15-18 勇者の魔石
「あの魔石を調べた私から、門守くんに説明します」
そう言って、正徳さんから『勇者の魔石』の説明が始まった。
「まず『勇者の魔石』の前に隠岐の当代である進一さんが作った魔石を『エルフの魔石』と呼ぶことを理解して欲しい」
「はい。市之助さんがハーフエルフであることから『エルフの魔石』なんですね。そうなると…」
俺はそこまで自分で口にして察した。
「『勇者の魔石』とは、父と母、そして自分が魔素を充填した魔石なんですね?」
「そうだ。正解だ」
俺は、次の質問を正徳さんへしてみた。
「『エルフの魔石』と『勇者の魔石』では何が違うんですか?」
「これが比較表だ。但し『勇者の魔石』は過去のものだ」
渡された紙は、やはり英文だった。
俺はそれを受け取りつつ、正徳さんの顔を見る。
「注目して欲しいのは、人種適合なんだ。human = 人間への適合の数値が『エルフの魔石』と比較して『勇者の魔石』が桁違いだろ」
「??」
「つまり魔石で治療行為をする時、治療魔法を発動する時に、発動した魔法が人間に効きやすいんだよ」
「???」
「例えば進一さんが作った『エルフの魔石』を100個使わなくても、『勇者の魔石』が1個あれば、簡単な治療魔法で治せるんだよ。わかるかな?」
「????」
この付近で、正徳さんが何を言いたいのかが、全く理解できなくなってきた。
「わからないか…う~ん。門守くんへ何と説明すればわかってもらえるんだろう…」
「じゃあ、次は俺だな」
正徳さんが説明に淀んだ隙に、賢次さんが割り込んできた。
「門守君、格段に『価値』が違うんだよ」
「価値が違う?」
「賢次さん、二郎くんに価格の話しはしないでね(笑」
進一さんが冗談交じりに、賢次さんを少し牽制する。
「おっと、そうだな。価格の話しは無しで行こう」
「それって、あの魔石を売る話ですか?」
俺は賢次さんが魔石の販売を管理していることを思い出し、冗談交じりに返してみた。
「おお、門守君!売る気があるんだな?俺に任せろ!」
「二郎君、本気で言ってるのか?」
今度は剛志さんが俺を制してきた。
「二郎くん。魔石を売るとしても、父さんの話を聞いてからにした方が良いと思うよ」
「そうだな。『勇者の魔石』の事実を知っているワシから話そう」
進一さんが提案し、剛志さんが話したそうに語りだした。
「まず二郎君に知って欲しいのは、俺の知っている『勇者の魔石』は、一郎さんと礼子さんが充填して作ったということだ」
俺の予想通りだった。
一郎父さんと礼子母さんが『勇者の魔石』を生前に作ったのだ。
「やはり勇者の血筋と言われる、礼子母さんが絡んでるんですね。でも一郎父さんは勇者見習いと聞いてますが…」
「そこは桂子さんから聞いた話だな?ワシは市之助さんからは、一郎さんこそが勇者だと聞いてるぞ?」
「「剛志さん、脱線しかかってますよ」」
「ククク」
剛志さんの話に賢次さんと正徳さんがチャチャを入れ、進一さんが軽く笑う。
「ウホン。話を戻すぞ。『勇者の魔石』はワシらが淡路陵に行った際に、市之助さんの指導で一郎さんと礼子さんが作ったんだよ」
それから剛志さんは『勇者の魔石』について語ってくれた。
◆
『勇者の魔石』
勇者の血筋を継ぐ者が『魔素』を充填した魔石を『勇者の魔石』と呼ぶそうだ。
市之助さん一行が淡路陵へ出向いた際に、市之助さんの提案で一郎父さんと礼子母さんが『魔素』の充填を行って作った。
その時に作った『勇者の魔石』は複数個あると言う。
市之助さんは何個かの『勇者の魔石』を隠岐の島に持ち帰り、『隠岐の島の門』を開くのに使ってみたところ問題なく開いたと言う。
それを契機に、市之助さんは『隠岐の島の門』の再構築を実行し成功したそうだ。
また、市之助さんは各種の魔法実験を『エルフの魔石』と『勇者の魔石』で比較して試みるなどして詳細に調べ、『勇者の魔石』で現代人への治療にも成功したと言う。
これらの事が、彼ら=『国の人』の知るところとなり、多大な額が支払われ『勇者の魔石』が買い取られたと言う。
また『他の門』でも欲しがり、市之助さんは購入先と購入目的を吟味し、直接の販売も行ったと言う。
◆
「二郎君、ワシからの説明で『勇者の魔石』の価値が分かってくれるかな?」
剛志さんに問われたが、俺は理解の及ばない部分、懸念、疑問などが大量に湧きだし、自分の思考の枠から溢れて行くのを感じた。
「すいません。無理です」
「「「「…………」」」」
俺の返事に皆が黙ってしまった。
俺は皆の沈黙に慌てて、説明をしてくれた剛志さんへ言葉を続けた。
「剛志さん、お願いですから勘違いしないでください。剛志さんの説明が悪い訳じゃないです。自分の知識不足が原因です」
「「「う~ん…」」」
「…」
剛志さん、賢次さん、正徳さんが揃って悩み声をあげる。
進一さんは腕を組んで、目をつむり押し黙った。
「そうですね…今説明してくれた正徳さんは『勇者の魔石』をどうしたいんですか?」
「二郎君、ちょっと待ってくれ。君は『勇者の魔石』を理解していないのに、正徳に希望を聞くのか?」
「希望なら俺も言いたい。『勇者の魔石』を売るなら俺に任せてくれ。門守君には相応の対価を約束をする」
「ククク」
ここまで説明をしてくれた正徳さん。
その正徳さんへの俺からの質問を、剛志さんが制したかと思えば、今度は賢次さんが希望を言い出してきた。
そんな皆の意見を聞きながら、押し黙っていた進一さんがいつもの笑い声を出す。
これでは、皆の考えを整理して纏めるのは無理な気がしてきた。
「すいません。まず大事なことを決めさせてください」
「いや、その前に、父さんが二郎くんに全てを話して欲しい。『勇者の魔石』の本当の価値を、二郎くんは理解していないと思うんだ」
俺の皆への提案を進一さんが止めてきた。
しかも『勇者の魔石』の本当の価値を、剛志さんが説明していないと言うのだ。
「進一、お前はどこまで知ってるんだ?」
「前から知ってたよ。市之助さんからも聞いていたから、父さんには安心して欲しい。むしろそこが正徳さんも話してくれた『人種適合』の要だと思っている」
「「……」」
剛志さんの問いに、進一さんは正徳さんが口にした『人種適合』を引き合いに出した。
しかも、実の父親に語らせるような素振りだ。
賢次さんと正徳さんが、今度は黙ってしまった。
「父さん、僕が何故、当代を『継ぐ』覚悟をしたと思うんだい?由美子を助けるだけじゃない。父さんや母さん、それに市之助さんや京子お婆ちゃんの思いを知ったからだよ。僕は『当代を継ぐ為に』皆から願われて生まれてきたんだ」
「「「………」」」
進一さんの語りに、剛志さんも賢次さんも正徳さんも押し黙った。
「さて、二郎くん。これから話すことは君の出生にも関わることだ。だから父さんは話さなかったのかも知れないし、賢次さんは売り払う提案をしたのかも知れない。正徳さんは、どこか二郎くんと『勇者の魔石』を遠ざけようとしている感じもする」
「「「………」」」
進一さんの熱のこもった説明に、皆が黙り込んだ。
一方の俺は、意味不明な状況に黙り込んだ。