15-13 エルフの娘
「うん、これ美味しいね」
「私が焼きました。味付けは塩とセンパイへの愛です(♥️」
秦さん。ハートマークが大きい気がします。
串焼き一本を食べ終えて、ようやく彼女が俺と繋いでいた手を解いてくれた。
俺がもう少し食べたいと言ったことで、彼女が喜んでコンロに向かってくれたからだ。
俺は串焼き一本を食べたが、未だに空腹感が残っているのは事実だ。
決して、彼女との手繋ぎを解きたかったからではない。
言い訳じゃないからね。
俺はイスから立ち上がり、自分の体調を振り返る。
意識を失くす前より、随分と体調が戻っているのがわかる。
まずは、話の途中で迷惑を掛けた保江さんと美江さんに謝りに行こう。
俺はテラステーブルに行き、京子さんを交えて談笑中のそっくりさん4人に声を掛ける。
「保江さんと美江さん。ご心配かけてすいませんでした」
「二郎さん、元気になった?」
「やっぱり由美子が元気の源?」
保江さんと美江さん。
ニヤニヤしないでください。
「保江、美江。二郎さんをからかっちゃダメよ。由美子の大事な人なんだからね」
「「はぁ~い」」
吉江さん。大きな助け船です。
「二郎さん。ごめんなさいね。保江も美江も、二郎さんが一郎さんや礼子さんに似てるもんだから舞い上がってるの」
「そんなに似てるんですか?」
「二郎さんは言われたことない?一郎さんや礼子さんに容姿が似てると言われたことない?」
保江さんと美江さんが、吉江さんの話に耳をそばだてる。
俺は記憶を辿ったが、両親に似ていると言われた記憶がない。
なぜだろうと思考を巡らす。
そして、一郎父さんや礼子母さんに似ていると、俺が今まで言われなかった理由に、それとなくだが思い当たった。
今の俺には、一郎父さんや礼子母さんと同年代の知人が居ないのだ。
整備工場のオヤジさんが頭に浮かんだが、俺はオヤジさんから一郎父さんや礼子母さんに関する話は聞いたことがない。
整備工場のオヤジさんもマクドの店長も、どちらかと言えばバーチャんとの繋がりが深い感じがする。
他に今まで、淡路島で出会った人達はどうだっただろうか?
ほぼ全てがバーチャんとの繋がりが深く、一郎父さんや礼子母さんの話題が出た記憶がない。
淡路島に住む彼らの中では、既に一郎父さんや礼子母さんの記憶が掠れた(かすれた)のだろうか。
それとも幼くして両親を亡くした俺への配慮だろうか。
「ねえ、二郎さんは言われたことない?」
「すいません。今の俺には、両親を知っている知人が皆無なんです」
「「なるほど!」」
保江さんと美江さん。見事なハモリです。
「センパイ。父さんと兄さんが呼んでます。お肉や魚は焼けたら持って行きますね」
実にタイミング良く、彼女が声を掛けてくれた。
「由美子、ありがとう」
俺はそう言ってテラステーブルを離れ、剛志さんや進一さんが手招きする大人の酒飲みテーブルに向かった。
後方では、吉江さんの『由美子、クネクネしない!』の声や保江さんと美江さんの笑い声が聞こえた。
◆
「二郎君、どうだ由美子の看病は(笑」
「ククク」
剛志さんも進一さんも、俺を肴に飲む気ですか?
「エルフの娘の看病は癒されるだろ?」
「ククク」
剛志さん。
俺を看病した彼女は、あなたの実の娘さんですよ。
「ワシも随分と吉江に助けられたよ」
「ククク」
剛志さん。やっぱり酔ってますね?
「父さん、良いかな。二郎くんの顔は何か知りたそうなんだ。そうだろ?二郎くん?」
進一さんが少し笑いながら剛志さんを制してくれた。
確かに俺は進一さんに聞きたいことがある。
彼女が口にした『魔力切れ(まりょくぎれ)』が何かを知りたい。
彼女が口にしたのだから、彼女自身から『魔力切れ』の意味を聞きたいのが本音だ。
だが、あの疲労は、俺が魔石を使った事で起きたのだと感じている。
魔石は『門』に関わることだから、彼女に聞くのは正直、躊躇った。
「進一さん、魔力切れって何ですか?」
「由美子に言われたんだね?」
「ええ、言われましたが『魔石』の…『門』に関わりそうなので、直接聞くのはやめました」
「二郎くん「合格だ!」二郎君!」
剛志さんも進一さんもハモリが微妙です。
「進一、二郎君がここまで配慮できるならワシは安心だぞ」
「父さん、僕も同じだよ。二郎くんなら由美子を『門』から守ってくれるよ」
「…」
「ハッハッハ」「ククク」
「ハハハ」
俺は乾いた笑いしか出せなかった。
「『魔力切れ』は、進一から話すか?」
「ああ、僕から話すよ」
「進一さん、お願いします」
俺はイスに座り直して進一さんの次の言葉を待った。
「そうだな、まずは二郎くんに『魔石』の作り方を確認するよ。昨日も言ったが『知識の共有』だ」
「作り方ですね。自分が知ってるのは『米軍の門』の記録で『魔石』を作ったと言う文章だけです。作り方の詳細は何も学んでいません」
剛志さんが俺の話を聞き、うんうんと頷く。
「魔石を充填する話は?」
「充填?米軍が核実験で鮮やかな色に変えた事でしょうか?」
「なるほど、二郎くんは魔石が鮮やかな色に変わる事は知ってるんだね?」
「はい、後は魔石と魔法円を繋いで『門』を開いた記述ぐらいで…」
そこでしばし進一さんが間を置いた。
「う~ん。じゃあ魔石の光が消える話は?」
「すいません。勉強不足で…」
進一さんの次の質問に、俺は答えられなかった。
「じゃあ、昨夜の酔い醒ましを思い出せるかな?」
「ええ、思い出せます。最後は壊してすいませんでした」
「魔石を壊した?!」
「ごめん、父さん」
「おお、すまんすまん」
剛志さんが割り込んできたが、進一さんがそれを制した。
けれども、剛志さんが割り込んだことで、俺は昨夜の魔石の状態を明確に思い出せた。
「昨日の夜、僕が魔石を渡した時、魔石は最初はどんな状態だった?」
「最初は魔石の中心に少し明かりがありました」
「酔いを醒ました後は?」
「中の光が消えてました」
ここまで話して、再び剛志さんが割り込んできた。
「そして最後は壊れたんだな?」
「ええ、砕け散った感じです」
再び進一さんが話を続ける。
「じゃあ、次は今日の魔石だ」
「ああ、わかってきました。最初はわずかに銀色でしたが、自分が疲れきった後は金色になってました」
「「……」」
「あれって『米軍の門』の記録に書いてあった『鮮やかな色に』と同じだって事ですね?」
俺がそう問いかけた時、彼女の声が聞こえた。
「センパイ。由美子の愛情で焼き上げました~(♥️」
由美子、今度はタイミングが悪いと思うよ。