15-11 保江さんと美江さん
「これ、増えてるね。それに僕が渡した時と違って金色だ。二郎くん、調べるから預かって良い」
「ええ。そもそもは、進一さんのですから」
注目の魔石は、無事に進一さんの元に帰ってくれそうだったが、実際は違っていた。
「じゃあ、正徳さん。お願いします」
進一さんは、俺が握っていた魔石をあっさりと正徳さんに渡した。
「おお、任せてくれ。明日の朝には結果を出せると思う。悪いけど今日はこれで」
「おいおい。俺も行くぞ、正徳さんが壊さないか見張らないとな」
そう言って賢次さんと正徳さんが席を立つ。
賢次さんと正徳さんは、吉江さんのそっくりさん二人に駆け寄り何かを話している。
俺はその姿を漫然と見ながらも、それぞれの仲の良さを強く感じた。
一郎父さんと礼子母さん。
二人が生きていれば、あのぐらいの年齢だろう。
夫婦は共に過ごした年月と過ごし方で、仲の良さが整うと聞く。
このBBQのような宴から、賢次さんと正徳さんは中座しようとしているのだ。
それを窘めつつも、『あなたは、いつもそうなんだから。はいはい、行ってらっしゃい。』と諦めつつも許容する様子を感じるのだ。
程なくして、二人が吉江さんのそっくりさんに手を上げて別れた後、俺と進一さんや剛志さんに手をあげる。
剛志さんと進一さんも手をあげると、二人で何かを話しながら高級住宅の庭の外へと出て行った。
進一さんに案内された二人の家(日本家屋)にでも戻ったのだろう。
だが、魔石を持ったままで戻るとは考えづらい。
それに調べるとか言っていたし…
「剛志さん、進一さん。あの二人は何処へ?」
「ハッハッハ」「ククク」
二人で笑ってないで説明をお願いします。
「賢次はさっき紹介したとおり、保江さんの連れ合いで、正徳は美江さんの連れ合いだ。賢次は『カネの当代』で正徳は『試しの当代』だよ。ハッハッハ」
剛志さん。もしかしてもう酔ってる?
それとも俺が疲れから理解できないのだろうか。
賢次さんは『カネの当代』と呼ばれているのは先ほど聞いたが、正徳さんの『試しの当代』って何だ?
「父さん、それじゃあ二郎くんには伝わらないよ。二郎くん、あの二人は叔母さんの旦那さんで、父と同じで僕を支えてくれる大切な人達だよ」
そう言って、進一さんから見れば義叔父である二人の役割について、話してくれた。
■秦賢次さん
吉江さんの妹、保江さんの婿さんで、魔石の販売に関わる管理をしているそうだ。
『国の人』に魔石を販売したり、他の門に魔石の販売をする際には、賢次さんが窓口になると言う。
魔石の販売に際しては、それなりの額になることから、他の門や『国の人』からは『金に煩い奴』の意味で『カネの当代』と呼ばれてると言う。
■秦正徳さん
吉江さん保江さんの妹、美江さんの婿さんで、魔石や門の研究をしているそうだ。
俺が知っている魔石の使い方である『門を開く』事や、進一さんが見せてくれた『酔い醒まし』『火を付ける』などの魔石を使った魔法の研究は、正徳さんがしていると言う。
また、ここからが驚いた。
正徳さんは、『門』から出てきた魔物の研究もしていると言う。
幾多の魔石の使い方を試していることや、魔物の研究もしていることから、他の門や『国の人』からは、『試しの当代』と呼ばれていると言うのだ。
なるほどと思いながら進一さんの話を聞き、この話で、俺は進一さんが『国の人』に魔石を販売していることに確証を得た。
そして、魔石で何が出来るかも調べ、魔石を使った魔法についても研究を進めていることが理解できた。
『門』から出てきた『魔物』に、一瞬の興味が湧いたが、見てみたいとかの掘り下げたい方向への思考が進まなかった。
やはりビール一杯では疲れが取れないのかと考えていると、いつの間にかやってきた吉江さんのそっくりさん二人から声を掛けられた。
「二郎さん?はじめまして、保江です。吉江姉さんから聞いたけど、桂子さんは元気そうね。それにしても本当に一郎さんにそっくりね」
「はじめまして、美江です。みんなは一郎さんに似てると言うけど、私は礼子さんに似てると思うわ」
彼女の叔母、吉江さんの妹さん達だ。
それぞれに一郎父さんや礼子母さんの名前を出し、俺が父や母に似ていると言う。
けれども俺は、この御二人の方が吉江さんに、そして京子さんや彼女に似ていると思う。
「保江さん美江さん。はじめまして。門守二郎です。末永いお付き合いをよろしくお願いします」
「ええ、吉江姉さんから聞いたわ。由美子の旦那さんでしょ?」
「二郎さんは、やっぱり桂子さんの後を継ぐの?」
俺は立ち上がり、二人(保江さんと美江さん)に挨拶すると、二人から怒涛の質問が襲ってきた。
「そうそう、お伊勢様には何時行くの?」
「由美子と同じ会社なんだって?」
「同じ会社?すごい巡り合わせ!」
「しかも同じ大学って本当?」
「そうそう、それもすごいなと思ったの」
「やっぱり一郎さんに似てるから由美子が惹かれたのかしら?」
「そう?私は礼子さんに似てるから惹かれたと思うけど?」
「あなたは礼子さん大好きだったからね」
「そう言う姉さんだって一郎さんに惹かれてたでしょ?」
「だって、一郎さん素敵じゃない」
「それを言ったら礼子さんも素敵よぉ~」
「そうね。礼子さんは女性なのに格好良かったわね」
「やっぱり姉さんもそう思うでしょ」
「そうね、当時に留学とか聞かないじゃない」
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この会話はいつまで続くのだろう。
吉江さんと美江さんの会話を聞きながら、俺は何処か逃げ道を探していた。
剛志さんと進一さんを見れば、二人ともイスに座ったまま、そ知らぬ顔で保江さんと美江さんの会話を聞いているだけだった。