さんには安心して欲しい。むしろそこが正徳さんも話してくれた『人種適合』の要だと思っている」

「「……」」


 剛志さんの問いに、進一さんは正徳さんが口にした『人種適合』を引き合いに出した。

 しかも、実の父親に語らせるような素振りだ。

 賢次さんと正徳さんが、今度は黙ってしまった。


「父さん、僕が何故なぜ、当代を『継ぐ』覚悟をしたと思うんだい?由美子を助けるだけじゃない。父さんや母さん、それに市之助さんや京子お婆ちゃんの思いを知ったからだよ。僕は『当代を継ぐ為に』皆から願われて生まれてきたんだ」

「「「………」」」


 進一さんの語りに、剛志さんも賢次さんも正徳さんも押し黙った。


「さて、二郎くん。これから話すことは君の出生にも関わることだ。だから父さんは話さなかったのかも知れないし、賢次さんは売り払う提案をしたのかも知れない。正徳さんは、どこか二郎くんと『勇者の魔石』を遠ざけようとしている感じもする」

「「「………」」」


 進一さんの熱のこもった説明に、皆が黙り込んだ。

 一方の俺は、意味不明な状況に黙り込んだ。


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