15-17 テレビドラマ鑑賞会
剛志さんと共に玄関ホールからリビングダイニングに入ると、ダイニングテーブルには進一さんが一人で座って、Padを操作していた。
その進一さんが、俺と剛志さんに気付いて声を掛けてきた。
「父さん、それに二郎くん。急で悪いね」
「正徳と賢次から聞いたよ。二人とも直ぐに来るらしい」
「剛志さんと進一さん、緊急会議って何ですか?」
剛志さんから聞いた『緊急会議』が何かわからず、俺は二人に思いきって聞いてみた。
「聞いてないの?」
「話してないのか?」
剛志さんと進一さんは顔を見合わせ、互いの言い分を口にする。
「自分は何も聞いてません。何の緊急会議ですか?」
「魔石だよ。二郎くんが充填した魔石だよ」
進一さんの『魔石』の答えに『魔力切れ』で味わった疲労感と空腹感を思い出す。
「あの魔石を正徳さんが調べて…」
「進一、賢次と正徳が来てからにしよう」
進一さんの言葉を剛志さんが制した。
制された進一さんが間を置いて答える。
「…そうだね。二郎くん、スマホとPadを忘れずに持ってきて、是非とも参加して欲しい」
「あの魔石、何かあったんですか?」
「二郎君。さっきも言ったが二人が来てからだ。Padとスマホを取りに行こう」
今度は俺が剛志さんに制されてしまった。
俺を制した剛志さんに促され、Padとスマホを取りに行こうとして、リビングエリアのソファーに目が行った。
ソファーには、そっくりさんが4人と里依紗さんのママ友が2人。
里依紗さん自身は、お盆に乗せたお茶をみんなに配っていた。
大型液晶テレビには、録画リストが写っている。
多分、女性陣で集まってテレビドラマ鑑賞会だろう。
昨夜寝泊まりした部屋に行こうと2階に上がると、子供達の声が聞こえてくる。
声の元をたどろうかとも思ったが、彼女が一緒にいる筈だから大丈夫だろうと考え、放置することにした。
部屋に入り、今朝より整理整頓されていることに気が付いた。
今朝は軽く畳んだスウェットが、ベッドの上に綺麗に畳まれている。
きっと、彼女が世話してくれたんだろう。ありがたいことだ。
そんなことを考えながら、Padを充電器から外しポケットのスマホを確認する。
((ピンポーン))
階下から、玄関の呼び鈴が押された音がする。
賢次さんと正徳さん、剛志さんの話声がするので、二人の到着を知ることが出来た。
昇って来た階段の手前で立ち止まり、深呼吸をする。
すぅ~。はぁ~。
この階段を降りれば、『門』に関わる先輩が4人(剛志さん、進一さん、賢次さん、正徳さん)も居る『緊急会議』とやらに参加するのだ。
しかも先ほど俺が『魔力切れ』を起こした『魔石』が話の中心だと言う。
深呼吸で心を落ち着かせ、淡路陵で心に抱いた言葉を思い出す。
〉俺は何なのか。
〉俺が自分で学んで考える。
〉俺が自分で考えて学ぶ。
もう、皆の話に驚くこと無く、学びを深めよう。
そう決心して、俺は階段を降りて行った。
◆
「まずは、例の魔石を調べた結果です。現段階でSaikasに載せるのは躊躇われたので紙で準備しました」
そう言って、正徳さんが自身の分は手元に置いて、A4版の紙をダイニングテーブルに座る4人(俺、剛志さん、進一さん、賢次さん)全員に配った。
配られた紙を見て、俺は絶句した。
英語で書かれているのだ。
「すいません。これって日本語版はありますか」
俺は、配られた紙で話が進むと、直ぐに着いて行けないと判断して、咄嗟に声を上げた。
「二郎君、申し訳ない。正徳、翻訳したのがあるか?」
「いえ、準備してません。門守くん、不明な部分は私から説明するから、これで我慢して欲しい」
「ククク。二郎くん、僕からも説明するから」
「ガハハハ。正徳さん、かなり慌てたんだな」
皆が英文が当たり前で、俺一人が着いて行けない気がして、少し居心地が悪くなったが、正徳さんと進一さんに頼ることにした。
「細かい数字を説明するより、結論を伝えます。あの魔石は『勇者の魔石』です」
「ククク」
「やったな、門守君」
「さすがは由美子が選んだ男だ!」
「???」
『勇者の魔石』
何のことだか、俺はさっぱりわからない。
『勇者』と言えば、ゲームソフトのドラゴンクエストに出てくるのは知っている。
そう言えばバーチャんはドラクエよりFFとか言ってたな。
それに礼子母さんが勇者の娘とか、一郎父さんが勇者見習いとかの記憶がある。
「『勇者の魔石』?何ですかそれは?」
「「「………」」」
俺の言葉に全員(剛志さん、賢次さん、正徳さん)の動きが止まった。
「ククク。二郎くんは知らないんだね?」
「知りません。Padで調べて良いですか?」
唯一、動きを止めなかった進一さんへ問う。
俺は『勇者の魔石』なんて言葉は、始めて聞いた言葉だ。
「門守君は、本当に知らないのか?!」
「門守くん、ちょっと待って!」
「二郎君、ちょっと待って欲しい」
賢次さんからは再度驚かれ、正徳さんと剛志さんからは、Padでの検索を止められた。
「…良いよ」
しばらく間を置いて、進一さんは調べても良いと返事をした。
「調べます」
進一さんの返事に動かされ、俺はPadを起動する。
Padを操作するのは何日ぶりだろう?
起動するとユーザーIDとパスワードの入力を求められる。
確か大阪へ行く前に、アスカラ・セグレ社へ彼女と同行訪問する理由を知った時だ。
バーチャんから『隠岐の島の門』を教えられ、それを検索したのが最後の筈だ。
ユーザーIDとパスワードを入力するといつものPad画面が表示される。
Saikasを起動し、『勇者の魔石』で検索を実行してみる。
画面中央に『グルグル』が表示される。
「すいません。今、検索中です」
「いいのか?進一…」
「進一さん、大丈夫ですか?」
「「……」」
剛志さんが進一さんに確認し、正徳さんは心配そうに問いかける。
進一さんと賢次さんは黙ったままだ。
『グルグル(進捗インジケータ)』が消えて、画面には検索結果0件が表示された。
「あれ?出てきませんが?」
「ああ、そうか…」
「「……」」
「ククク」
検索結果が0件なのを皆に伝えると、剛志さんは「そうか」と納得し、賢次さんと正徳さんは黙って顔を見合わせる。
進一さんは、ニヤニヤ顔を俺に見せきた。