15-15 片付け
秦家の高級住宅その庭でのBBQ。
俺は試したことの無い『魔法』を実行しようとして、『魔力切れ』と呼ばれる状態に陥った。
『魔力切れ』は、極度の疲労感、強烈な空腹感を俺にもたらした。
その『魔力切れ』の対価とは呼び難いが、『魔石』に俺の『魔素』を充填し金色の光を宿らすことが出来た。
極度の疲労と空腹をもたらす『魔力切れ』からは、エルフの血を継ぐ彼女が救ってくれた。
剛志さんの話によると、エルフの娘はそうした治療的なことが出来ると言う。
俺が陥った『魔力切れ』の話から、『魔石』への『魔素』の充填に関わる話を剛志さんと進一さんから聞いたが、最後の最後で疑問が湧いた。
『魔力切れ』の言葉に含まれる『魔力』の語句が、『魔石』にも『魔素』にも『魔法』にも繋がらなかった。
その話を進一さんと剛志さんに切り出すと、二人は腕を組み押し黙って考え込んでしまった。
そんな剛志さんと進一さんを眺める俺に、吉江さんが声を掛けてきたのだ。
「二郎さん、二人は飲みすぎて寝てるの?」
「いえ、ちょっと考えてるみたいで…」
「珍しいわね。二人がお酒を前にして黙って考えるなんて。腕組みまでしてるし?」
俺は吉江さんと話すのに、座ったままでは失礼と思い慌てて立ち上がる。
剛志さんと進一さんを見れば、腕を組み目をつぶり、思考を深めている感じがする。
「そうだ、二郎さん。体はもう大丈夫なの?」
「ええ、由美子さんの看病で助かりました」
「由美子が『男同士の話』って言ったけど『まだ』続けるの?」
「…」
俺は、彼女の母親である吉江さんへの返答に詰まった。
『男同士の話』と言って彼女を遠ざけたが、実際は『門』に関わる話をしていたのだ。
ここで吉江さんに、『門』に関わる話をしても問題はないのだろうか?
少しだけ探るように聞いてみるか…
「あの、自分がやらかした…」
「ああ、『魔力切れ』ね。二郎さんも気をつけてね。あれで市之助父さんも死んだぐらいだから」
「えっ?!」
「一人で『充填』はやっちゃダメよ。そうね、今後は由美子が側にいるから、由美子がいる時しかやっちゃダメよ」
「は、はい。そうですね…」
「そうだ、二郎さんのお休みって、次の日曜まででしょ?」
「はい、次の日曜まで休みですが…」
「明後日には、飛行機で大阪よね?」
「今日は月曜だから、明後日水曜に大阪に戻って、早ければ木曜には行けるわね」
「ど…どこへ、行くんでしょうか?」
「お伊勢様よ!何度も言ってるでしょ!」
吉江さん、こ、怖いんですけど…
「行くわよね?」
「はい。行きます」
仁王立ちで言われたら拒否できません。
「じゃあ、桂子さんに連絡しとくから」
「はい。お手数をお掛けします」
「それで、『まだ』男同士の話は続けるの?」
「ちょ、ちょっと待ってください」
剛志さんと進一さんに、まだ話を続けられるか聞こうとして二人を見ると、いそいそと机やイスを片付けていた。
「あら。『もう』お開きにするの?パエリヤも出来たから、それを食べたら片付けね。ねっ、剛志さん」
「「はい。そのとおりです」」
剛志さんと進一さん。見事なハモリです。
「そうだ、二郎さん」
「はい。何でしょう!」
「『二人の』片付けを手伝ってね」
吉江さん、仁王立ちで言われ続けたら誰も逆らえません。
◆
テラステーブルでは、そっくりさん4人がパエリアを食べ終え、アイスか何かのデザートを楽しんでいる。
一方の里依紗さんとママ友、そして彼女が座ってるテーブルでは、恭平君とお友達がやはりアイスのようなデザートを食べている。
俺、剛志さん進一さんはパエリアを食べ終え、剛志さんと進一さんの3人でコンロを片付けをしようとしていた。
プルルル プルルル
あれ?スマホの着信音?
「はい。進一です」
ああ、進一さんのスマホか。
プルルル プルルル
あれ?また呼び出し音?
「はい。剛志です」
今度は剛志さんのスマホか。
「二郎君、すまん進一とやっててくれるか?」
「二郎くん、ごめん。父さんと…」
「大丈夫です。一人でも出来ますから」
そう返事する間もなく、二人とも俺に片付けを任せてスマホで話しを始めている。
一方の俺は、コンロの炭を火消し壺に入れて行く。
火消し壺まで準備しているとは、秦家はBBQに精通しているなと思える。
大学時代にBBQをした時に、炭の処分方法で議論していた連中を思い出す。
土に埋めれば自然に還ると言う連中と、炭は自然に還らないと一人が反対した記憶がある。
「炭って元が木なんだから土に還るんじゃないのか?」
「いやいや、炭は自然に還らない。炭と木は違う代物だよ」
「どう違うんだ?」
「木が土に還るのは炭素以外の成分が腐るからだよ。けれども炭は炭素が主成分で腐る成分が無いんだ」
「へぇ~」
「だから自然に還らない炭を埋めることは、土の中にゴミを埋めて捨てることと同じなんだよ」
「じゃあ、どうする?」
「このBBQ場の炭の処分方法を確認しよう」
「そうだな。そうしよう」
あの場では、最後のBBQ場の処分方法を確認しようが決め手となった。
後で自分で調べて、やはり炭は土に埋めても自然には還らないことがわかった。
それ以来、俺は『炭は土に還るから』と言う方々を説得する側に回った。
また炭の火消し方法もいくつか学んだ。
こうして火消し壺に入れて消化すれば、次回には使えることも学んだ。